中華料理屋への注文内容をえんえんと繰り返す「機動警察パトレイバー ON TELEVISION」の“話芸”的な面白さ【懐かしアニメ回顧録第74回】

2021年01月17日 12:000

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前回は、劇場アニメ「機動警察パトレイバー the Movie」終盤のロボット同士の格闘シーンに触れた。今回は、劇場版の公開から3か月後に放送開始されたテレビシリーズ「機動警察パトレイバー ON TELEVISION」の1エピソードにスポットを当てる。
テレビ版は吉永尚之氏に監督が交代し、原作漫画のエピソードも織り交ぜながらバラエティに富んだシリーズとなった。異彩を放つのは、押井守氏が脚本を手がけた4本。わけても、第29話「特車二課壊滅す!」は押井氏が得意の食べ物ネタで、ロボットは一切活躍しない。

おおまかなあらすじは、こうだ。
昼食の時間、泉野明は中華料理屋・上海亭に出前を頼むため、特車二課のメンバーにメニューを聞いてまわる。しかし、注文した量があまりに膨大で複雑なため、上海亭の出前は遅れる。空腹に耐えかねた二課のメンバーは上海亭へ乗り込むが、上海亭のアルバイト店員の裏切りによって不潔な皿で食事する羽目になり、全員が食中毒にかかってしまう。
このエピソードの面白さは、特車二課の名もない整備士たちが1人ひとり、こだわりのあるメニューを注文するディテールの緻密さにある。逆を言うと、メニュー内容が「ラーメン50人前」などの大雑把なものでは、「注文に対応しきれない」逼迫状況に説得力が生まれない。また、こだわって注文したメニューが届かないから、二課メンバーのストレスが爆発するわけで、必然的にメニュー内容は微に入り細を穿ったものにならざるを得ない。では、メンバーはどんなメニューを注文したのだろう?


「大盛り」を「特大盛り」に言い換えるだけで、キャラクターの心情は伝わる


【1回目】

遊馬「俺、ワンタンメンとギョーザな」
太田「焼肉定食大盛り」
シバ「五目チャーハンにタンメン」
整備士A「僕、味噌ラーメンとライス」
整備士B「チャーシューメン大盛り」
整備士C「チャーシューワンタンメン大盛り」
整備士D「ニラレバ炒めと豚汁、ライス大盛りでね」
整備士E「カレーライス大盛り、福神漬け抜きで」
整備士F「肉入りピーマン炒めに、ライス大盛り」
整備士G「もやしそばとチャーハン、お願いします」
整備士H「大盛り味噌バターラーメンと半ライス」
整備士I「中華丼大盛り」
整備士J「ニンニク入り肉ねぎ四川炒めとニラ玉ライス」
整備士K「ニンニクとニラ抜きで、同じやつ」
整備士L「カツ丼特大」
整備士M「エビチャーハンと半ラーメン」
整備士N「ナス味噌定食大盛り」
整備士O「麻婆ラーメンとギョーザライス」
後藤「チャーシューメンと半ライス」
南雲「エビチャーハン」

以上の注文を、野明は指を折りながら聞いているので、すべて記憶しているかに見える。ところが電話口では忘れており、もう一度、全メンバーに聞き返す。
遊馬、太田、シバ、整備士A~E、整備士JとKは同じ注文内容だが、以下のメンバーは1回目とは内容を変えて注文する。

【2回目】

整備士F「肉入りピーマン炒めにライス大盛りに、半ラーメン追加」
整備士H「大盛り味噌バターラーメンと半ライスだったんだけど、キクラゲ入り卵スープにします」
整備士I「中華丼大盛りはやめて、カツ丼大盛り」
整備士L「カツ丼特大あらため、天津丼特大」

だが上海亭の出前は遅れ、特車二課は長い交渉の末、もう一度だけ電話で注文することにする。野明はメンバー1人ひとりに、最初から注文を聞きなおす。
以下、注文内容が従来と異なったメンバーの発言のみを抜き出す。

【3回目】

太田「焼肉定食大盛り、ミディアムレアで」
シバ「五目チャーハンをグリンピース抜き、それとワンタンメンのワン抜き」
整備士A「味噌ラーメンとライス大盛り」
整備士B「チャーシューメン特大盛り」
整備士C「チャーシューワンタンメン、バカ盛り」
整備士E「カレーライス大盛り、福神漬け抜き、生卵追加」
整備士H「キクラゲ入りの卵スープだったけど、それと大盛り味噌バターコーンラーメンとライス3倍盛り」
整備士I「中華丼やめて、麻婆丼超特大盛り」
整備士J「ニンニク入り肉ねぎ四川炒めとニラ玉ライス大盛り、生卵3つ」
整備士K「私、それのニンニク増量、生卵5つ」

お気づきだろうか? 2回目の注文でも内容を変えなかった整備士A、B、Cが「ライス」を「ライス大盛り」、「チャーシューメン大盛り」を「特大盛り」、「チャーシューワンタンンメン大盛り」を「特大盛り」に増量している。同様に整備士Eは「生卵追加」、「大盛り味噌バターラーメンと半ライス」を2回目で「キクラゲ入りの卵スープ」へと萎縮させた整備士Hはコーンを加えて味噌バターラーメンを復活させたうえ、「半ライス」を「ライス3倍盛り」に大幅スケールアップさせている。
ドラマチックなのは、整備士Jの「ニンニク入り肉ねぎ四川炒めとニラ玉ライス」を「ニンニクとニラ抜き」にして追従するだけだった整備士Kが「ニンニク増量」に転じたことだ。追加の生卵は、整備士Jの「3つを」上回る「5つ」だ。つまり、名もない整備士たちのセリフは注文内容のみで怒りの言葉ひとつもないのだが、メニューのオプションを増やすことで、彼らの飢餓感を言外に伝えているわけだ。

このように、長々とした実務的なセリフを繰り返す笑いは、落語の「寿限無(じゅげむ)」、「時そば」にルーツがある。アニメーションも落語と同じく、声優による“話芸”であることを、このエピソードは思い出させてくれるのだ。


(文/廣田恵介)

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