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重厚長大な「20世紀の宇宙」を払拭し、小さい宇宙を描く
── 小さな宇宙ステーションの内部という限定的な空間が舞台ですね。 磯 登場する宇宙ステーションは直径400メートルで、最初に考えていたものよりは大きくなりました。大きい宇宙ではなくて小さい宇宙を描きたかったのですが、「最低でも半径200メートルはないとダメ」とあちこちから言われました。頭とつま先で体にかかる重力が違うと、気持ち悪くなってしまうんだそうです。20世紀までの宇宙ステーションは重厚長大で鋼鉄でできているようなイメージですが、今回はインフレータブルといって布を風船のようにふくらませた宇宙ステーションです。そのほか、大きなカニが付いていたり変なところがあるのは、すべて商業施設だからです。
── 宇宙遊泳が、ひとつの見せ場となっていますね。 磯 「スター・トレック」でカーク船長を演じたウィリアム・シャトナーさんが、昨年、民間の宇宙船に乗りました。以前よりずっと短時間の訓練で、誰でも宇宙に行ける時代が近づいています。この作品ではプロだけではなく、そんな素人でも行けるレベルの宇宙を描きたいと思いました。劇中にEVA(船外活動)屋さんが出てきますが、スキューバダイビングのお店をイメージしました。宇宙遊泳イコール訓練、宇宙はプロだけの行く世界で素人はお断り……という設定では、20世紀の宇宙になってしまいます。「20世紀の宇宙」、つまり過去の宇宙物の古いイメージを払拭したくて、いろいろと新しい要素を入れてみました。たとえば、コンビニ、インターネット、ユーチューバーが出てくるあたりです。
── ちょっと気になったスタッフは、イラストレーターのイリヤ・クブシノブさんです。絵コンテとしてクレジットされていますね。 磯 イリヤはまだ若くて日本語も堪能で、「若いうちに勉強して技術を身につけたい」と考えていて、最初は作画で参加希望でした。自分の世界を確立しているイラストレーターだから、他人のキャラクターは描きにくいのでは……と懸念しましたが、イリヤは「ちゃんとキャラクターデザインに似せられますよ」と絵を描いてアピールしてくれて。それぐらい、彼は本気だったんです。そこで、たまたま絵コンテが足りていなかったので彼に書いてもらおうと声をかけました。
── イリヤさんの絵コンテは、どうでしたか? 磯 第2話という重要な回だったのと、初コンテということもあってかなりなおしてしまいましたが、おそらく逆の立場だったら、イリヤも私の絵コンテを全部なおしていたと思います。絵コンテは、映像をつくるための道具にすぎないので、自分でつくりたい映像が頭にあって、その設計図として描くものなんです。彼は自分のイメージを持っている側のクリエイターなので、彼自身の作品なら、パーフェクトなものを今すぐ描けると思います。
── 監督としては、イメージどおりのビジュアルを構築できましたか? 磯 ストーリーを数珠つなぎにしていくと、なかなか無重力や宇宙遊泳にたどりつかないので、入れられなかったシーンもいっぱいあります。本作はSF(サイエンス・フィクション)というジャンルに分類されてしまうと思いますが、あまりサイエンス縛りにはしたくないんです。SFが生まれた頃のサイエンスは、何でも夢をかなえてくれるファンタジーに近かったと思いますが、今のサイエンスは、教科書で教える真面目なものになってしまった。SFを名乗ってファンタジーをやると怖い人たちに怒られてしまいますので、サイエンスという言葉は外してもいいかもしれません。魔法だろうとSFだろうと、私が求めているものは同じで、不思議なものを見てワクワクしたいだけなんです。重要なのはSFかどうかではなく、面白いかどうか。そういう意味では、個人的に「地球外少年少女」がSFだとは思っていません。