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「こんな細い足で、よく今まで立っていられたものだ」……と、かつてを振り返る
── どうして、巨大ロボットばかり作っているのですか? タンゲ ロボットの顔を若者顔ではなく、なぜか年配のオッサンのようにしっかりした顔に作りたくて。考えてみると、自分はロボットを操縦したいのではなくて、そこに居るだけで背中を押してくれる頼もしい存在であってほしいんです。なんかこう、ずっと家にいなかった「父親」か「師匠」のようなイメージを巨大ロボに求めていたことに、最近になって気がつきました。ゲッターロボは多面体や半円のような抽象的な顔をしていますよね。人間顔のヒーローよりも、逆に自分の気持ちが入りやすい気がします。
── コン・バトラーVは顔面になる戦闘機と胸になる部分、足になる部分……とパーツ単位で完成させていく作り方でしたね。 タンゲ コン・バトラーVは、五つのプラモを合体させる商品でした。「子ども時代に手に入れた順番通り」に、作りたかったからです。最初に顔と足首が発売されたので、それを作ってから次に胸、……という感じで。全体ができてダメだったら、また壊して作り直すだけです。
貧乏画学生時代、私はキッチリ計画を立て「何時間この作業をすれば、この絵は何日で完成する」という職人的な考え方をしていました。すると、「そんなやり方では絶対に芸術は理解できない!」と、友人に指摘されました。彼の絵の描き方は滅茶苦茶で、無駄な時間と無駄な絵の具を使ってばかりで、ちっとも完成しないんです。昨日は黄色だった絵が今日はピンクで塗り潰されていて……。でも、「黄色にしたからこそピンクが一番だとわかった」ので、「この工程は無駄でも、ちゃんとした意味がある」と彼は言うんです。「計画通りに進めたら計画通りにしかできない。そんなの面白くもなんともない!」……説得力がありましたよ。そう、プラモデル作りだって、計画表は必要ありません。「無駄は自分にだけの価値」です。でも今の主流の考え方は、なるべく短期間で少ない工程で、できればお金ももらえて「いいね」がいっぱい付くことでしょうか。それはこの世界にとっては重要なんだろうけど。私がプラモデルを作るのは、自分で作ったものに自分でびっくりしたいだけなんですよ。
── 少なくとも、お金にしたくてプラモデル作りをしているわけではないんですね。 タンゲ 私はある事業で商品を作り、かなり大きな金額を稼いでいた時期があります。その頃、仕事で付き合いのある女性に「文句ないでしょ、有名になってお金も入るんだから我慢しなさいよ!」と言われて、とても腹が立ったことがあるんです。「金を稼いだら稼いだで、世界はまたしてもこれか」……という気持ちでした。
── その人の言う「我慢しなさい」とは、どういう意味でしょう? タンゲ つまり、「お客様の注文どおりの商品を作って、それで満足していなさい。ほかの売れもしないガラクタ作りは我慢しなさい」ということです。でもよく考えれば、世の中の人たちは有名になってお金儲けしたいのだから、彼女の言ったことは何も間違ってないんですよね。でも、私には違和感がありました。人生はあまり長くないのだから、誰にも求められていなくても、自分の本当にやりたいことに時間を使うべきでしょう。「人造人間キカイダー」のストーリーの元にもなった「ピノッキオの冒険」は読んだことありますか?
── いいえ、ディズニーアニメ「ピノキオ」の原作本ですか。木の人形が命を得て、最後には生身の人間になるんでしたよね? タンゲ そうです。でも、ラストがアニメと違ってるんです。もちろん人間にはなれるのですが、木の人形は最後まで残ったままなんですよ。そして、人間になったピノキオが「冒険を経てボロボロになった今までの体と対面する」という、なんとも言えないシーンがあるんです。力なく転がっている、かつての自分の姿に「こんな細い足で、よく今まで立っていたなあ」と、昔の自分をさげすむでもなく、とくに喜ぶでもなく淡々とつぶやくんです。そういう意図で書かれたシーンではないと思いますが、50代にもなると、かつては何の力もなかった自分を少しねぎらいたい気持ちになります。プラモデル作りは、自分の幼少期の記憶と結びついています。昔のロボットが好きな人たちは無限に集めていつまでも作っていたいのかもしれませんが、私が思い入れのあるプラモデルは数えるほどです。子どものころにやりたくてもできなかったことは、だいたい終えることができました。昔のプラモデルを、貧弱な木の人形だったピノッキオになぞらえるわけではありませんが、いま置かれている自分の状況を総括すると、「ピノッキオの冒険」のラストシーンを思い出してしまうんですよ。
タンゲアキラ Twitter
https://twitter.com/conan_dai_suki (取材・文/廣田恵介)