こんな時代だから、若い子たちががんばれるアニメにしたかった! 劇場版『Gのレコンギスタ』完結に向けて、富野由悠季監督の言葉を聞く【アニメ業界ウォッチング第90回】

2022年07月30日 12:000

※本コンテンツはアキバ総研が制作した独自コンテンツです。また本コンテンツでは掲載するECサイト等から購入実績などに基づいて手数料をいただくことがあります。

アニメでジェンダー論を描いた『∀ガンダム』こそ、宝塚で舞台化すべき


富野 今日は、5本目(『V』「死線を越えて」)の話は、してもいいの?

── もちろんです。

富野 『G-レコ』はテレビ版ではバタバタとにぎやかにつくりすぎてしまったから劇場版5本にしたんだけれど、最後はロボット物で終わっていません。ちゃんと映画として終わっています。
つまり、テレビ版とは違うエンディングになっているんです。そういう形で終われたのは、僕ひとりの力ではありません。ドリカム(DREAMS COME TRUE)さんに「G」という曲で手伝ってもらって、これはイメージソングとして扱っていいものではないから本気で使い方を考えねばと、1年半ほど悩みました……いわば、自分に“外圧”をかけたわけです。
そのハードルを乗り越えるのが、本当に大変でしたが、5本目では、「G」をイメージソングのような付け足しではない使い方をしています。しっかり、映画らしく終わっています。そういう意味では、トミノさんって、意外と音楽の使い方がうまいのかもしれない。誰も誉めてくれませんけれど(笑)。

── ところで、富野監督は宇宙に行くためのロケットについては、ずっと熱心に勉強なさってましたよね?

富野 いえ、勉強はあまりしていません。小学5年生のときにロケット大好き人間になってしまって、大学の頃まではロケット工学に憧れていましたけど、ロケットのほとんどは燃料であって、乗り物なんかではないと気がついてしまったんです。燃料というのは爆発物で、ようするにほとんどが毒物なんです。その毒物を大量に燃やして、運べる荷物はほんの少し。それに気がついてから、すべての技術論に懐疑的になってしまいました。人工衛星の高度まで人を乗せていって宇宙へ観光旅行するなんていう計画があるらしいけど、やれるもんならやってごらんと思ってます。地球を2周もしたら飽きますから。『G-レコ』は宇宙モノに見えるだろうけど、宇宙開発全否定の話です。明るい未来を描いていないんですよ。


── 科学に対する疑念は、『G-レコ』のあちこちに出てきますね。

富野 だけど、ロケットのような物やロボットらしい物がたくさん出てくるので、誤解されてしまうかもしれません。あれはアニメだから見せているだけであって、実際にはできないことばかりなんです。なので、僕の作品を見て「リアル」だとか「戦争を知ることができました」などと話すのは、いい加減にやめていただきたいんです。

── 今回、『G-レコ』は歌舞伎っぽいと感じたので、同じように感じている人はいないかとネットを検索してみたら、『∀ガンダム』を舞台にすべきだと言っている人がいました。

富野 『∀』で個人的に気に入っているのは、ジェンダー論をやれたことです。「ロランが女装して何が悪い!?」って。何よりも、「お姫様が2人ともそっくりさんで、どっちがどっちかわからなくなってしまったから2人とも脱がしてみたいよね」という欲望が全開している『∀』が、僕は好きですね。それが『ガンダム』と何の関係があるんですかと聞かれたら、「あんまり関係はないんだよね」と言えてしまう(笑)。
だけど、ものすごく腹が立っているのは、宝塚(歌劇団)に『∀』を舞台化してほしいのに、まったくオファーが来ないんですよ。いったいどういうこと!? だって、『∀』のディアナ様の設定は、モロに宝塚を狙ったんですよ。ディアナ様とロラン君の女装姿が出てきて、どうして宝塚さんが来てくれないの!? (男性である)グエンを、女の子の俳優が演じてくれても全然かまわないんだよ。本気で、宝塚さんで舞台化してほしいと思っています。

