対立する両者の力の差をモビルスーツで描き分ける「機動戦士ガンダム 逆襲のシャア」の演出力【懐かしアニメ回顧録第48回】

2018年11月17日 12:000
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宇宙世紀を舞台にしたガンダム作品の最新作、「機動戦士ガンダムNT(ナラティブ)」が11月30日から劇場公開される。作品の時系列は、「機動戦士ガンダムUC」(2010~14年)から1年後。「ガンダムUC」は、「機動戦士ガンダム 逆襲のシャア」(1988年)から3年後を舞台にしていた。
では、「UC」や「NT」の源流にあたる「逆襲のシャア」とは、どのような作品だったのだろうか?

アムロがνガンダムでシャアと出会うのは1時間40分後


「一年戦争」では敵と味方に別れて戦い、その7年後に反地球連邦組織の仲間として共闘したアムロ・レイとシャア・アズナブル。その後、シャアはネオ・ジオン軍を編成して地球へ小惑星を落下させる作戦を慣行し、アムロは地球連邦軍内のロンド・ベル隊の一員として、シャアの“隕石落とし”作戦を阻止しようと奮闘する。
映画は段取りを踏まず、いきなりシャアが作戦を進めている状況から始まる。小惑星フィフス・ルナの表面で、アムロの乗るモビルスーツ“リ・ガズィ”が、ギュネイ・ガスの“ヤクト・ドーガ”を狙う。そこへ割っているのが、シャアの乗る“ザザビー”だ。
リ・ガズィは一度は後退するものの、ビームでけん制をかけてからビームサーベルで斬りかかる。サザビーもビームサーベルを抜いて、両者は激しく斬り結ぶ。ギュネイの「大佐、なんでファンネルを使わないんです?」というセリフから、シャアがアムロに手加減しているとわかる。すなわち、シャアのほうが優位に立っているのだ。
サザビーと同じ性能の遠隔攻撃兵器ファンネルを装備した“νガンダム”をアムロが手に入れ、再びシャアのサザビーと戦うのは、なんと映画が始まってから1時間40分後である。その間、シャアが優位でアムロが不利である構図を保たねばならない。映画の前半20分では、「シャアの優位性」が端的に印象づけられている。どのような工夫がされているか、具体的に見ていこう。


モビルスーツを介して、アムロとシャアの大きさを描き分ける


映画の冒頭、νガンダムは、上半身と下半身がバラバラの状態で現れる。月面の工場に横に寝かされて、目の部分に幕がかけられたνガンダムは、まだ目覚めていない。
フィフス・ルナの落下を阻止できなかったアムロが月面へνガンダムの受領に向かうと、上半身と下半身が接続されて立たされてはいるものの、νガンダムの表面は、骨格がむき出しになったままだ。ともあれ、アムロはνガンダムの右ヒザ、左ヒザへと飛び移り、クレーンに乗ってコクピットに入る。νガンダムの表面から内部へ入ることで、νガンダムはアムロという主を招きいれ、分かちがたく結合していくかのように見える。
このシーンでは、νガンダムの両腕、胸などでメカニックマンたちが作業していて、νガンダムの巨大さが強調されている。すなわち、メカニックマンもアムロも小さく描かれているということだ。

では、いっぽうのシャアはどう描かれているのだろう?
まさにアムロがνガンダムを受領しに月を訪れた直後が、ネオ・ジオンの兵士たちを前にシャアが演説するシーンだ。ホログラフィとして空間に投影されたシャアの背後は宇宙で、ネオ・ジオン軍の艦艇が浮かんでいる。続いて、カメラは格納庫内をパン・アップして左右に並べられた何機かのモビルスーツが画面に入る。すると、シャアのホログラフィ映像は、モビルスーツたちと同じぐらい大きいのである。

■モビルスーツの巨体をよじのぼっていくアムロ
■そのモビルスーツと同じぐらい大きく投影されたシャア

この2つの絵を並べるだけで、シャアの強大なスケール感が伝わってこないだろうか。モビルスーツという人間より大きな媒介物がなければ、決してなしえなかった見事な演出だ。
ほかにも、νガンダムを受領しにいくアムロが機内で寝ており、νガンダムに乗って帰るときにはアムロの代わりにチェーンが寝ている……など、主役メカの登場前後には、興味深い演出が散りばめられている。ぜひ鑑賞し直して、自分なりの解釈を楽しんでほしい。


(文/廣田恵介)

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