【懐かしアニメ回顧録第36回】立ち上がったデンドロビウムが対決の構図を熱くする! 「機動戦士ガンダム0083 ジオンの残光」の図像学

2017年11月04日 12:000
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2017年11月18日より、「機動戦士ガンダム サンダーボルト BANDIT FLOWER」が劇場上映される。一年戦争後を舞台にジオン公国の残党軍を描いたスピンオフ作品としては1991~1992年にかけて発売された「機動戦士ガンダム0083 STARDUST MEMORY」が有名だ。劇場用アニメ「機動戦士ガンダム0083 ジオンの残光」は、「STARDUST MEMORY」の再編集版で、1992年8月に公開された。
ジオン公国の残党軍、デラーズ・フリートに属するアナベル・ガトー少佐が最新鋭のモビルスーツ、ガンダム試作2号機を強奪。地球連邦軍のパイロット、コウ・ウラキ少尉はガンダム試作1号機に乗って、ガトー少佐を追撃する。前半は2号機と1号機の対決でクライマックスを迎え、後半でガトー少佐はモビルアーマーのノイエ・ジールに、ウラキ少尉はガンダム3号機“デンドロビウム”に搭乗して、戦いを継続する。


ガトー少佐とウラキ少尉の戦いは「縦vs横」の戦いである


モビルスーツは人型のメカである。銃を撃ったり剣を振るったり、人間的な所作をする。第1作「機動戦士ガンダム」(1979年)のオープニングを見ると、ビームライフルを構えるカットは腰から上をフレームに収めている。ビームサーベルを振るうカットでは膝から上、あるいは全身をとらえて、サーベルの刃とシールドを横方向へ広げて構図の安定をはかっている。ラストカットは、画面奥から手前に向かって宇宙を飛んでくるガンダムで、大きくパースがついているため、足が極端に小さい。劇場版「機動戦士ガンダムIII めぐりあい宇宙編」の対キャメル艦隊戦では、画面奥から真正面へ突進してくるガンダムが印象強く描かれたが、人間のシルエットを持つモビルスーツを横長のフレームにどのように見映えよく収めるべきかを模索した結果だろう。
そっくりなカットが、「ジオンの残光」でも描かれる。連邦軍の観艦式を襲撃したガンダム2号機の真下から、1号機が迫るシーンだ。体を寝かせて頭と武器だけ敵に向けた戦闘スタイルは死角が少なく被弾面積も最小ですむ。逆に、直立したままのモビルスーツはもろい。宇宙用装備に換装される前の1号機は、画面中央で棒立ちしたまま何発も敵に撃たれ、大破してしまう。横長のフレームの真ん中で立ち尽くす人型メカは頼りなく、とても弱そうに見える。
それに対して、ウラキ少尉が1号機に代わって乗り込む3号機“デンドロビウム”は全長140メートルにもおよぶ横に長いメカである。対するガトー少佐のノイエ・ジールは全長76.6メートル、縦に長いメカだ。実際、ノイエ・ジールの初登場カットでは、足元から頭まで縦にPAN(カメラを振る)している。


ビスタサイズにぴったり、横長の機体が直立することの意味とは?


気になるデンドロビウムの初登場カットは、1号機が2号機の真下から迫るカットと韻を踏んでいる。すなわち、画面奥からカメラの手前いっぱいまで近づく。しかし、ガンダムの頭部がわかるぐらい近くまで寄ると、デンドロビウム本体の形がわからなくなってしまう。デンドロビウムが前後に長い機体だとわかるのは、デラーズ・フリート艦隊の前に姿を現したときだ。カメラは飛行するデンドロビウムを横からじっくりとPANでとらえる。このとき、ようやく “体を寝かせた”状態のガンダムを大量のコンテナとスラスターで覆った機体がデンドロビウムなのだと理解できる。画面左からビームが何本も襲いかかるが、デンドロビウムは側面のスラスターを噴射して細長い機体を器用にひねり、すべてのビームを避けきる。横に広いスクリーンサイズ(「ジオンの残光」は横16:縦9のビスタサイズで公開された)を味方につけた機体、それがデンドロビウムなのだ。
だが、驚くべきはさらに敵モビルスーツ隊に深く切りこむデンドロビウムが、身をよじるように機体を上へ向けて、縦に移動を始めるカットだ。縦になったデンドロビウムの機体中央から、内部に収まったガンダムがその腕でビームライフルを撃つ。縦になったデンドロビウムは、すなわち人型のモビルスーツが“立った”状態を内包しているのだと気づかされる。そして、主人公のモビルスーツが“立った”ことには、ちゃんと意味がある。


縦長のライバルと勝負するために、縦に立ち上がったデンドロビウム


無敵の強さを誇るデンドロビウムを前に、敵のモビルスーツ隊は退却する。デンドロビウムは、敵の後ろ姿を“立った”まま見送る。コクピットのウラキ少尉は、無人となった宇宙に、ただならぬ気配を感じる。ムサイ艦の残骸からガトー少佐の乗ったノイエ・ジールの巨体が現れ、ビームを斉射する。先に記したように、ノイエ・ジールは縦に長い機体だ。当然、直立姿勢のままデンドロビウムを攻撃する。つまり、“立った”状態のノイエ・ジールと決闘に臨むには、主人公のモビルスーツもまた“立った”状態でなければ互角の勝負には見えない。好敵手を迎え撃つため、デンドロビウムはあえて“立った”とは言えないだろうか?
なぜなら、ビームを避けるために横に寝たはずのデンドロビウムは、中央部のガンダムの腕でバズーカをつかむと再び機体を縦にして、ノイエ・ジールと正々堂々、きっちり向かい合って射撃をはじめるからだ。

補給を受けたデンドロビウムは、進行するスペースコロニー落下作戦を阻むため最前線へ急行する。敵艦を巨大なビームサーベルで切断したり攻撃を避けたりするときは横位置だが、宿敵ノイエ・ジールが同じフレーム内に入ると、デンドロビウムはわざわざ縦位置になり、天に向かって飛行する。そして、縦になったデンドロビウムをあざわらうかのように、斜め上からコロニーが落ちていく。スクリーンの中央で木の葉のように回転するだけのデンドロビウムは、まるで宇宙用装備に換装する前のガンダム1号機そっくりに頼りない。
横長のフレームで安定する、横長のシルエットを持つデンドロビウム。しかし、水平方向に浮かぶはずのコロニーが垂直方向へ落下するクライシスを背景に、主人公機のデンドロビウムもまた安定状態を棄て、己の運命に抗うかのように縦方向の位置を占めようとする――。と同時に、ソーラシステムという「面」「壁」を破壊するため、縦長のノイエ・ジールが駆ける。セリフや演技を超越した図像学的ドラマを目撃するには、デザインと構図の関係に絶えず着目している必要がある。


(文/廣田恵介)

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