【中国オタクのアニメ事情】中国で一挙に上映された日本の劇場版アニメ系作品と10月新作アニメの動向

2017年11月05日 12:000
(C) 大今良時・講談社/映画聲の形製作委員会

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中国オタク事情に関するあれこれを紹介している百元籠羊と申します。
今回は中国で上映された劇場版の日本のアニメ関係の作品と、動画サイトで配信されている日本の10月の新作アニメの動向などを紹介させていただきます。


日本のアニメ関連映画が連続して公開されるも、中国での難しさがハッキリと出ることに


9月初旬から中旬にかけて、中国では日本のアニメ関連の映画、実写版「銀魂」「映画 聲の形」「ソードアート・オンライン -オーディナル・スケール-」の3作が立て続けに公開されました。
現時点で中国の映画系サイトに出ているデータによれば、この3作品の中国における興行収入は「銀魂」が約8100万元(約14億円)、「聲の形」が約4500万元(約7.6億円)、「ソードアート・オンライン」が約5400万元(約9.2億円)といったところのようです。

このあたりの数字に関して現地のメディアでは
「どれも『君の名は。』に比べてパッとしない興収、『銀魂』がかろうじて合格と言えなくもないレベルで、他の作品は不合格」
といった評価も出ている模様です。
これに関しては比較対象が昨年中国でも大ヒットとなった「君の名は。」(興収は約5.7億元)や、今年中国で公開された「ドラえもん のび太の南極カチコチ大冒険」(興収は約1.5億元)といったあたりも影響しているのではないかと思われます。

それに対して現地のオタク界隈や日本のアニメを見ている層の間では、
「主にオタク向けな作品ということで考えればどれも健闘している」
「すでに学校が始まっている時期にしては悪くない」
といった評価も出ているそうです。
中国では上の3作品が「日本アニメ枠」になり同列で語られているのも興味深いですが、作品に関する評価がそれぞれ特徴的なのも面白いところでしょうか。

まず「銀魂」は現在の中国における日本関連ジャンルにおいてはトップクラスの人気や知名度、ファン層の広さを持つ作品ですし、中国のメディアにおける扱いもかなり大きなものとなりました。
しかし中国ではアニメで人気の作品をあえて実写化するということに対する反発も強く、日本と違って役者に対する思い入れのある人も少ないことから、中国の銀魂ファンの間でもあえて見に行くかどうかといった迷いが出ていたとのことです。

それに加えて
「原作ファンは楽しめる」
「原作の空気やキャラクター、笑いの再現を頑張っている」
という評価になってはいたものの、
「肝心の笑いのネタが理解できない、現地の普通のファンの知識にはないネタが多過ぎる」
ということで、中国における銀魂人気の原動力となっているツッコミ系の笑いについても人によっては不完全燃焼になってしまったのだとか。
そういったことから実写版の「銀魂」は9月に上映された日本のアニメ系映画の中で「実はもっともマニア向け」だという評価も出ているとのことです。

次に「聲の形」ですが、こちらは賛否両論となり中国のネットでは作品の感想についてちょっとした炎上状態になってしまった模様です。
作品のテーマである、いじめや障がい者関係のストーリーが中国のアニメ視聴者にとってはあまりなじみがなかったことによるとまどいや、いじめの影響やそれを受けての登場人物の行動や感情描写に関して納得できないといった声もかなり出たそうです。
そしてそれに対する反論や作品擁護の声もあがり、中国のオタク界隈では一時期「聲の形」に関する論争がかなり加熱していました。

ちなみにこの「聲の形」に対する反発に関しては
「『君の名は。』のような作品を期待して見に行った人も少なくなかった」
という中国独自の事情も影響していたそうです。その結果、
「『君の名は。』的な爽快な気分になれる作品を見に行ったつもりだったのに、重いテーマの作品を見せられたのでイヤな気分になった」
という感じで反発した人もかなり出てしまったのだとか。
このような事情もありますが「聲の形」は最近の中国のオタク界隈においてはもっとも議論が盛り上がった作品のひとつだという話もありますし、良くも悪くも中国のアニメファンに「刺さった」作品なのではないかと思われます。

