【中国オタクのアニメ事情】中国の7月新作アニメの動向。ファンも混乱中の「Fate/Apocrypha」、予想外の「メイドインアビス」

2017年08月12日 12:000
(C) 東出祐一郎・TYPE-MOON / FAPC

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中国オタク事情に関するあれこれを紹介している百元籠羊と申します。
今回は中国の動画サイトで配信されている日本の7月の新作アニメの動向などを紹介させていただきます。

4月のシーズンは中国の学年末及び受験に重なることもあり、後半になると学生が中心の中国のオタクな人たちの動きもかなり鈍くなっていきましたが、7月のシーズンは夏休みと重なるので新作アニメに関しても活発な反応が出ています。
ただ大学生が基本的に学校の宿舎住まいである中国では、長期休暇で学生が学校から離れることによるオタク関係のコミュニティへの影響も大きく、7月はアニメ作品に関する話題の広まりが変化し、思わぬ人気あるいは不人気の作品が出てくる時期でもあります。


7月の目玉ではあるものの順調とは言えない「Fate/Apocrypha」


「Fate」シリーズの中国における人気は高く、これまでも日本のオタク分野の代表的な作品として扱われていましたが、昨年から中国国内向けのサービスも展開されている「Fate/Grand Order」の影響によって中国国内の「Fate」のファン層はさらに広がり、話題になる範囲も広まっています。
そういった背景もあり「Fate/Apocrypha」は間違いなく7月新作アニメにおける最大の注目作となっていました。
しかし残念ながら現在の中国での反応を見ると順調に人気を獲得し現地ファンを満足させるということにはなっていない模様です。

もちろんアニメ版「Fate/Apocrypha」を普通に楽しんで盛り上がっている人も少なくないようですし、再生数もかなりのハイペースで伸びてはいるのですが、序盤の展開が予備知識なしの視聴者にとっては厳しい内容だったことに加えて、原作ストーリーの改変や説明の省略も行われていたため、原作の内容を知っているファンも混乱する人が少なからず出ているようです。
それに加えて「Fate/Apocrypha」は、過去に中国で人気になったFate関係のアニメとは作画や表現方面の手法が異なるということもあってか、アニメのクオリティや描写に関する不満も目に付きます。

また原作者である東出祐一郎先生には、以前「Fate」の荊軻(けいか)と始皇帝の登場する短編小説を発表した際に、始皇帝を醜い怪物にしたことで中国で大炎上してしまったという事情があり、中国のオタク界隈では非常にネガティブな扱いを受けているのも厳しいところでしょうか。

中国のオタクな方からは
「7月の話題作となっているのは間違いありませんしFateに関する知識のネタとしても美味しい作品です。ただ今後どれだけの人が付いていけるのかという点に関する不安も否定できません」
といった話も聞こえてきます。


今までにない、予想外の作品と受け止められた「メイドインアビス」


次に予想外の良作、7月新作におけるダークホース的に受け止められているのが「メイドインアビス」です。
7月開始前の中国のオタク界隈では、「メイドインアビス」は一部のマニアが注目する程度の扱いでしたが、始まって以降は世界観や作画、音楽のクオリティなどを評価する声が上がるようになり7月の注目作の1つとなっています。

「メイドインアビス」に関しては、最近の中国のオタクな人たちの抱く「新作アニメ」「オタク向けで人気になる作品」のイメージからかなり外れていたことによる話題、そしてそこにクオリティの高さが加わったことで注目と高評価につながったところもあるそうで、
「予想外のところで出てきた正統派に思える冒険アニメ」
として受け止められているとのことです。

また中国では「メイドインアビス」に対して
「宮崎アニメのような作品だ」
という反応も出ていますが、実際にスタジオジブリの作品に関わったスタッフが参加しているというのも中国のマニア層の目を引いているそうです。

