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安全パイではなく、未知のもの、触ると火傷するような危険なものに触れてみたい
── 梅津さんの名前を強烈に印象づけたのは、その少し後に監督した「A KITE」(1998年)と「MEZZO FORTE(メゾ・フォルテ)」(2000年)ではないかと思うのですが? 梅津 「A KITE」の少し前に、「YELLOW STAR」(1996年)という18禁アニメの原作と絵コンテ、キャラクターデザインをやりました。自分では監督せず、制作プロダクションにお任せしたところ、諸般の事情でクオリティに満足できませんでした。「YELLOW STAR」はシリーズ化されている18禁アニメの中の1本で、特に期待されていたわけではなかったんですが、ヒットしてしまったんです。印税は入ってきたけど、たとえ18禁アニメでも、自分の納得するクオリティの作品で売れたいと思いました。その後、また18禁アニメの話が来たので、ドラマに少しだけエロティシズムを入れた「A KITE」の企画を出して、自分で監督したんです。それが海外にも売れて、アメリカで「カイト/KITE」(2014年)として実写映画化されたし、「MEZZO FORTE」と「MEZZO -メゾ-」(2004年)も実写化の話が来ました。「A KITE」は、いまだに続篇やコラボ商品の話が来ていて、来年なにか発表できるかもしれません。だけど、18禁アニメで話題になり注目されてしまったので、「梅津はエロ」というイメージができてしまって、戸惑っています(笑)。いまだにファナティックな海外のファンからメールが届いたりして、うれしいですけどね。
── 確かにエロいけど、髪形や服装が都会的でお洒落なのが魅力なのではないでしょうか。 梅津 ファッション雑誌を片っ端から見たり、あとは渋谷の雑踏を望遠カメラで撮ってみたりしました。当たり前ですが、ファッションは十人十色です。大衆ブランドの服は似た組み合わせを見かけますが、街や場所によって服装のテイストも変わります。アニメ特有の着たきりすずめが嫌なので、衣装はなるべく多様にしたい。キャラクターの存在感をリアルにして、親近感を持ってもらいたいわけです。そのいっぽうで、服装もキャラクターのアイコンに含めたい気持ちも、作り手として理解はできます。私服を毎回変える手間は大変ですし、近年のアニメで制服を着たキャラクターが多いのは、そんな理由もあるでしょうね。原作・監督をした「ウィザード・バリスターズ~弁魔士セシル」(2014年)のキャラクターファッションも、こだわりの苦心作です。
── 学園アニメではないかもしれませんが、「傷物語」〈I 鉄血篇〉(2016年)、「傷物語」〈III 冷血篇〉(2017年)で原画を描いていますよね。どのシーンの原画を描いたんですか? 梅津 〈I 鉄血篇〉は地下鉄で暦がキスショットに嚙まれながら倒れるシーン、〈III 冷血篇〉では広いグラウンドで会話するシーンです。アクションも面白そうでしたが、ほかにオープニングやエンディングの仕事があったので、迷惑をかけない範囲にとどめました。だけど、監督の尾石(達也)君には哲学と寛容性があって、彼と話すのは面白かったです。個人的にはキャラクターの影を抜くよりは、テレビの「化物語」のテイストが好きでした。尾石君が「傷物語」で試みた「化物語」からの変化は賛否あるだろうけど、僕は支持したいですね。
── 尾石さんにインタビューしたことがあるのですが、アニメの話よりもジャン=リュック・ゴダールの映画や建築の話ばかりでした。 梅津 演出や監督を生業にしていれば映画やドラマ、演劇、音楽、文学、建築、触れ合わねばならない要素はたくさんありますから、それは必然だと思います。いろいろなことを知って学ばないと、世界観を構築できません。それと、発想力とアレンジ力です。僕が20代前半の頃、富野監督からは「何事も経験が大切」と言われました。りんたろう監督は「アニメばかり見ていてはダメ。いろいろなジャンルのものを見なさい」と言っていました。
僕はもともと、大人が見るようなドラマを少し背伸びして見るような子どもでした。小学生高学年から中学にかけても、「太陽にほえろ!」「木枯し紋次郎」「必殺仕掛人」などのドラマに夢中でした。大人から「子どもは見ちゃダメ!」と言われるようなドラマにはまってしまった。その感覚は今も心の奥に残っていて、何か危険なもの、反モラルな作品に惹かれます。
「ガリレイドンナ」(2013年)や「ウィザード・バリスターズ 弁魔士セシル」は長年、温めていた企画だったけど、プロデューサーからは「梅津さんといえば『A KITE』でしょう?」と言われました。「反モラルな作品をつくる人とカテゴライズされているなあ……」と思いましたけど、それ以外のモチーフやテーマが沢山あるから、企画として立ち上げるわけです。あとは、その作品が商業的な価値を見出してくれるかどうか。まだ解禁前なので詳しくは話せませんが、今つくっている新作は、かなり原点回帰していています。
── ほかに、やってみたい作品はありますか? 梅津 原作物なら「ポーの一族」、それと、「ルパン三世」をやりたいんです。僕が好きだった「ルパン三世 ルパンVS複製人間」(1978年)は原作の香りがするし、モンキー・パンチ先生のテイストでアニメ化したい。不二子ちゃんには、知的で危険で妖艶な美女でいてほしいんです。そしてルパンは犯罪者で、裏社会の人間であることを忘れてほしくない。エンタメというビジネスルールに染まりすぎているルパンは、見たくないんです。やっぱり僕は、触ると火傷するような危険なものに触ってみたい。未知なものに触れてみたいんです。
(取材・文/廣田恵介)