新作アニメ作品を制作中の梅津泰臣が語る「これまで」と「これから」【アニメ業界ウォッチング第85回】

2021年12月25日 11:000

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富野由悠季の「ガンダム」シリーズ、そしてスタジオジブリ作品との意外な接点


── 「機動戦士Zガンダム」(1985年)のオープニングを作画した話は以前に聞きましたが、梅津さんは「機動戦士ガンダム 逆襲のシャア」(1988年)にも原画で参加していますね。どのシーンを担当したのですか?

梅津 まず、ファーストガンダムにもあったララァが死ぬ回想シーン、シャアがガウンを着てナナイと話すシーン、それと老婆が電車の中でシャアに花を渡すシーン。最初の打ち合わせで、「今のアニメーターは外国人というと、手癖やイメージで描いてしまう。だけど、この電車の中のシーンではいろいろな人種がいることをちゃんと描き分けてほしい」と強調されました。

── すると、電車の中のモブキャラたちは梅津さんのデザインなのですか?

梅津 そうです。雑多な人種が混じって見えるように、自分なりに考えながら描きました。「逆襲のシャア」のプロデューサーの内田健二さんとは親交があったので、僕の資質を考えて依頼してくれたのかもしれません。

── 同じ年に公開された「火垂るの墓」(1988年)にも、原画としてクレジットされていますが、どのシーンを描いたのですか?

梅津 節子が死んだあと、部屋でレコードが回っているシーンです。高畑勲監督がレコードの回転数にこだわって、地味ながら大変な作画でした。最初に高畑監督と会ったとき、「ロボットカーニバル」の「プレゼンス」を鈴木敏夫プロデューサーから見せられたそうで、いろいろと質問されました。「ああいう演技は、何かを参考にして描いたの?」「どういう思想でドラマを発想したのですか?」と聞かれたのですが、何かを見透かされたようで大いに緊張してしまい、「写真集のある一場面がモチーフになっています」と答えるのが精一杯でした。テーマの根源を上手く説明できなかったのは、若さゆえでしょうかね(笑)。だけど、高畑監督のやりたい作画の方向性と、「プレゼンス」の作画アプローチが鈴木プロデューサーからすると「火垂るの墓」にマッチすると思えたんじゃないでしょうか。
その後、「おもひでぽろぽろ」(1991年)のときにも、声をかけてもらえました。話を持ってきたのは「火垂る~」のときと同様、鈴木プロデューサーだったのですが、今度は「火垂る~」「ぽろぽろ」のキャラクターデザインと作画監督を担当した近藤喜文さんが「梅津君に声をかけてほしい」と指名してくれたそうで、光栄に感じました。「赤毛のアン」で近藤さんのファンになったので、ご一緒したいと思っていました。鈴木プロデューサーとは「僕は日常芝居を描きたい」「大丈夫、日常芝居ばかりのアニメだよ」といった会話を交わしたのですが、ほかの先行している仕事があって、「ぽろぽろ」には参加できませんでした。

── 完成した「火垂る~」「ぽろぽろ」をご覧になって、どうでしたか?

梅津 高畑監督ならではの手法が細部まで行き届いていて、やはりすごい、素晴らしいなと思いました。だからこそ、鈴木プロデューサーに呼ばれて参加した意味を刻めるシーンを描きたかった。もちろんレコードであってもていねいに、一生懸命に描いたけど、キャラクターも描きたかったですね。「ぽろぽろ」に参加できなくなったので、鈴木プロデューサーから「だったら、『紅の豚』やらない?」と誘われたのですが、宮崎駿さんの作品は観客として見ていたい。僕の知人がずっとジブリ作品に参加していて、いろいろ聞いていたので、及び腰になってしまって(笑)。高畑さんの作風のほうが、当時の僕の指向性と合っていたと思います。
印象的だったのは、鈴木プロデューサーが本当に高畑さんを信頼して尽力しているんだな、と感じられたこと。その鈴木プロデューサーの気持ちに答えるだけの余裕が、あの頃の僕にはありませんでした。

── その前後、川尻善昭さんにも影響を受けたそうですが?

梅津 影響というより、レイアウトのとり方を教えてもらいました。それまでずっと自己流でやってきたのですが、パースやアイレベルを意識的に考えて捉える癖を教えてくれたのが川尻さんでした。僕がマッドハウスにいた時期は、上手い人が大勢いましたね。森本(晃司)、河口俊夫、うつのみや(理)、大塚伸治さんたち……。うつのみやさんは線を省略しながら、どれだけリアルタッチに描けるかを研究していて、初めて彼のスケッチ画を見たときは衝撃を受けました。今でも上手いし、尊敬しています。彼ら上手いアニメーターたちの存在は、とてもプラスになりました。

── その後、梅津さんはタツノコプロ作品のリメイクOVAで、キャラクターデザインをしますよね。最初が「キャシャーン」(1993年)、次が「GATCHAMAN」(1994年)、最後に「新・破裏拳ポリマー」(1996年)でした。

梅津 その3本はキャラクターデザインだけでなく、作画監督もやりました。専門学校時代の担任の先生が、最初の「科学忍者隊ガッチャマン」(1972年)の原画を描いていて、吉田竜夫さんの生原画などを見せてもらったことがあります。タツノコ作品は大好きだったから、眼福というかウットリしました。ですので、リメイク版のオファーが来たときはうれしかったです。
ただ、制作プロダクションはタツノコではなくて、3本とも異なります。「キャシャーン」と「GATCHAMAN」は監督からタツノコへの愛情を感じられなかったので、「新・破裏拳ポリマー」は新房(昭之)さんに監督をお願いしました。新房さんとは、OVA版の「それゆけ!宇宙戦艦ヤマモト・ヨーコ」(1996年)で一緒に仕事をして、タツノコファンであることを知っていましたから。だけど、それ以上に、タツノコプロから「梅津さんの絵はエロすぎる」と言われたことが問題でしたね……(笑)。

── 確かに、女性キャラの胸が揺れたり服が破れたり、いろいろありましたね。

梅津 「家族みんなで安心して見られる」というのがタツノコプロのポリシーなのに、「こんなエロ芝居が多くて、うちの大事なキャラクターに何してくれるんだ」という受け止め方だったと思います。「GATCHAMAN」で暴走し、「ポリマー」でようやく落ち着いてきたのですが、おおいに反省しました。しかし、もともとタツノコの女性キャラたちは色っぽくて、他社作品とは明らかに違っていましたよね。当時、小学校高学年~中学生だった僕には、とても刺激的なキャラクターたちでした。

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