金子雄司さんが語る、デジタル化によって激変した“アニメーション美術監督の働き方”【アニメ業界ウォッチング第72回】

2020年12月19日 12:000
金子雄司さんが語る、デジタル化によって激変した“アニメーション美術監督の働き方”【アニメ業界ウォッチング第72回】

アニメーション作品の美術監督……と聞いて、どんな職業をイメージするだろうか? 大まかにいうと、キャラクター以外の背景を描く人、バックに描かれる建物や草木、空の色などを決めて作品の雰囲気を統括する人だ。だが、建物の形までデザインしているとは限らない。それでも、すべての背景は美術監督がコントロールしている。
数え切れないほどのアニメ作品が放送・配信・公開される中、どうすれば美術監督になれるのだろう? どうすれば美術監督として仕事を続けていけるのだろう? 最新の美術監督作「ジョゼと虎と魚たち」が今月12月25日から公開される金子雄司さんに、お話をうかがった。

デジタル化の余波で、職域が混沌となった2000年代アニメ業界


── 80年代までは、どの美術監督がどういう絵を描くのか明確で、作品が個性的だったと思います。

金子 今はデジタルならではの平均化された背景か、スタジオジブリや新海誠さんの作品のような手間をかけた背景のどちらかが主流かと思います。かつてはコバプロ系と呼ばれる小倉宏昌さん、大野広司さん、他のスタジオですと椋尾篁さん、中村光毇さん、金子英俊さん、たくさんの美術監督さんがそれぞれ自由に、まったく違った背景を描いていました。デジタル化によって、テクニカルな部分が細かくなりすぎてしまったと感じています。

── 作品によっては、BOOK(切り抜いた背景)が、極端に多い場合もありますよね。

金子 そうですね、素材屋さんとしての要素も強くなってきていると感じます。昔は、その画面に必要なものしか描いてなかったと思うのですが、今は「とりあえず必要になりそうな素材を、すべて用意しておいてください」と言われる場合もあります。「未来少年コナン」で、コナンが持ち上げる岩は最初からセルに描いてありましたよね。今はデジタル化によって、背景に描いた岩から作画の岩へシームレスに置き換えることが可能になりました、そうしたデジタル化の恩恵があるいっぽう、素材が増えて物事をシンプルに考えられなくなってきたとは思います。かつては作画監督と美術監督の役割が、はっきりしていました。しかし2005年以降ぐらいから、アニメの現場が段階的にデジタル化されてきてからは「美術の仕事はここからここまで」と明確に言い切れなくなっています。

── 美術設定と美術監督は、また別ですよね。

金子 現場をデジタル化する過程で、どこのスタジオも、従来のアニメの作り方を崩していった部分があると思います。その時期には、デザイナーさんが美術ボードを描いて、本番用の美術を描いている作品もありました。逆に、美術監督がキャラクターの色を決める場合もあり、飛躍的に自由度が上がったんです。「美術設定」として、外部のデザイナーさんに設定のみ発注するようになったのも、その時期からではないでしょうか。かつては、背景会社の中に美術設定だけやっている人がいる程度だったと思います。最近のアニメでは、美術設定として何人もの名前がクレジットされている場合があります。それは、単純に30分あたりのシーンが増えたからなんです。脚本をきっちり作ってイベントをまんべんなく入れるようになり、息抜きのような話数がなくなったんですね。そうすると、必然的にシーンが増えてしまうので、美術設定を多くの人に頼むことになります。昔は美術監督の描いたボードが来て、それに合わせて各カットの背景を描いていればよかった。そうしたシンプルな作業が減ってきているので、ウチ(美術スタジオ青写真)に入社したいと言ってくれる新人にも、「美術の仕事はわかりづらいよ」と念を押しています。

── 美術監督になりたい場合、どうすればいいのでしょう?

金子 一般的には、背景会社に就職して、美術監督のもとで修行していろいろなことを学んで、やがて全体を統括する美術監督になります。僕は最初、小倉工房という会社に勤めていました。背景を描く社員の仕事は完全に背景のみで横のつながりは乏しく、今にして思うと閉鎖的なところがありました。初めて僕が美術監督になった作品は「魔法少女まどか☆マギカ」(2011年 金子氏はテレビシリーズの第6話まで参加)で、当初は美監補佐でした。作業期間のあまりない作品だったので、美術補佐から美術監督へスライドしました。ですから、僕はかなり運がよかったとのだと思います。その次に美術監督を担当した作品は、吉浦康裕監督の「サカサマのパテマ」(2013年)でした。当時所属していた会社を退職後、人づてに吉浦監督と知り合う機会があり、監督から直接オファーしていただきました。


── すると、「まどか☆マギカ」には会社員として参加して、「サカサマのパテマ」からは会社を辞めて、フリーランスとして美術監督をするようになったんですね。

金子 そうです。「サカサマのパテマ」は、自分にってとっては大きな作品です。きちんとした専用のスタジオがあったわけではなく、現在のウルトラスーパーピクチャーズの中のOrdetのフロアを間借りしていました。当時のOrdetは、サンジゲンと一緒に「ブラック★ロックシューター」(2012年)を制作していました。「ブラック★ロックシューター」の美術も少し手伝ったりしながら、四畳半ぐらいのスペースで「サカサマのパテマ」班が作業していました。吉浦監督も作画監督も同じ一角にいて、美術は僕を入れて3人。同じフロアにトリガーの今石洋之さんの席があったので、知り合う機会ができました。そこで「リトルウィッチアカデミア」(2013年)、「キルラキル」(2013年)のお話をいただきました。当時の僕は、“駆け出しの新人美術監督”という感覚だったので、お試しで使ってもらえたのだと思っています。

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