ロボットの“目”を本物のカメラで表現する――「装甲騎兵ボトムズ」第1話に隠された強靭な意思の力【懐かしアニメ回顧録第79回】

2021年06月05日 13:001
ロボットの“目”を本物のカメラで表現する――「装甲騎兵ボトムズ」第1話に隠された強靭な意思の力【懐かしアニメ回顧録第79回】

高橋良輔監督の「太陽の牙ダグラム」が40周年を迎え、新プロジェクトも動き出したようだ。以前、本コーナーでは「ダグラム」最終回について論じたので、今回は後番組である「装甲騎兵ボトムズ」(1983年)の第1話「終戦」をついて書こう。
主人公キリコ・キュービィーは宇宙戦争の末期、目的を知らされない謎の作戦に参加させられ、小惑星基地の中で“素体”と呼ばれる謎の裸女を目撃してしまい、軍隊や秘密結社から追われる身となる。キリコが素体を目撃する――、この「見る」演出が、第1話「終戦」では徹底されている。具体的に見ていこう。

ロボットの顔面カメラのみで進行する会話劇


敵の攻撃によって、キリコの部隊が潜入した小惑星基地の壁に穴があく。キリコの乗ったロボット“スコープドッグ”は、その穴の奥に進み、素体の収められたカプセルを前にする。

・スコープドッグのコクピット内、カプセルを見るキリコ(その目はヘルメットのゴーグルに隠れている)
・キリコの主観カット。カプセルの周囲に、ゴーグル内に投射されたゲージなどが重なる。
・キリコの乗ったスコープドッグのカメラ部分。ターレットが回転して、レンズがズーミングして伸びる。
・コクピット内のキリコ、左右を見る。

この一連のカットで示されたように、素体を前にしたキリコの視界はヘルメットのゴーグルと、スコープドッグのカメラを介したものだ。キリコはスコープドッグを着地させ、カプセルの前まで歩く。ここでゴーグルを上に跳ね上げ、はじめてキリコの目が見える――主人公なのに、丸10分間もの間、顔が見えなかったわけだ。
さて、カプセルのカバーをうっかり開いてしまったキリコは、全裸の“素体”に驚いてカプセルから離れる。しかし、銃を抜いてカプセルの近くへと戻る。

・カプセルを見るキリコのアップ。まず、画面右側へ視線を走らせる。
・素体の足だけが見える。
・画面右から左へと、じっくりと視線を移動させるキリコ。
・カプセル内に寝ている素体を、左→右へとPANでとらえる。

素体を間近に見るシーンでは、驚愕するキリコの目が入念に作画されている。すなわち、「肉眼によって見る」演技が強調されている。逆に言えば、それまで肉眼の芝居は乏しく、ことごとスコープドッグのカメラを使って「見る」演出が繰り返されているのだ。


物語の外部からセルアニメの世界を見つめる「本物のカメラレンズ」


キリコが素体を目撃する前のシーンである。小惑星基地に潜入したキリコの部隊は、敵を撃退する。円陣を組んだ数機のスコープドッグに、キリコのスコープドッグも合流する。

・「キリコか、よくやった」と隊長が声をかける。しかし、映っているのは隊長の顔ではなく、スコープドッグの顔面カメラである。
・「隊長、作戦の目的を教えてください」とキリコは言うが、キリコではなく、スコープドッグの全身のみが映っている。
・隊長のスコープドッグが、こちらを向く。「後で教えてやる」と、隊長の声。
・キリコのスコープドッグの顔面。「なぜ味方を襲うんです?」
・隊長機ほか、数機のスコープドッグが、無言のまま一斉にキリコ機を見る。
・「わけを、わけを教えてください」と詰め寄るキリコのアップ(顔はゴーグルで隠れている)。
・隊長のスコープドッグのアップ、カメラが回転する。「貴様、俺の言っていることがわからんのか」と、隊長の声。
・再び、キリコのアップ。「し、しかし!」と、キリコの台詞。
・「ここを動くな、命令だぞ」と隊長。画面にはスコープドッグのカメラがアップで映っている。

なんと、ほとんどスコープドッグの顔面のみで会話劇が進行している。しかも、最後のカットは実物のレンズがズームする様子を撮影して、セルと合成しているようだ。
この実物のカメラは、第1話「終戦」の終盤にも登場する。軍に捕らわれたキリコが航空機で脱出した直後、彼を追うロッチナ大尉が「メルキア全域監視ステーションおよび、衛星監視システム作動」と命じる。すると、軌道上の監視衛星が動き、そのカメラ部分がアップになる。キリコを探す監視衛星のカメラが、やはり実写のレンズを合成したものなのだ。

セルアニメーションに侵入する、本物のカメラ。当時のテレビアニメは16mmカメラで撮影されていたので、実物のカメラは「物語の外からの視線」ともいえる。
「装甲騎兵ボトムズ」は、キリコが徹底的に監視され、執拗に追われつづける物語だ。キリコを冷たく見つめる第1話の「本物のカメラ」は、物語すべてを厳然と見通している、見渡している――とも言えるのではないだろうか。


(文/廣田恵介)

画像一覧

  • ロボットの“目”を本物のカメラで表現する――「装甲騎兵ボトムズ」第1話に隠された強靭な意思の力【懐かしアニメ回顧録第79回】

関連作品

装甲騎兵ボトムズ

装甲騎兵ボトムズ

放送日: 1983年4月1日~1984年3月23日   制作会社: サンライズ
キャスト: 郷田ほづみ、富田耕生、千葉繁、川浪葉子、銀河万丈、戸谷公次、玄田哲章、広瀬正志、郷里大輔、速水奨、政宗一成、麦人、上恭ノ介、緒方賢一
(C) サンライズ

関連シリーズ

ログイン/会員登録をしてこのニュースにコメントしよう!

コメント(1)
ソウキソウキ2021/06/08 19:01

とっても面白いですね。光学カメラを含めスコープドッグには素敵なアイデアが一杯だと思います。 一方でマジに考えればレンズをいちいちガチャンガチャンと切り替える必要はないですよね。「ボトムズ」の作品世界はアナログなようでいて、スコープドッグの動作プログラムをパイロットがアレンジしたり、結構デジタルも実用化されてます。パイロット自身も外部の視界を、光学センサーからの映像を処理してゴーグルに映しだして見てる訳で、本来はレンズを物理的に切り替える必要はない、今日びのスマホもガチャンガチャン切り替えませんし。

※記事中に記載の税込価格については記事掲載時のものとなります。税率の変更にともない、変更される場合がありますのでご注意ください。

関連記事