【懐かしアニメ回顧録第12回】手描きによるメカ作画の威力! 88年版「ドミニオン」の戦車描写に胸を熱くしろ!

2015年11月14日 11:000

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11月21日から、「ガールズ&パンツァー劇場版」が全国公開される。CGを使った的確な戦車アクションが評価された「ガルパン」だが、地面をはいまわる戦車は、たしかに手描きによる作画が難しい。地面や建物とからむので、演出力も要求される。さて今回、“戦車アニメの必見作”として取り上げるのは、士郎正宗原作のアニメ「ドミニオン」だ。

「ドミニオン」のアニメ化作品には、1988年版OVA(真下耕一監督)、1993年版OVA(古瀬登監督)、2005年版OVA(ロマのフ比嘉監督)の3種類がある。豆戦車“ドミニオン”が、未来都市を舞台にコミカルに動き回るさまは、確かにアニメ向きと言えるだろう。今回は、もっとも最初にアニメ化された真下監督作の「ドミニオン」に触れてみよう。


戦車を“魅せる”技法いろいろ


プラスチック装甲を持つ戦車が、警察に導入された未来都市。新米警官の尾崎レオナは、「警察戦車隊」に入隊し、大破してしまった戦車のパーツから小型戦車“ドミニオン”を作り、みずから乗り込んで活躍する。ショートカットの婦人警官が、メカに愛着を持っていくさまは、同年にシリーズ開始した「機動警察パトレイバー」とも通底する。

1988年の作品なので、登場する戦車はすべてが手描きである。「砲撃のさいに、反動で後ろにのけぞる」「被弾すると、まず装甲が凹んで、やや時間をおいてから爆発する」など、アクションに応じて戦車の形をゆがめて描く作画が楽しい。どのような技法が使われているのか、ザッとおさらいしてみよう。

(1)“壊れ物”で破壊力を演出

戦車の重量でめくりあがる道路、砕けとぶアスファルト、衝撃で吹きとぶゴミ箱など、戦車と接する物体をセルで描いている。第2話では、警察署内に敵味方の戦車が突入、床や壁を破壊しながら戦うシーンもあり(画面のすべてをセルによって作画する“全セル”を駆使)、戦車の威圧感を、周囲の“壊れ物”を使って表現している。

(2)ハーモニー処理で質感を出す

破壊された大型戦車の煤(すす)や汚れ、完成したばかりのボナパルトの光沢など、セル画の上から、エアブラシで光や影のタッチを描き加えている。ハーモニー処理は手間のかかる技法だが、止め絵でただすむ戦車に、車体の重さや装甲の厚みを感じさせることさえできる。

(3)キャタピラを省略しない

履帯(キャタピラ)を省略せず、ていねいに作画している。ドリルなどの高速で回転する物体は、流れたようなシルエットと色で省略して描くのが、手描きアニメでは通例だ。ところが、「ドミニオン」では多くのカットで履帯を細部までシャープに描き、しかも高速で動いて見えるよう、枚数を調整している。カットによっては、それこそ3Dで作画されたように、スムーズな動きになっている。

(特に、主役戦車“ドミニオン”の立体的な形状の履帯を、ほとんど省略せずに手描きで動かしているのが驚異的である。

ほかにも、走行時に吹き上がる煙をダブラシ(二重露光)で入れて深みを出したり、BOOK(切り抜いた背景画)の建物を揺らして振動を表現したり、セルとフィルムで可能な技術を総動員して戦車の重量感、メカとしての精密感を描きこんでいる



技術を裏打ちする物語設定


警察戦車隊に配備された戦車は、球形の車輪を持つ未来的なデザインだ。だが、“ドミニオン”だけは4つの独立した履帯で駆け回り、車体も第二次大戦の戦車風で、全体的に古風なルックスだ。にも関わらず、“ドミニオン”は、物語中、最も新しく開発された戦車なのだ。

というのも、主人公のレオナは、隊長お気に入りの大型戦車、通称“タンクスペシャル”を荒っぽく乗り回し、第1話でスクラップにしてしまう。責任を感じたレオナが、“タンクスペシャル”のパーツを転用して作り上げたのが“ドミニオン”なのだ。10個もの球状車輪を持つ大型戦車から生まれた、オモチャのような豆戦車。そのビジュアル的な対比が、まずは面白い。

そして、“ドミニオン”が“タンクスペシャル”から引き継いだもの。それは、プラスチック全盛の時代にあって、いまや珍しくなってしまった鉄の装甲だ。プラスチック装甲の戦車が次々とトラップにひっかかっても、鉄製の“ドミニオン”だけは、単独で行動することが出来る。それゆえ、スクラップから誕生したちっぽけな“ドミニオン”が、主役メカたり得るのである。

前述したように、セル画の戦車は技法の使い分けによって、重くも描けるし、軽快に走らせることも出来る。それらの作画技術を裏打ちし、説得力を与えるのは、メカニックの誕生した物語設定だ。作画技術と物語設定は、どちらが主でも従でもなく、たがいに補いあいながら、メカの存在感、作品の世界観を編み上げていく。「なぜ、そのメカをかっこいいと感じるのか?」を問うとき、その答えはアニメの作画技術にも、また物語設定にも見つけることができるはずだ。


(文/廣田恵介)

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関連作品

ドミニオン

ドミニオン

発売日: 1988年
キャスト: 鶴ひろみ、大倉正章、屋良有作、永井一郎、千葉繁、戸谷公次、石森達幸、田の中勇、八奈見乗児、三田ゆう子、富沢美智恵、横尾まり、小林通孝、柴田秀勝、郷里大輔、Chiko、掛川裕彦、銀河万丈、神山雅美

ガールズ&パンツァー 劇場版

ガールズ&パンツァー 劇場版

上映開始日: 2015年11月21日   制作会社: アクタス
キャスト: 渕上舞、茅野愛衣、尾崎真実、中上育実、井口裕香、福圓美里、高橋美佳子、植田佳奈、菊地美香、吉岡麻耶
(C) GIRLS und PANZER Film Projekt

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