【懐かしアニメ回顧録第28回】メカニックの“呼び分け”によって生じる「機動戦士ガンダム」の多面的リアリズム

2017年03月11日 12:000
(C) 創通・サンライズ

※本コンテンツはアキバ総研が制作した独自コンテンツです。また本コンテンツでは掲載するECサイト等から購入実績などに基づいて手数料をいただくことがあります。

「機動戦士ガンダム サンダーボルト」の第2シーズンが、2017年3月24日から配信される。第2シーズンでは、登場するモビルスーツの種類が増えるようだが、そもそも、“モビルスーツ”は、物語の中でどのように扱われてきたのだろう? 1979年放送の「機動戦士ガンダム」テレビシリーズを振り返ってみたい。

筆者が「グレートメカニックDX5」(双葉社 2008年刊)で行った富野由悠季総監督へのインタビューによると、当初、ジオン公国側のモビルスーツは、ザクのみしか登場させない予定だったという。「1話ごとにやられモビルスーツを出さずに綺麗にやりたいなと思っていたんです。でも、それは無理だろうと思っていたら、案の定NGでした。ですから、試作機であるとか、どこかが勝手に開発していたとか、自分の中で一生懸命理論武装して1話ごとに“やられメカ”を出しました」(富野監督)。
すなわち、ザク以外のモビルスーツやモビルアーマーは、70年代のロボットアニメの慣例にしたがって、便宜的に登場した“やられメカ”に過ぎなかったのだ。次々と現れる強力な敵ロボットを倒すことで、主役ロボットのガンダムの強さが印象づけられる=スポンサー企業の販売するロボット玩具が売れる、という構造だ。
にも関わらず、モビルスーツは兵器的だ、ミリタリックだ、リアルだ……と言われ続けている。その理由には、デザインや(後から設定された)開発系譜があげられることが、もっぱらである。ここでは原点に立ち戻り、本放送時に得られた情報のみから、“モビルスーツ”と名づけられたロボット・キャラクターが、本当に兵器的でリアルだったのか、検証してみたい。


ジオン側の登場人物は、“ザク”とも“グフ”とも呼んでいない?


第12話「ジオンの脅威」でグフが登場するまで、ジオン公国側のモビルスーツはザク1種類であった。正確に言うと、第3話「敵の補給艦を叩け!」でガデムの乗ったモビルスーツは、ザクとはデザインが異なる。だが、セリフでは「このザクとて、わしと百戦錬磨の戦いの中をくぐり抜けてきたのだ」(ガデム)、「貴様のザクでは無理だ」(シャア)など、ザクと呼ばれている。古い型のザクだと推測できるが、ガデムのザクが“やられメカ”第1号と言えるかも知れない。
では、そもそもシリーズ開始当初、ザクはどのように呼ばれていたのだろう? 第1話「ガンダム大地に立つ!」を見なおしてみよう。
・「我々のザク・モビルスーツよりすぐれたモビルスーツを開発しているかも知れんぞ」(シャア)
・「これが、ジオンのザクか」(アムロ)
・「見てろよ、ザクめ」(アムロ)
・「今度ザクを爆発させたら、サイド7の空気がなくなっちゃう」(アムロ)
計4回、ザクという言葉が使われるが、そのうち3回はアムロの口から発せられている。シャアが「ザク・モビルスーツ」という、やや説明的な言い回しをしているいっぽう、実際にザクに乗っていたデニムとスレンダーは、一度もザクという言葉を口にしてない。もっぱら、ジオンと敵対している地球連邦の、それも民間人の口からザクの名前が聞かれる。避難民とアムロは、ザクをモビルスーツとも呼んでいる。
では、第12話「ジオンの脅威」で初登場したグフは、劇中でどう呼ばれていたのだろう?
・「ザク? 違う、新型のモビルスーツだ」(アムロ)
・「ジオンの新型モビルスーツ」(ブライト)
・「新型のモビルスーツがなんだ」(アムロ)
グフという呼称は、一度も使われていない。第16話「セイラ出撃」で、ようやく「このモビルスーツのグフ」という、ランバ・ラルのセリフを聞くことができる。「ザク・モビルスーツ」同様、いささか説明的に感じられる。
そして、ドムの登場する第24話「迫撃! トリプルドム」はサブタイトルにモビルスーツ名が含まれており、
・「ドムを回しましたか? 三連星に」(キシリア)
・「マッシュのドムがやられた」(ガイア)
と、ジオン側が呼称を口にしている(連邦軍側は、単に「新型モビルスーツ」「モビルスーツ」と呼ぶ)。以降、ゴッグ(第26話)、ズゴック(第27話)……と、新型モビルスーツの登場頻度に比例して、敵側が呼称を口にすることが多くなり、「さすがゴッグだ」「水陸両用の重モビルスーツ、ズゴック」など、説明過多のセリフ回しも目立っていく。
それにしても、新たに登場するモビルスーツの名前を、なぜそこまで執拗に、会話におりまぜなくてはならないのだろうか? 単に「新型モビルスーツ」「水陸両用モビルスーツ」「敵のモビルスーツ」といった呼び方で、会話は十分に成り立つのではないだろうか?
理由として考えられるのは、主役メカの“ガンダム”も、ザクやグフと同じ“モビルスーツ”であることだ。


