主役メカは左右どちらを向いている? 「超時空要塞マクロス」の対立図式を“メカの向き”から解読する!【懐かしアニメ回顧録第39回】

2018年02月11日 12:000
(C) 1984 ビックウエスト

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2018年2月9日から「劇場版マクロスΔ激情のワルキューレ」が公開中だ。マクロスシリーズの原点は、言うまでもなく1982年放送のテレビアニメ「超時空要塞マクロス」である。「マクロス」は1982年10月3日、第1話と第2話が1時間枠で同時放送された。第3話からは舞台が宇宙となるので、地上で展開する第1話~第2話をひとつのエピソードと見なしてよいと思う。
宇宙の彼方で長期にわたる戦争を繰り広げているゼントラーディ軍と監察宇宙軍。ある日、監察軍の宇宙船が地球の小さな島、南アタリアに落下する。地球人は十年かけて宇宙船を巨大な要塞艦“マクロス”へと改造する。ところがマクロス進宙式の当日、ゼントラーディ軍の艦隊が地球付近に現われると、マクロスの防衛システムが起動、勝手に主砲を発射してゼントラーディ艦を撃破する。ゼントラーディ軍はマクロスへの反撃を開始、南アタリア島は戦火に包まれてしまう。


マクロスが、「右尻」構図で描かれる理由


マクロスは反重力システムを使って宇宙へ飛ぼうとするが、システムの不備によって南アタリア島にとどまらざるを得なくなる。
いっぽう、ゼントラーディ軍の艦隊は“フォールド航法”を使って月軌道上に出現する。島にとどまるマクロスと宇宙から攻めてくるゼントラーディ軍。この対立関係を「マクロス」第1話~第2話でどのように構成しているか、検討してみたい。

まず、マクロスが宇宙から落下してくる冒頭シーンを見てみよう。

(1)夜の南アタリア島、全景。
(2)南アタリア島の上空に光点が見える。
(3)光の塊が、宇宙空間から現れる。
(4)光は地球へと向かう。
(5)光の中から、傷ついた宇宙船が出てくる。
(6)宇宙船は地球に降下していく。
(7)大気圏に突入、再び光に包まれる宇宙船。
(8)光の球がビル街かすめると、ビル群は崩壊する。
(9)水平線から、光の球が手前に飛んでくる。
(10)光に照らされる南アタリア島。
(11)海を左右に割り、光が南アタリア島へ伸びていく。
(12)南アタリア島の山がえぐられる。
(13)画面中央で大爆発が起きる。

以上13カットのうち、マクロスが初めて登場するのは(3)。画面左から右へ向かって出現する。(4)でマクロスはカーブして画面右から左へと進行方向を変える。(5)で傷ついた姿をあらわにしたマクロスは、そのまま艦首を左に向けて落下を続ける。
次のカットは、南アタリア島に墜落したマクロスの全体像だ。(5)と同様、艦首を左に、艦尾を右へ向けている。画面右に尻を向けているので、便宜的に「右尻」の構図と呼ぼう。実は上記(5)以降、マクロスはほとんど「右尻」の構図に収まっている。第1話~第2話で、マクロスは(細部のアップや背景としてチラリと映るものも含めて)総計105カットも登場している。そのうち方向の不明瞭なものを除外すると、「右尻」の構図は67カット。実に7割が「右尻」なのだ。
対するゼントラーディ艦隊は、マクロスとは正反対に「左尻」で現われる。マクロスはゼントラーディ軍に反応して自動的に主砲を発射してしまうが、主砲の放ったビームは右から左へ伸びる。ビームに撃たれるゼントラーディ艦は左から右へと進行している。つまり、マクロス陣営は画面の「右」に陣取り、ゼントラーディ側は画面「左」に位置しているのだ。


左側から現われて右側へと“転身”する、2つのメカ


味方側を「右」に、敵側を「左」に配置して対立関係を明らかにするのは演出の基本である。では、物語上の「敵」を形式的に画面左に位置させているだけかというと、単純にそうとは言い切れない。主役のマクロスは、初めて登場したときは画面左から現われた。ゼントラーディ艦隊の出現とまったく同じ構図だ。しかし、マクロスは「敵」ではない。もともとは異星人の宇宙船だったが、地球人の手により「味方」へ転じたメカだ。上記④のカットでは、艦首を右から左へ大きくカーブすることで、マクロスの“転身”を鮮やかに物語っている。

もうひとつ、“転身”したメカがある。主人公・一条輝(ひかる)のプロペラ機だ。輝は先輩のロイ・フォッカー少佐に招かれてマクロスの進宙式典に招かれた民間人だ。輝はフォッカー少佐を冗談半分に「人殺し」と揶揄するなど、軍人に軽い嫌悪感を抱いている。つまり、軍艦であるマクロスにとって「敵」ではないにしても、異物であることは確かだ。
では、輝のプロペラ機は、どのような挙動を見せるのだろう? 登場カットでは、画面左から右へ向かって飛行している。輝のプロペラ機は右方向をキープしたまま、マクロスに艦載された軍用機バルキリーと対峙するようにすれ違う。ところが、地上のフォッカー少佐と口論しているうち、輝のプロペラ機は画面右から左へと転進して、着陸するカットでは、機首を左に向けた完全な「右尻」構図になっている。「左尻」から「右尻」への転進、この変化は軍人を嫌っていた輝が、やがてバルキリーの正規パイロット(すなわちマクロスの「味方」)となる劇的な“転身”を予期しているように見えないだろうか? 輝の乗り込んだバルキリーが初めて発進するとき、機首はどっちを向いているのか――。ぜひ、自分の目で確かめてみてほしい。


(文/廣田恵介)
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