ホビー業界インサイド第18回:フィギュアショップの提案する、造形作家とファンとの幸福な出会い 豆魚雷・原田プリスキンインタビュー!

2016年12月10日 12:000

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プラモデルや完成品フィギュアなど、我々が手にする機会の多い立体物は、工場での大量生産にマッチするよう設計されている。そうではなく、少量でもいいから、造形作家の作ったとおりの立体物を、作家自身が仕上げた完成品を届けたい――そんな一途な想いから始まったのが、「豆魚雷」の展開する「Amazing Artist Collection(アメージング・アーティスト・コレクション)」だ。
キャラクター人気に関係なく、作家が心から作りたいと思った造形物を、作家本人が組み立て・塗装し、本当に欲しい人だけが買っていく。ここまで贅沢な試みが実現した背景とは……? 株式会社 豆魚雷のアートディレクター、原田プリスキンさんに聞いてみた。


限定1個でもいいので、すぐれた造形作品を知ってほしい


──Amazing Artist Collection(アメージング・アーティスト・コレクション、以下AAC)は、どのようなキッカケで企画されたのでしょう? 豆魚雷さんは、国内外のフィギュアやスタチューを販売する小売店という印象が強いのですが……。

原田 もちろん、豆魚雷といえばフィギュアショップという印象が強いと思います。ただ、AACを始めた2013年頃から特に、型にはまらずに他のショップとの差別化をはかれないだろうか?という意識が、社内に強くありました。そんな中から、トークイベントやアーティストさんをお招きしたサイン会といった企画を行うようになったのですが、AACもそうした「他店との差別化」の一環としてスタートしたのです。

──しかし、豆魚雷のお客さんは完成品フィギュアを買っているわけで、レジン製組み立てキットなどには関心が薄いのではありませんか?

原田 確かに、弊社のお客さまは、特定のキャラクターのファン、完成品フィギュアを好む方が多いです。店頭に立って販売に関わっていた時期があるのですが、完成品フィギュアを買われる方の中には「えっ、フィギュアの原型って、粘土で形をつくっているんですか?」と、製造過程をまったくご存じない方もいらっしゃいます。ですから、まずは完成品フィギュアに親しんだお客さまに、作家が自由に造形して作品をつくる世界があるんですよと、ご紹介したい気持ちが強くありました。
2013年冬のワンダーフェスティバルで、のちにAACの第1弾となる「マーダちゃん」と出会いました。作者は、ケサランパサランというブランドを展開している雅隆ローランさんです。「マーダちゃん」のレジンキットを見たとき、とても衝撃を受け、すっかり魅了されました。心を奪われましたね。このままキットという形だけで終わらせるのは、あまりにもったいない。なんとか商品として販売できないだろうか……と思案しました。しかし、量産するとなると値段的に折り合わないわけです。


──レジンキットを組み立てて、色まで塗るとなると、たいへんな手間と時間がかかってしまいますからね。

原田 だけど、雅隆ローランさんはご自分でキットを組み立てて、塗装して販売することもされていたんです。副業をもたず、商業品にもほとんど関わらない、孤高の鬼才なわけです。豆魚雷のお客さまに、そんな雅隆ローランさんの存在を知ってほしい。だったら普通の商品とはきちんと見せ方を変えつつ、でも、他の商品と同じ通販の感覚で購入していただける枠組みを作ろう。というところから自然に、AACというプログラムの流れができあがっていきました。

──しかし、作家さんがキットを組み立てて塗装するとなると、かなり負担になりませんか?

原田 量産するという側面から見れば、ハードルが高いのは確かです。「そこまでは手間をかけられない」と、作家さんからお断りされたケースもあります。しかし、私はすごい造形の作品を、ふだん完成品を買っていらっしゃるお客さまに見せたいわけです。ですから、なんとかして完成品を仕上げていただきたいのですが、極端な話、限定1個だけ販売するのでも構いません。なぜなら、AACには儲けようなどといった発想はなく、他のショップにできないことをやろうというのが企画の根本だからです。作家さんのことを伝えるためにインタビューをして、紹介文を書き、自分で特設サイトを作って……ということをやっています。「せっかくフィギュア業界に身をおいているのに、こんなに素晴らしい作家さんたちの作品に関われないのは、不幸せだ」とさえ思っています。

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