物語内の関係性から浮かび上がる“ガンダム”の多面性い


余談だが、第1話「ガンダム大地に立つ!!」のサブタイトル案は、「モビルスーツ」であった。シャアが「ザク・モビルスーツ」と苦しまぎれな呼び方をしたように、物語世界に“モビルスーツ”というカテゴリーがまず存在し、そのカテゴリーの中で敵側は“ザク”、味方側は“ガンダム”を保有している。一般名詞と固有名詞を使い分けねばならぬ煩雑さが、シナリオ上の大前提となっている。
だから、第1話で“ガンダム”はさまざまな呼ばれ方をする。
・「ホワイトベースに、ガンダムの部品を載せりゃあいいんだ」(連邦軍兵士)
・「この艦とガンダムが完成すれば、ジオン公国を打ち砕くなぞ造作もない」(連邦軍兵士)
・「ガンダムが量産されるようになれば、君のような若者が実戦に出なくとも、戦争は終わろう」(テム・レイ)
・「避難民より、ガンダムが先だ」(テム・レイ)
・「パイロットも、ガンダム収容に降ろさせました」(連邦軍兵士)
・「ガンダムの運搬は?」(ブライト)
以上、“ガンダム”という呼称は計6回使われるが、すべて連邦軍の軍人によるもの。そのいっぽうで、
・「これは、連邦軍のモビルスーツ」(アムロ)
・「人間より、モビルスーツのほうが大切なんですか?」(アムロ)
・「これが連邦軍の秘密兵器なのか」(アムロ)
・「こいつ、動くぞ」(アムロ)
・「敵のモビルスーツが動きだしました」(ジーン)
・「なんてモビルスーツだ」(ジーン)
・「技師長、味方のモビルスーツが動きはじめました」(連邦軍兵士)
・「おびえてやがるぜ、このモビルスーツ」(ジーン)
・「あれが、連邦軍のモビルスーツの威力なのか」(デニム)
明確にガンダムをさす場合だけに限っても、連邦側の民間人・ジオン側の兵士問わず“モビルスーツ”という呼称を用いている(ガンダムと特定しない場合を含めれば、“モビルスーツ”という呼称は、さらに多くジオン側で使われている)。また、アムロの“秘密兵器” “こいつ”という呼び方は、彼とガンダムの距離感を巧みに演出している。ラスト近く、ブライトは「あれにもやってもらう」とガンダムを見るが、直後の「正規のパイロットだろうとなんだろうと、手伝ってもらわなければなるまい」と考え合わせれば、“あれ”とは「パイロットが誰だかわからないガンダム」を指しているはずだ。

実は、「機動戦士ガンダム」のミリタリズム、リアリティとは、超越的なスーパーメカである主役ロボットを“ガンダム”“連邦軍のモビルスーツ”“秘密兵器”“こいつ”“あれ”と、視点や状況によって、多面的に呼び分けていたことに生じるのではないだろうか?
主役メカと“やられメカ”の両方に、モビルスーツという共通の一般名詞を与えてしまった以上、次々と登場する“やられメカ”をいちいち固有名詞で呼ばないと、主役メカと同じカテゴリーの存在として扱えない(ガンダムだけが突出した存在に見えてしまう)……そのような逆説、パラドックスが、物語世界に均衡をもたらしていたのではないだろうか。


(文/廣田恵介)
(C) 創通・サンライズ

画像一覧

  • (C) 創通・サンライズ

関連作品

機動戦士ガンダム

機動戦士ガンダム

放送日: 1979年4月7日~1980年1月26日   制作会社: サンライズ
キャスト: 古谷徹、鈴置洋孝、池田秀一、井上瑤、鵜飼るみ子、白石冬美、古川登志夫、鈴木清信、飯塚昭三、潘恵子、永井一郎
(C) 創通・サンライズ

機動戦士ガンダム サンダーボルト(第2シーズン)

機動戦士ガンダム サンダーボルト(第2シーズン)

配信日: 2017年3月24日~2017年6月30日   制作会社: サンライズ
キャスト: 中村悠一、木村良平、古川由利奈、逢坂良太、杉田智和、行成とあ、大原さやか
(C) 創通・サンライズ

機動戦士ガンダム サンダーボルト

機動戦士ガンダム サンダーボルト

配信日: 2015年12月25日~2016年4月22日   制作会社: サンライズ
キャスト: 中村悠一、木村良平、古川由利奈、逢坂良太、杉田智和、行成とあ、大原さやか
(C) 創通・サンライズ

ログイン/会員登録をしてこのニュースにコメントしよう!

※記事中に記載の税込価格については記事掲載時のものとなります。税率の変更にともない、変更される場合がありますのでご注意ください。

関連記事