いつでも誰かが誰かの代わりをしている――「カウボーイビバップ」の熟成された作劇【懐かしアニメ回顧録第43回】

2018年06月23日 12:000
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山寺宏一氏が主演をつとめる「ニンジャバットマン」が公開中だ。山寺宏一氏の主演作といえば、今年誕生20周年を迎えた「カウボーイビバップ」。太陽系の各惑星へ居住空間が広がった未来、ワケありの犯罪者たちを追う宇宙の賞金稼ぎ“カウボーイ”を描いた、洒脱なSFアクションだ。
毎回1話完結なのだが、主人公・スパイクと宿敵・ビシャスをめぐるハードなエピソードが時おり挿入され、スパイクとビシャスが敵対するのにいたった要因がジュリアという女性であることが少しずつ明らかになっていく。第12話「ジュピター・ジャズ(前編)」と第13話「ジュピター・ジャズ(後編)」は、ジュリアの名前を聞いたスパイクがビバップ号を飛び出すところから始まる。


「銃を向ける」アクションが、同時刻、別々の場所でシンクロする


ところが、「ジュピター・ジャズ」前後編に、キーパーソンであるジュリアは登場しない。回想シーンに、わずかに現れるのみだ。にも関わらず、たえずジュリアという不在の女性の存在感が、色濃く漂っている。その理由を探ってみよう。
舞台となるのは、木星の衛星カリストにあるブルークローという街。不況に見舞われた極寒の街で、どうした理由からかひとりも女性がいない。そんなブルークローへ、ビバップ号の女賞金稼ぎ・フェイがふらりと訪れる。暴漢に襲われたフェイはバーのサックス吹き、グレンに助けられ、彼の家へ行く。
グレンがシャワーを浴びている間、彼に宛てた電話が鳴る。それは、スパイクの宿敵ビシャスからの連絡だった。ビシャスを知っているフェイは、シャワールームへ駆け込んでグレンに銃を向ける。

いっぽう、スパイクはジュリアを探し回った結果、ビシャスがグレンに電話しているところをつき止める。「俺に内緒でジュリアとデートか?」と、スパイクはビシャスに銃を向ける。ビシャスは「ジュリアはいた、この街に」と、スパイクに告げる。ハッとしたスパイクだが、ビシャスの部下がスパイクを撃つ。
ここまでが「ジュピター・ジャズ」の前編である。

ビシャスのグレンへの電話をキッカケにして、
・フェイがグレンに銃を向ける
・スパイクがビシャスに銃を向ける
このふたつの芝居がシンクロし、カットバックすることで緊迫感を出している。単に、それぞれ違う場所で「銃を向ける」アクションが重なっているから、緊迫感が出ているのだろうか? もう少し掘り下げてみよう。


「生身の女」フェイは、「極上の女」ジュリアの代役である


ブルークローの街でジュリアの名前を尋ねて歩くうち、スパイクは男娼から「グレンなら何か知ってるかも。前に女と一緒だったのを見たことがあるわ」との情報を得る。その情報を組み込むと、上記シーンの解釈が異なってくる。

・フェイは「ジュリアを知っている」グレンに銃を向ける
・スパイクは「ジュリアがブルークローにいたことを知っている」ビシャスに銃を向ける

すなわち、ジュリア本人が姿を見せないため、キャラクターたちは仕方なく「ジュリアを知っている」相手に銃を向けるしかない。そんな歯がゆさと空しさが、このシーンには漂っている。

そして、「ジュピター・ジャズ(後編)」を見ると、もう少し深読みができる。
スパイクの相棒・ジェットは、フェイの行方を追ってブルークローへ降り立つ。フェイとグレンが知りあったバーで、ジェットはバーテンダーから情報を得る。「生身の女を見たのは半年ぶり、極上の女ってことでいえば2年ぶりだ。見間違えるわけないでしょう。あそこに座って、グレンと話してた。ジュリアも、いつもあの席だったよ」。
つまり、フェイもジュリアも同じ席に座っていたのだ。
直後、麻酔銃で撃たれたスパイクの回想シーンが挿入される。この回想はスパイクとビシャス、そしてジュリアが懇意にしていたころのもので、セピア調の色味で描かれている。ところがワンカットだけ、ずっと最近の回想がカラーで入る。それは第5話で大怪我をしたスパイクを、枕元で見守っていたフェイの姿だ。

第5話の当該シーンを見てみよう。フェイがビシャスの人質にされ、スパイクはビシャスと決着をつけるため、フェイのもとへ行く。スパイクはビシャスとの戦いで大怪我をして、夢の中でジュリアの歌声を聴く。だが、実際に歌っていたのは、枕元にいるフェイだった。
ジュリアの歌っていた歌を口にするフェイ、ジュリアの座っていた席に座るフェイ。フェイは無意識に、ジュリアの代役を演じているのではないだろうか。
そもそも、このエピソードはフェイが行方をくらまし、その行方を探っている間に浮上したコードネーム「ジュリア」が発端となっている。フェイを探しているのに、ジュリアに行き当たる。スパイクは暴漢からビシャスに間違われ、ジェットは賞金首に間違われる。幾重もの誤解と勘違い、誰もが誰かの代役を引き受けざるを得ない作劇が、ジュリアの不在をくっきりと浮かび上がらせていく。


(文/廣田恵介)
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