【中国オタクのアニメ事情】中国で話題になったり不安を集めたりした7月の新作アニメ

2015年08月23日 11:000

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中国オタク事情に関するあれこれを紹介している百元籠羊と申します。

今回は中国における7月の新作アニメの正規配信で目立っている作品を紹介させていただきます。

 

前回のコラムにも書いた通り、中国では3月末に日本のアニメに対する取締りが入り、日本のアニメの正規配信に関しても大きな混乱が発生しました。7月の新作に関してもさまざまな問題やリスクが噂されていますが、今のところは結構な数の作品が配信され、話題になる作品もイロイロと出ているようです。

そんな7月の話題作をいくつか紹介させていただきます。


下ネタという概念が存在しない退屈な世界


新作アニメに関しては毎シーズン中国オタク界隈、業界の前評判をよい意味で裏切るダークホース的な作品が出現しますし、現地の中国オタクの面々もそういった作品を期待しているようですが、7月新作アニメのダークホース枠になるのは恐らくこの作品ではないかと思われます。

原作の中国における知名度はあまりなく、事前に出回っていた作品関係のビジュアルからエロ要素、下品なネタの多い作品だろう……程度に思われていたようですが、1話の配信とともに話題が大爆発、その後も毎週さまざまな話題を提供することになっています。

最近の中国のオタク界隈では、ネット上の交流において扱いやすい話題、拡散しやすいネタなどが作品人気の燃料となることも多く、なかでもギャグを装うことのできる下ネタ系の話題やアニメのカットは強いですね。

しかし、その衝撃には中国の社会的に非常に難しい部分もあるのが困りものです。3月末の取締りの影響はいまだに残っていますし、中国の動画サイト界隈を取り巻く状況に関して楽観的に見ることはできません。

そしてこの「下ネタという概念が存在しない退屈な世界」の作中で飛び交うネタや作品設定は政府批判や3月の取締りの主なテーマであった「テロ」、「ポルノ」、「暴力」のうち、テロとポルノに直撃する内容とされかねません。作中では下ネタ、エロ方面限定ではあるもののディストピア的な管理社会となっていますし、そして主人公側がそれに対抗するために(エロ方面ではありますが)テロ行為を行うといった展開になります。このあたりに関して何か別の言葉に言い換えられているならまだしも、作中で明確にテロと連呼していますから言い訳の余地もありません。

そんなわけでこの作品は中国のオタクやオタク業界的には、内容以上にその影響や行く末が気になってしまう模様です。私の知り合いの中国のオタクの人から、

「ダークホースを期待していたら、予想もしなかった恐ろしいものが出てきた」

というコメントをいただいたのも印象深いですね。


うしおととら


「うしおととら」は原作漫画の知名度や評価がここ数年で上がっていました。それにくわえて「寄生獣」などのアニメにより中国では過去の名作のアニメ化や、ストーリー性や含蓄があると思われる作品への期待が高まっていたということもあり、比較的いいスタートを切りましたが中国オタク事情的にはこの作品が「有料会員限定」という形で配信されているのも非常に興味深いところです。

中国の動画サイトではこれまでも日本のアニメの劇場版の有料配信などは行われていましたが、新作のテレビアニメをこういった形で実質有料にして配信していくのは初めての試みではないかと思われます。

この試みに関しては広告付きの無料配信が一般的だった中国の動画サイトにおけるアニメ配信に慣れた中国の視聴者からは反発や不安の声が上がりましたし、中国のオタク業界の方による事前予想では「無料の場合の視聴者の10%、下手すれば1%も残らないのでは?」という話もありました。

しかし、現時点の再生数などからは予想以上に健闘していると言えるようです。

「うしおととら」は第1話と第2話が無料で、第3話から有料会員向けのコンテンツの1つという形で配信されているようですが、無料配信部分の1話2話はそれぞれ配信1週間で100万以上の再生数を叩き出すなど元々の母数が大きかったこともあり、全体的な再生数はかなりのものになっているようです。また有料配信の影響に関してもこの記事を書いている8月初めの時点では最新話の再生数の伸びの勢いは無料配信の時と比べて2~3割程度は残っている模様です。

有料会員限定配信の影響なのか他の作品に比べて再生数の割にはなかなか中国オタク界隈に作品関連の話題が広まらないなど今後の再生数の伸びに関する不安も残りますが、「うしおととら」の配信の成果次第で広告付きの無料配信が一般的だった中国の動画サイトにおける日本のテレビアニメの配信に新たなモデルが出てくる可能性もあります。

また有料配信を通じてターゲットとなる視聴者層を動画サイト側である程度コントロールできるというのは、中国社会特有の事情でもある、「注目を集めすぎる」「話題になり過ぎる」ことにより一般社会からの批判や政府の取締りを受けるリスクを低減することにもつながるでしょうから、この作品に関しても内容の他に配信の影響という面でも今後が気になる作品です。


純情ロマンチカ3


「純情ロマンチカ3」は7月の女性向けとされる新作の中で予想以上の伸びを見せているようです。「純情ロマンチカ」シリーズは中国でも人気が高く、中国の女性オタクの間では一大ジャンルを築いたこともあります。しかし、ここ最近中国で正規配信された、過去に中国で大人気となったことのある「女性のオタク向け」とされる続編系の配信が、どれもあまり盛り上がらず再生数も伸びなかったということもあってか、配信開始前の中国オタク界隈の期待はそれほど大きくなかったという話もあります。

ですが始まってみれば再生数も大きく伸び、7月配信のアニメでは上位の数字となっています。なぜ「純情ロマンチカ」は他の女性オタク向けの続編系作品と違って失速せずに伸びているのか、中国のオタクの方の話によれば、

「BLというジャンルが強い」

「ストーリーや設定で把握しておかなければならない部分がそれほど多くないので、新規ファンの参入も、昔のファンの復帰も比較的容易」

という点があるとのことです。

近年の中国の動画サイトで配信されるアニメの盛り上がりに関してはライトな層による影響が大きいとされていますし、ファンのコミュニティの動きに加えて、作品に接して盛り上がる上でのハードルなどについても注目していくべきなのかもしれません。

中国オタク界隈において、当初は小粒な作品ばかりという見方もあった7月の新作アニメですが、始まってみれば話題作やアクセス数を稼ぐ作品が出現しているようです。中国オタクの面々から「大作」「本命」と期待される作品のないシーズンであってもイロイロと予想外なことが起こったりして、7月の新作アニメに関しても興味深い状況になってきていますね。


(文/百元籠羊)

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関連作品

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放送日: 2015年7月4日~2015年9月19日   制作会社: J.C.STAFF
キャスト: 小林裕介、石上静香、松来未祐、後藤沙緒里、新井里美、三宅健太、堀江由衣、上坂すみれ、小倉唯
(C) 赤城大空・小学館/SOX

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放送日: 2015年7月3日~2015年12月25日   制作会社: MAPPA/studio VOLN
キャスト: 畠中祐、小山力也、小松未可子、安野希世乃、藤原啓治、牧野由依、浪川大輔、中村悠一、豊崎愛生、てらそままさき、清水理沙、三木眞一郎、梶裕貴、南里侑香、茅野愛衣、折笠富美子、坂本真綾、水樹奈々
(C) 藤田和日郎・小学館/うしおととら製作委員会

純情ロマンチカ3

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放送日: 2015年7月8日~2015年9月23日   制作会社: スタジオディーン
(C) 2015 中村春菊/KADOKAWA 角川書店刊/ロマンチカくらぶ!!

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