そして最後に「ソードアート・オンライン」ですが、こちらは最初から「オタク向けでファン向け」という前評判があり、また上映開始後の感想を見ても改めて「ファン向け」だと認識している声が多く、それに加えてストーリー展開のだるさや劇場版の敵キャラの動機の微妙さなど、ハッキリとした問題点もあげられていました。しかしそれとともに
「バトル描写は爽快で、これまでファンをやっていたなら楽しめるし感動できる」
「アラも目立つが自分は楽しめた」
などという声も出ていました。
面白かったのは作品を肯定的に評価する人の間でも、上のような問題点に関しては否定していないということで、「聲の形」が肯定否定真っ二つで炎上気味な論戦になっていたのとは対照的でした。

「ソードアート・オンライン」は全体的に見れば好意的な評価になっているようで、中国の映画系サイトにおけるユーザー投票のスコアにおいても3作品の中で現在もっとも高くなっています。中国のアニメファンの面々にとって引っかかるところも少なくないようですが、実際に見に行った人にとっては思った以上に楽しめる作品といった扱いになっている模様です。

以上がそれぞれの作品の中国での評価や反応ですが、9月に中国で上映された日本アニメ系映画の外側の部分を見ていくと、中国における宣伝の難しさや現地上映までのスケジュールの不安定さも改めて実感させられます。
今回上映された作品はどれも中国における上映の可否や上映開始時期が直前まで不透明だったことから、現地のファンや日本アニメ関連のジャンルに興味を持っている人の熱が冷めてしまったという見方もあるそうです。

さらに上映時期に関しても9月に入ってからの公開になったことにより、結果的に不利な時期での公開となりました。
中国では9月から新学年となるので、現地のオタク層の大多数を占める学生にとっては忙しくなる時期となります。それに加えて中国ではいわゆる「大作」以外は上映回数が少ないという映画館も珍しくはないことから、上映スクリーン数が多くても場所によっては公開直後の週末を逃すと見るのが難しくなるといったケースも多かったようです。
そのため、9月に入ってからの上映は主なターゲットとなる学生層の時間がなくなることから、日本アニメ関連の映画にとっては結構なマイナスになったのではないかという話も聞こえてきます。


続編を中心に注目が集まっている10月の新作アニメ


10月もさまざまな日本のアニメが中国の動画サイトで配信されていますが、今期の新作に関しては中国における前人気が飛び抜けて高い作品はなかったようで、すでに人気を確立している作品の続編などに注目が集まっているようです。

10月新作アニメの中で好調なのは「干物妹!うまるちゃんR」で、広い範囲からの人気を獲得しているようです。キャラの裏表やだらけ方、オタク関係のネタなどが現在の中国でもイロイロな方向から楽しんだり盛り上がったりできるのだとか。
続編枠では他に「食戟のソーマ 餐ノ皿」「血界戦線 & BEYOND」「鬼灯の冷徹(第弐期)」などの作品も人気となっている模様です。

それから新規の作品では「十二大戦」が現時点では比較的好調のようです。「十二大戦」に関しては原作者の西尾維新と中村光の両方に中国では固定ファンが付いているうえに、キャラが遠慮なく死亡退場していく展開も注目されているそうです。
また放映開始後に人気が上昇している作品では「宝石の国」「少女終末旅行」が話題となっているようです。
「宝石の国」はキャラ描写と引きの強さ、アクションシーンのクオリティの高さがマニア層を中心に評価されているという話ですし、「少女終末旅行」は中国で手堅い人気のあるミリタリー要素とポスト・アポカリプスな世界観でありながら日常系作品的な展開をするというのが意外性とともに受け入れられているとのことです。

ここしばらくの間は中国で日本のアニメに関係する新たな動き、それも映画などの動画サイト配信以外の動きが多くみられましたが、現地に伝わる情報の混乱やそれに対するファンの反応を見ていくと、中国関係で予定に沿って進めるということの難しさを改めて実感してしまいますね。


(文/百元籠羊)

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