70年代ロボの再生に重ねる、我が人生と人の世と……。鬼才のプラモデル作家、タンゲアキラさんに会ってきた【ホビー業界インサイド第83回】

2022年08月13日 11:000

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「私の生きているこの現実世界は、私が何をしようと必ず否定してくる」という思い


── タンゲさんは美少女フィギュアやドールも作っていて、なかには「ガンダム少女」のような強烈な作品もありますよね。

タンゲ あれはガンダム女体化ですが、男性が思い描くような女体への興味とは、ちょっと違うように思います。美少女フィギュアを作っておいて「女に興味なんかない」なんて言うと、変に誤解されてしまうかもしれませんが……。

── タンゲさんの作品の中には「機動戦士ガンダムZZ」のプラモデルも、かなり作りこんだものがありますよね。ガンプラはどう思いますか?

タンゲ ガンプラに限らず、今のプラモデルは必ず最後まで組み立てられますよね。作り方も、ネットに書いてあります。手と頭を使った、軽い体操のような趣味だと思います。それはそれで正しいし、別にバカにしているわけではないですよ。私の場合はプラモデル関係の知り合いはいないし、市販のハウツー本も見ていません。誰も知らないところで独自に進化してしまった深海魚のようなものです。そういう意味では知らない人が私の作品を見たら驚くかもしれないけど、よく見るとたいしてうまくないんです。一流のモデラーさんが私の作品を直接見て、「あ、楽しそうに作っていますね」とおっしゃって(笑)。見る人が見ると、たいした技術は使っていないのだとわかるんでしょうね。

── タンゲさん自身は、ほかの人と差をつけようと意図しているわけではないんですか?

タンゲ プラモデルは自分のためだけに作っているので、他人と比べてどうかなんて一番興味のないことなんです。私はこの世界があまり好きではないので、そういう人間の作ったものが愛されないのは当たり前だという気もします。そういう意味では、人に見せる前提の作品と自分のための作品とは分けるのがエチケットなのでしょう。


── しかし、ライターのおおこしたかのぶさんのように、タンゲさんの作品を認めて雑誌に取り上げる人もいるわけでしょう?

タンゲ 作った物を載せるのはかまいませんし、編集の方向性も尊重します。好きなように料理してかまいません。「古いプラモデルを作ることに人生を捧げ、命を削っている男」という雰囲気の記事にしたいと言うなら、それもいいですよ。

── 確かに、命を削って作っているように見えます。

タンゲ 私の家庭は、両親が離婚していたわけではないのですが、ずっと父親がいませんでした。あまりに女性陣が強い家なので、居つかなかったんですね。その父親は30年ぐらい前に亡くなって、母も祖母も亡くなって姉だけが生きてますが、その姉にも子どもの頃から「ヘンな絵ばかり描いて友だちのいないアンタなんか将来、貧乏で野垂れ死にだ!」とひどいことを言われつづけました。まあ、今ではその姉のほうが貧乏なのですが。
命を削って何かを表現したいと言うより、いま考えると、物を作ることで精神的に助かりたかったんです。家庭でも学校でも「私の生きているこの世界は、どうせ私が何をしようと必ず否定してくる」と思いこんでいましたから……。

── どうして、70年代の古いロボットアニメのプラモデルを作るようになったんですか?

タンゲ 「何をしても否定してくるこの世界なんか知ったことか」というあきらめの気持ちもあるのですが、心のどこかで、「アイゼンボーグのように世界を編集しても良いんじゃないか?」という期待もあるんです。私は水彩画を描いていた時期があるのですが、水彩って一瞬でも迷うと失敗してしまうんです。でも、プラモデルは失敗しても、ゆっくり時間をかけて何度もやり直せば必ず完成します。「無理だよ、完成しないよ」という人もいるかもしれませんが、絶対にできます。手順を考えて、しっかり段階を踏んで、間違ってもまたやり直せば、必ず思った以上の所へまで到達できます。イヤな人生のあれこれをやり直して編集したい、という気持ちが根底にあるんです。子供時代のわだかまりを「成仏」させるには、プラモデルが私には合っていたんだな……と気がついたのは、つい最近のことです。

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