ただ原作漫画を知っているファンからは
「この作品は段々とダークな部分も顔を出してくるので、あまり注目され過ぎると批判や規制の対象になるリスクが上がってしまうのでは……」
といった話も出ているそうで、現在の中国における人気に関して複雑な気分になってしまう人も出ているようです。

以上の作品のほかにも7月の新作に関しては、学校の評価によって生徒に現金と同価値のポイントが支給されるという設定が中国の学生に刺さった「ようこそ実力至上主義の教室へ」や、異世界転生とロボの組み合わせが興味を集めている「ナイツ&マジック」、中国ではこれまで意識されたことのなかった社交ダンスをテーマにしたある種のスポーツ系作品として受け止められている「ボールルームへようこそ」など、さまざまな作品がイロイロな方向で話題になっている模様です。


ついに有料配信でも配信中止となる作品が?


現在中国で日本のアニメを配信している動画サイトのひとつである「優酷土豆(youkutudou)」は、これまでも日本のアニメの配信方式に関する新しい動きを打ち出したり、1月新作の「幼女戦記」のように中国では難しいと思われる作品を獲得して有料会員向けの独占配信を行ったりするなど、積極的な動きが目に付くサイトでしたが、今期はその有料会員向けの独占配信作品とされていた「賭ケグルイ」が配信延期あるいは中止となってしまった模様です。

「賭ケグルイ」は7月1日からの配信が予告されていたのですが、直前になって動画サイト側から「不可抗力的な原因によって配信が延期になった、具体的な配信スケジュールも未定になった」
と発表され、この原稿を書いている8月初めの時点でも配信に関する続報はなく、現在は7月の新作アニメ配信リストからも名前が消えています。

中国の動画サイトではこれまでにも「甲鉄城のカバネリ」が、配信中止とその後の配信再開に関して混乱したり、「トリアージX」「パンチライン」などが事前に配信の情報が出回っていたものの配信されなかったり、「ハイスクール・フリート」が第1話配信後に配信中止となったりしています。
ですが公式を通じて有料会員向けの独占配信が告知され、直前に配信延期となり続報が出ないといったケースは初めてではないかと思われます。

中国のオタクな方の話によると、最近の中国ではネットの動画サイト、動画配信をターゲットにした規制強化も進んでいることから、この配信中止もその影響によるものではないかという見方があるそうです。
しかし問題になったと思われる部分に関しては、作品のテーマとなっている「賭博」に加えてポルノや暴力的な表現といった辺りに引っかかった可能性も考えられるなど、「中国で問題視されそうなところが多い作品なので特定するのが逆に難しい」
とのことでした。

中国では規制に関する明確なガイドラインが表に出ることはなく、その時点の政治や社会の状況によって規制の厳しさも変動します。中国の規制の動向を予想するのは現地の人間であっても難しく、規制の傾向やレベルに関する認識も人それぞれとなっています。
そういった背景もあってか、いざ規制に引っかかったと思われる事件が出て来ても、それに関する解釈や判断が一定しない……といったことになってしまうケースもあるのだとか。

7月も中国ではイロイロな話題作が出ていますが、それと同時に中国社会における日本の作品の配信の難しさを実感させられる動きも出ています。人気についても配信の問題についても、相変わらず先の読めない状況が続きそうです。


(文/百元籠羊)

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関連作品

Fate/Apocrypha

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(C) 東出祐一郎・TYPE-MOON / FAPC

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(C) 衣笠彰梧・KADOKAWA刊/ようこそ実力至上主義の教室へ製作委員会

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(C) 天酒之瓢・主婦の友社/ナイツ&マジック製作委員会

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(C) 竹内友・講談社/小笠原ダンススタジオ

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(C) 河本ほむら・尚村透/SQUARE ENIX・「賭ケグルイ」製作委員会

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甲鉄城のカバネリ

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(C) カバネリ製作委員会

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(C) 佐藤ショウジ/KADOKAWA 富士見書房刊/「トリアージX」製作委員会

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(C) AIS/海上安全整備局

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