「絵」を「現実」と誤認させる「東のエデン」の入れ子構造【懐かしアニメ回顧録第52回】

2019年03月21日 12:000
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2019年4月1日から、神山健治と荒牧伸志、2人の監督による3DCGアニメ「ULTRAMAN」のネット配信がスタートする。
神山健治監督の原作・シリーズ構成による作品といえば、ちょうど10年前に放送された「東のエデン」(2009年)。就職を控えた大学生の森美咲が、滝沢朗という記憶喪失の青年にアメリカで助けられ、日本の運命をめぐる策略に巻き込まれていく。

第1話「王子様を拾ったよ」では、ホワイトハウスの前で出会った咲と滝沢が、東京がミサイル攻撃を受けたことを知るまでを描いている。
この時点で、2人はまだアメリカにいるため、ミサイル攻撃のニュース映像を空港のモニターで見ている。第2話で、飛行機の中から攻撃の跡を咲と滝沢は目撃することになるが、「東京がミサイル攻撃された」という重大な事実を、どうしてモニター内で提示するのだろう? 飛行機に乗った咲と滝沢が、ミサイルが東京に着弾・炎上する現場を間近に見たほうが、よほどインパクトが出るのではないだろうか?

ニュース映像とはいえ、しょせん「絵の中の絵」である


まず、この作品は10発ものミサイルによって東京が攻撃された“迂闊な月曜日”事件を背景にスタートしている。“迂闊な月曜日”が、2001年に起きたアメリカ同時多発テロ事件(9.11)をヒントにしていることは明らかで、作中でも9.11について明確に言及されている。
つまり、(番組放送時から計算すると)8年前に実際に起きたテロ事件と地続きの世界で、「東京がミサイル攻撃された」という大きなウソをつかねばならないわけだ。“迂闊な月曜日”は、“ルウム戦役”や“セカンドインパクト”とは、フィクションの次元が違う。視聴者にとって生々しい事実として描写する必要がある。
ほとんどの視聴者は9.11をニュース映像で見ているため、東京へのミサイル攻撃をニュース映像として提示すれば、現実に起きたことのように感じられることは確かだ。
しかし、アニメーションは絵である。ニュース映像とて、しょせんは「絵」なのである。モニターに映った「絵」を提示したところで、視聴者に現実として感じられるだろうか? 絵の中の絵を、どうして我々は本物だと信じられるのだろうか?
第1話の冒頭シーンに、ヒントが隠されている。


2種類のホワイトハウスが生じさせる「2種類の現実」


第1話の冒頭、咲はタクシーでホワイトハウスの前へ到着する。「なんか想像してたのと違う」と、彼女は第一印象を口にする。そのカットの映像は、正面からとらえられたホワイトハウスと噴水だ。噴水の音はしているが、しかし、映像の中の噴水は止まっている。なぜなら、その映像は、ガイドブックの表紙写真だからだ。
ガイドブックが画面からフレームアウトすると、咲が目にしている「本物の」ホワイトハウスと噴水が現われる。ホワイトハウスは芝生のずっと向こうに建っており、噴水はさらに小さい。「噴水も思ってたより、ぜんぜん遠いし……」と、咲はあらためてガイドブックの表紙を見る。
つまり、このシーンでは「誇張されて撮影されたガイドブックの表紙」、「柵の外側から咲が眺めた建物」、2種類のホワイトハウスが描かれている。しかも、そのどちらもが「絵」である。アニメの中で「絵」として描かれた現実にも、メディアの演出を介した現実と、登場人物が肉眼で見た現実の2種類がありますよ……と、物語の開幕早々に宣言しているわけだ。

アニメーションという絵の中に、さらに写真・映像として加工された絵を配置する入れ子構造によって、「2種類の現実がある」と、視聴者は刷り込まれる。しかも、「メディアを介した現実と肉眼で見た現実は違うので、私はだまされない」と、タカをくくってしまう。
だから、第1話のラストで咲と滝沢が見ているニュース映像を、「こんなのは絵じゃないか」と切り捨てることができない。「2種類ある現実のうちの、どちらか」と認識する。冒頭で、2種類のホワイトハウスを見ているため、ミサイル攻撃の「絵」を見ているくせに「このニュース映像の向こうに“もうひとつの生々しい現実”があるはずだ」と誤認してしまう――このトリックこそが、アニメーションならではの詐術であり、演出であり、面白さだと感じるのだが、いかがだろうか。


(文/廣田恵介)
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