── 富野アニメの中には、演劇的な要素があると思います。

富野 『∀』は『かぐや姫』や『とりかえばや物語』をモチーフにしていますから、僕の作品のなかでは一番演劇的と言えるかもしれません。是非とも『∀ガンダム』を宝塚さんで舞台化していただきたい。これだけ熱心に言うのには別の理由もあって、僕の先生(手塚治虫)が宝塚市の出身だからです。何より重要なのは、演劇人がアニメという題材に抵抗感を持たなくってきたという時代性があります。いま、『(風の谷の)ナウシカ』を歌舞伎でやっているんでしょう? アニメーションも、芸能の一員として仲間入りできたということでしょう。宝塚さんからオファーが来たら、即オーケーしますし、内容に注文もつけません。ただ、ちょっとだけ稽古現場を覗かせてほしい(笑)。


(取材・文/廣田恵介)
(C) 創通・サンライズ

画像一覧

関連作品

劇場版『Gのレコンギスタ V』「死線を越えて」

劇場版『Gのレコンギスタ V』「死線を越えて」

上映開始日: 2022年8月5日   制作会社: サンライズ
キャスト: 石井マーク、嶋村侑、寿美菜子、佐藤拓也、逢坂良太、高垣彩陽、福井裕佳梨、鷄冠井美智子、中原麻衣、中井和哉、小清水亜美、子安武人
(C) 創通・サンライズ

劇場版『Gのレコンギスタ IV』「激闘に叫ぶ愛」

劇場版『Gのレコンギスタ IV』「激闘に叫ぶ愛」

上映開始日: 2022年7月22日   制作会社: サンライズ
キャスト: 石井マーク、嶋村侑、寿美菜子、佐藤拓也、逢坂良太、高垣彩陽、福井裕佳梨、鷄冠井美智子、中原麻衣、中井和哉、小清水亜美、子安武人
(C) 創通・サンライズ

劇場版『Gのレコンギスタ III』「宇宙からの遺産」

劇場版『Gのレコンギスタ III』「宇宙からの遺産」

上映開始日: 2021年7月22日   制作会社: サンライズ
キャスト: 石井マーク、嶋村侑、寿美菜子、佐藤拓也、逢坂良太、高垣彩陽、福井裕佳梨、鶏冠井美智子、中原麻衣、鷄冠井美智子
(C) 創通・サンライズ

劇場版『Gのレコンギスタ II』「ベルリ 撃進」

劇場版『Gのレコンギスタ II』「ベルリ 撃進」

上映開始日: 2020年2月21日   制作会社: サンライズ
キャスト: 石井マーク、嶋村侑、寿美菜子、佐藤拓也、逢坂良太、高垣彩陽、福井裕佳梨、鷄冠井美智子、小山剛志、姫野惠二
(C) 創通・サンライズ

劇場版『Gのレコンギスタ I』「 行け!コア・ファイター」

劇場版『Gのレコンギスタ I』「 行け!コア・ファイター」

上映開始日: 2019年11月29日   制作会社: サンライズ
キャスト: 石井マーク、嶋村侑、寿美菜子、佐藤拓也、福井裕佳梨、逢坂良太
(C) 創通・サンライズ

OVERMAN キングゲイナー

OVERMAN キングゲイナー

放送日: 2002年9月7日~2003年3月22日   制作会社: サンライズ
キャスト: 野島裕史、かわのをとや、小林愛、鬼頭典子、子安武人、水城レナ
(C) SUNRISE・BV・WOWOW

∀ガンダム

∀ガンダム

放送日: 1999年4月9日~2000年4月14日   制作会社: サンライズ
キャスト: 朴璐美、福山潤、渡辺久美子、村田秋乃、高橋理恵子、鬼頭典子、佐藤せつじ、青羽剛、稲田徹、中西裕美子、川津泰彦、子安武人
(C) 創通・サンライズ

ログイン/会員登録をしてこのニュースにコメントしよう!

※記事中に記載の税込価格については記事掲載時のものとなります。税率の変更にともない、変更される場合がありますのでご注意ください。

関連記事