【懐かしアニメ回顧録第26回】生命を媒介する“液体の色”が「ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序」の世界観を決定する

2017年01月09日 12:000
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テレビアニメ「新世紀エヴァンゲリオン」(1995年)を、当時最先端のデジタル技術でリビルドした「ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序」(2007年)の公開から、今年で10年になる。「新劇場版」は2作目の「破」、3作目の「Q」と、シリーズを重ねるごとにオリジナル要素が増えていく。だが、「序」は、テレビ版の第6話までを再構成したプロットだ。

中学生の碇シンジは、人造人間エヴァンゲリオン初号機のパイロットに選ばれ、第3新東京市に呼ばれる。シンジはエヴァ初号機で謎の敵・使徒を倒すが、命がけなのに他人から誉めてもらえない戦いに、徒労感をおぼえる。そんな折、感情の起伏のとぼしい綾波レイが、父親のゲンドウと親しげに話している様子を、シンジは目撃する。最終作戦時、エヴァンゲリオン零号機に乗って、レイは捨て身でシンジの乗る初号機を守りぬく。シンジはレイのもとへ駆けつけ、彼女の無事な姿を前に、涙を流す。
「新劇場版:序」は、父親から認めてもらえずに逡巡するシンジが、初めてレイという他人を意識するまでを描いている。シンジとレイの間に位置するのが、シンジを呼びつけておきながら、冷淡に彼を切り捨てようとする父親、碇ゲンドウの存在だ。ゲンドウはレイにだけやさしく、やけどをものともせずに彼女を助け出した。ほぼ同じ行動を、映画のラストでシンジもトレースする。荒っぽく言うなら、シンジが壁として立ちふさがる父親を乗りこえることが『新劇場版:序』の貫徹目標(映画全体を貫く目標)と言えそうだ。


特殊溶液“LCL”は、夕陽の色をしている


ところで、「ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序」には、たくさんの液体が登場する。ファーストカットは赤く染まった海水だ。その後もたびたび登場する海は、すべて赤く描かれている。
使徒は、倒されると赤い血液を雨のように降らせて、消滅する。人造人間エヴァンゲリオンも、ダメージを受けると赤黒い血液を流す。また、格納庫に収納されているエヴァは、海水と同じようなワインレッドの液体に浸かっている。
エヴァのコクピットには、パイロットの呼吸を助ける“LCL”という液体が注水される。このLCLは、オレンジ色である。LCLで満たされたコクピットは、演出上の必要がないかぎり、ノーマルな色で描かれている。LCLが沸騰したり排出されたりするシーンでは、オレンジ色の液体として泡などが描かれる。
LCLは人体を包みこみ、その生命を危険から守るための特殊な溶液だ。実は、LCL以外にも、オレンジ色の液体が登場する。怪我をしたレイに点滴されている薬剤の色が、オレンジなのだ。人体を助ける、命につながる液体は温かなオレンジ色をしている……とは言えないだろうか。

では、「新劇場版:序」の中で、オレンジ色はどんなシーンで使われているのだろう?
シンジの身元をあずかる葛城ミサトが、彼に誇らしげに第3新東京市の全景を見せるシーンが、美しい夕陽にそまったオレンジ色で描かれている。また、使徒との激戦で気を失ったシンジが、両親や綾波レイの声を聞く夢のシーンも、オレンジ色の夕陽の差し込む路面電車の中だ。
もうひとつ、決して見落としてはいけない、重要なシーンがある。エヴァ零号機の実験中、レイが重傷を負う回想シーンだ。まず、零号機の機体カラーがオレンジ色。非常停止レバーをつつむガラスがオレンジ色。暴走した零号機が殴って割る窓ガラスも、オレンジ色で塗られている。緊急射出された零号機のコクピットに駆けつける、碇ゲンドウ。彼はやけどをこらえながら、コックピットの搭乗口をこじあける。オレンジ色のLCLがコクピット周辺に流れ出し、ゲンドウの落としたメガネが、その熱でひしゃげる。


碇ゲンドウの見ている世界は、オレンジ色に染まっている


回想シーンでのゲンドウのメガネは無色なのだ。レイが実験中に大怪我を負って以降、ゲンドウはオレンジ色のメガネをかけるようになった。そして、シンジとレイの身体や生命を守るLCLもオレンジ色だ。シンジとレイの生殺与奪権をもつゲンドウの見ている世界はオレンジ色であり、2人の子供たちを保護する液体もまたオレンジ色で、シンジとレイが会話する夢の中までもがオレンジ色……そして、最後に2人が微笑みあう狭いコクピットにも、オレンジ色のLCLがあふれている。
テレビ版では青かったはずの海が、赤くなっている――その時点で、世界は苛酷さを増し、他の色がもつ意味も、変化を余儀なくされるのではないだろうか。生命の存在を許さないかのような赤に対して、オレンジ色は生命を受け止める触媒のような役割を持たされているのかもしれない。


(文/廣田恵介)

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