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【2019年】 主な人気作、話題作:「鬼滅の刃」「僕のヒーローアカデミア」「Fate/Grand Order -絶対魔獣戦線バビロニア-」など
この年は、中国で上映される日本の劇場版アニメ作品が増え中国のオタク界隈でも何かと注目を集めていましたが、興収や話題性などに関しては当たりと外れがハッキリと分かれていた模様です。
またオタク関係に限らず中国のコンテンツ業界の景気の減速が目立つようになり、一時期のような派手な話は減っていった時期でもあったようです。
人気のアニメ作品に関しては「鬼滅の刃」が中国でも配信され、新作アニメ期間以降も再生数を稼ぎ続け2021年には7億を超えるという、これまでにない数字を叩き出すことになります。それからこの頃になってくると人気アニメの話題がよくも悪くも広い範囲に拡散するようになり、オタク層だけでなく、一般層の好みに合うことによっても数字が大きく伸びるなど、人気の出方の変化がいよいよ顕著になっていきました。
それからやはりこの年も、新作アニメの配信に関するゴタゴタや配信中止も断続的に発生してはいましたが、中国の建国70周年だったこともあり、10月の国慶節に向けて中国のネットはどんどん静かになっていき、オタク界隈も自主規制的な空気になっていったようです。
ちなみに中国のオタクの方の話によると、配信中止になった(公式の説明はなく突然消えることがほとんど)と思われる作品の中には、しばらくしたらこっそり復活する作品もあるそうなのですが、この時期くらいから管理や周囲の目が厳しくなり、こっそり復活するような作品も少なくなっていった……などという話があるそうです。
【2020年】 主な人気作、話題作:「かぐや様は告らせたい?~天才たちの恋愛頭脳戦~」「ID:INVADED イド:インヴェイデッド」「ウルトラマンZ」など
この年は新型コロナの影響で中国のオタク関連も大混乱となってしまいました。またそんな特殊な環境だったこともあってか、人気になる作品も例年とは異なる傾向になっていたようですし、久々に日中の人気の違いがハッキリと出た年でした。
たとえば、日本の「劇場版 鬼滅の刃」の歴史的な興収に関して、中国のオタク界隈では「鬼滅の刃は中国でも大人気だが、さすがにあの興収は理解できない」などといった困惑の声があがっていましたし、逆に中国では「ID:INVADED イド:インヴェイデッド」が日本とは違い年間トップクラスの大人気作品となっています。
またこの年、中国では「動漫」カテゴリーとして、アニメと一緒に扱われる日本の特撮ジャンルが、「ウルトラマンZ」の大人気と高評価によって一般層、オタク層問わず評価が急上昇するといった動きもありました。
中国ではかつてテレビで放映されていた昭和ウルトラマンが非常に高い人気を獲得していましたが、中国のオタク層からは長い間「子ども向け」として敬遠されていました。しかしこれもやはり中国のテレビで放映されて大人気になっていた「ウルトラマンティガ」を見て育った世代がオタク層に合流したことや、2010年代半ば頃から仮面ライダーシリーズなどを通じて日本の特撮の人気が徐々に上昇していたことが「ウルトラマンZ」の大人気をきっかけに一気に表面化し復権につながった模様です。
ちなみに人気事情だけでなく、炎上騒動のほうも中国独自の事情とその影響がさらに強く出るようになっていきます。
この年も大小さまざまな日本の作品に関するゴタゴタはありましたが、その中でも「僕のヒーローアカデミア」の「原作に登場したキャラが731部隊を想起させる」ということにより発生した大炎上の拡大や、その後の公式による謝罪でも炎上は収まらず、実質的な中国撤退に至ったことに関しては、近年の中国で急上昇している炎上関連のリスクとコストがハッキリと出てくることになりました。
【2021年】 主な人気作、話題作:「無職転生 ~異世界行ったら本気だす~」「王様ランキング」「閃光のハサウェイ」など
そして2021年ですが、昨年の中国ではオンラインゲームやネット上で影響力のある有名人などの名指しの対象をはじめとした娯楽分野全般に圧力がかかるようになりました。
日本の新作アニメに関しても管理規制が厳格に行われるようになり、4月以降はそれまで可能だった日本での放映とほぼタイムラグなしでの配信も困難になり、配信の可否やスケジュールなども不安定になっています。
予告が出たものの配信できなくなる作品が続出し、配信される作品に関しても「いつ配信が始まるのかわからない」「配信プラットフォームからの告知もない」といった状態なので、中国のオタク界隈では話題が盛り上がらず新作アニメの人気も伸び悩むことになりました。
また日本のアニメだけでなく、ソーシャルゲームでも強い規制が行われ、中国版FGOでは「実装されている中華系サーヴァントの名称やイラスト、プロフィールやボイスを修正、取り下げる」といった事件も起こっています。FGOに関してはその後また中国的な別の名前に改名されるなどの動きもありましたが、一部のイラストなど肝心なところが戻っていない状態が続いている模様です。
それから昨年は「無職転生 ~異世界行ったら本気だす~」の大炎上と配信中止もイロイロな方面に影響を与えました。「無職転生」の炎上に関しては、
「動画配信者が再生数を稼ぐ際のネタとしてあおって炎上が普段のオタク界隈以外にも拡大」
「作品の思想や価値観に問題があるとフェミニズム的な方向も含めた批判が爆発」
「拡大する批判とそれに対する反発による炎上がそこかしこで発生。さらに祭りに参加して騒いでやろうという人間も加わり、そのすべてが通報を武器にしていた」
などの、現在の中国独自の環境によるリスクと問題がハッキリと出てきました。
特に現在の中国のネット界隈では特有の、気軽に「通報」できる環境と、それによって個人が非常に簡単に「許せないもの」に対して通報を行うこと、炎上の際にも個人が通報という「中国社会ではとても効果的な武器」で戦うようになっていることの影響は何かと大きいようです。
近年の中国ではさまざまな炎上と通報合戦、それによるジャンル全体へのダメージが珍しくなくなっていることから、オタク層の間でも、作品の内容に関してまず通報のリスクの有無から考えてしまうようになり、昔のように気楽な気持ちで見ることが難しくなっているといった話も聞こえてきます。
2021年にもイロイロな人気作品が出ましたし、アニメ配信以外では「閃光のハサウェイ」の現地映画祭での上映や、その後のbilibiliでの配信による盛り上がりなどいいニュースもありましたが、中国のオタク界隈では混乱と不安の混じった空気が常に漂っていた模様です。
この10年ほどを振り返ってみると、中国における日本のアニメの配信は、盛り上がった後の規制と、規制後の状況への対応、その後の環境における盛り上がりとそれに対するさらなる規制という流れが定期的に発生しているのがわかります。
昨年の状況を考えると日本のアニメに限らず今後の中国における娯楽コンテンツの動向について楽観的に考えるのは難しいですが、そんな中国の娯楽コンテンツがどのように変化していくのかということについては何かと興味が尽きませんね。
(文/百元籠羊)