こんな時代だから、若い子たちががんばれるアニメにしたかった! 劇場版『Gのレコンギスタ』完結に向けて、富野由悠季監督の言葉を聞く【アニメ業界ウォッチング第90回】

2022年07月30日 12:000

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大迫力のモビルスーツ戦を描いたアニメーターは、絵描きというより“役者”であった


── 先ほど、「リズム感が大事」という話が出ましたが、ステア(宇宙船メガファウナの操舵手)役のミシェル・ユミコ・ペインさんの声について。ステアが英語なまりのイントネーションで話すと耳に引っかかって、すごくいいテンポが出ますね。

富野 ミシェル・ユミコさんのことは偶然に知ったんだけど、日本のアニメ声優さんにはない声質だと、普通に話していてはっきりわかりました。ハスキーなんだけど、沈んでいないんです。ですから個人的に話をして、スケジュールのない中、なかば強引に出演してもらいました。今いる声優さんたちの中にミシェル・ユミコさんの声が入ることで、映画に句読点を打つことができて、とても助かりました。だけど、今回は制作状況のおかげで、すべての録音作業に立ち会ってもらえず、テレビ版で使えなかった音声まで再生して利用するという荒技を使いました。音響チームには手間をかけさせてしまったけど、そこまでしてでもミシェル・ユミコさんの声が欲しかったのは、僕の言葉でいうと声が“団子になってしまう”感じを避けたかったからです。

── ステアのハスキーな声もそうだし、宇宙空間のオーロラがきらめく音など、あちこちで音がリズムをつくっていました。

富野 そうした欠番にしてもいいような細かな効果音の配置にも、とても気をつけました。それを怠ると、セリフ続きになってしまうからです。

── そうした小さな積み重ねが、クライマックスの壮絶なバトルシーンへ連携していくんだと思います。

富野 あのシーンの作画は、僕からはほとんど指示を出していません。多少やりすぎだと思っているぐらい、アニメーターがノッて描いてくれました。勢いをもって作画しているので、モビルスーツ同士の戦いがキャラクターの肉付けにもなっていて、とても気持ちがいい。「アニメって楽しいよね」という気分。本来、演芸とか芸能って、そういうものですよね。そういう感覚をわかってくれるスタッフと仕事ができて、本当にありがたく思っています。

── あのバトルシーンは、富野監督が絵コンテを切っていますよね?

富野 そうですけど、僕は宮崎駿監督と違って「これだ」という決め絵を描けないんです。アニメーターがそこをわかってくれて、「だったら俺様が描く!」という気分が前面に出ています。アニメーターというより、役者のような感じで描いてくれました。芸能として、とてもいいことだと思います。

── モビルスーツが、キャラクターの衣装のように見えてくるんですよね。

富野 1、2、3とステップを踏んで動きを見せているから、そう見えるんです。段取りをちゃんと踏んでいないと、いくら描いてもそうは見えてきませんよ。

── 特に、マニィの乗っているジーラッハですね。「このモビルスーツが、こんな感情表現をするのか」と驚くような新作カットがありますが……。

富野 だけど、それは新作じゃないですよ。

スタッフ いえ、新作です。

富野 そうだっけ? あのね、僕がどのカットが新作なのかを大して意識していないのは、カットを適切に繋いでいくと、元々あった繋がりが“埋まっていく”感じがするからです。ひとつのカットだけ突出させるつもりはなくて、そこへ至る流れを考えてあるから、感情表現できるんです。つまり、もともとのキャラクターの動きがあるから、ジーラッハの動きが見えてきて、きちんと場面が繋がるわけです。


── モビルスーツが人型であることも、ちゃんと生きてきましたね。

富野 ロボットという“人”のおかげで(歌舞伎などでいう)見得を切れるし、演劇というか、舞台的なキャラクターたちを生かすことができました。だけど、僕はいちいち説明しなくても、アニメーターたちが自分の持ち場をよく理解して、みんな好き勝手に動かしてくれているんです。今回の『IV』で言うと、背景にいる宇宙船のクルーたち。テレビ版では、甲板の向こうにクルーがいないと、「あそこが無人じゃん……」と気になってしまって、カメラの手前にいるキャラクターの芝居に集中できなくなった。ドラマとかお話というものは人間社会でやっていることなので、カメラの手前さえ動いていればいいというものではないからです。今回は、背景にいるクルーたちが、当たり前のようにそれっぽく作業をしてくれています。僕は「このポーズで」なんて指示はほとんど出していないのに、アニメーターたちが自分の職分として、おのおの勝手に動きをつけてくれました。そのおかげで、カメラの手前のキャラクターたちの芝居を落ち着いて見ていられるようになったんです。アニメーターたちのすぐれた仕事で、本当に命拾いをしました。

── シリアスな絵柄でなく、漫画っぽいやさしいキャラクターなのも、あらためてよかったと思いました。

富野 『G-レコ』はメッセージ性としてシリアスな要素も含んでいるので、リアルな絵にすると作品が硬くなってしまうんです。吉田健一さんのキャラクターはもちろん、メカデザインの人たちにもすっとんきょうなフォルムのものをぬけぬけと描いてもらったので、全体が見やすくなっています。
「今のアニメ絵ってこうだよね」と、本能的にわかっている世代がデザインしてくれたおかげです。トミノ作品という呼び方もあるんだろうけど、決して僕ひとりの作品ではありません。まさか、この歳になってスタッフに心から「ありがとうございます」という気持ちになるなんて、思ってもみませんでした。50年ぐらい前の僕は、アニメのスタッフをナメていたから(笑)。

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