「機動警察パトレイバー NEW OVA」で熊耳武緒と香貫花・クランシー、夢の競演を満喫する!【懐かしアニメ回顧録第75回】

2021年02月11日 11:000

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前回は、「機動警察パトレイバー ON TELEVISION」の話芸としての面白さに着眼した。今回は1990~1992年にかけてリリースされた「機動警察パトレイバー NEW OVA」シリーズから、同じく声優たちの話芸が冴える第9話「VS(バーサス)」を取り上げる。
「NEW OVA」は「ON TELEVISION」から直結するシリーズで、全16話の冒頭4話分は謎のレイバー、グリフォンとの対決に当てられている。漫画版のグリフォン編では熊耳武緒(くまがみたけお)が重要な役割を果たすため、「ON TELEVISION」の中盤より、熊耳は香貫花(かぬか)・クランシーと入れ替わるようにして登場した。「NEW OVA」の第9話「VS(バーサス)」は、熊耳と香貫花が宴会の席で舌戦するエピソードだ。
主役ロボのパトレイバーは一切登場せず、舞台は特車二課第二小隊のメンバーが慰安旅行で泊まった旅館の一室だ。果たして、熊耳と香貫花は何を言い争うのだろう?

知識による論争から、早口対決までの流れ


【フェイズ1】
旅館の風呂からあがるとき、香貫花が忘れていった下着を、熊耳は親切心から片付ける。そのことを熊耳から告げられた香貫花は「プライバシーの侵害」「余計なお世話」と憤慨する。

【フェイズ2】
宴会の席に戻り、熊耳は日本酒を香貫花の盃につごうとするが、香貫花は「結構です。つぐのもつがれるのも、好きじゃありません」と断る。
日本酒を湯のみで呑む太田に「あまり度を越さないようね」と熊耳が注意すると、香貫花は「こんな席でまで指揮をとろうとすることはないでしょう」と割りこみ、「飲みすぎを注意することがどうして指揮をとることになるのかしら?」と、ちょっとした口論になる。
太田は熊耳に酌をしようとするが、香貫花は「呑みたくないと言っているんだから、呑ませることないでしょ!」と大声を出す。しかし、熊耳は「いただくわ」と酌をしてもらう。

【フェイズ3】
香貫花は「天正遣欧使節」について、熊耳を問い詰める。
香貫花「まさか、天正遣欧使節が何かまで説明しなきゃいけないわけじゃないでしょうね?」
熊耳「天正年間だから、16世紀の後半ね。イエズス会が九州のキリシタン大名の名代としてポルトガル、イタリアに向けて送った少年使節でしょ?」
香貫花「その少年たちの名前を言える?」
熊耳「もちろん。(日本酒を飲んでから)言えます」
ところが、熊耳はひとりだけ名前を思い出せず、2人の言い争いは本格的な仕事論に発展してしまう。

【フェイズ4】
太田が酔って寝込んでしまったのを見て、熊耳は「悲しいわ」とため息をつく。「あなたこそ大丈夫?」と香貫花におちょくられた熊耳は、「生麦生米生卵! 日本酒とは相性がいいのよ。よすぎて困るぐらい」と、ろれつが回っていることを誇示する。それ以降、早口言葉の応酬となる。
香貫花「隣の客はよく柿食う客だ」
熊耳「京の生鱈奈良生真名鰹」
香貫花「ジャズ歌手シャンソン歌手」
熊耳「東京特許許可局」
香貫花「カエルぴょこぴょこ三ぴょこぴょこ、合わせてぴょこぴょこ六ぴょこぴょこ」
熊耳「武具馬具武具馬具三武具馬具、合わせて武具馬具六武具馬具」
香貫花「赤パジャマ黄パジャマ茶パジャマ」
熊耳「赤巻紙、青巻紙、黄巻紙」
香貫花「……やるわね」
熊耳「あなたこそ」

【フェイズ5】
酔った熊耳は、太田を旅館の窓から投げ飛ばす。香貫花も戻ってきた太田を窓から投げ飛ばして、「おあいこね」と満足する。

最後はドタバタになってしまうが、聞きどころは【フェイズ4】の早口合戦だ。香貫花役の井上瑤、熊耳役の横沢啓子(当時)とも、30代後半~40代の中堅声優として安定した人気と実力を誇っていた。けんか腰での早口言葉の競い合いは迫力たっぷりで、2人の女性声優の余裕を感じさせる。
香貫花と熊耳は「強気でプライドが高く、仕事のできる女性」という意味ではキャラがかぶっているとも言えるが、第9話「VS(バーサス)」での井上と横沢の表現豊かな舌戦を聞くと、2人の声優が競演することの豪華さ、贅沢さを実感できる。


論戦の裏で翻弄される、あるカニの運命


さて、このエピソードで香貫花と熊耳は向かい合わせではなく、並んで座っている。並んだ2人を、バストショットでとらえた構図が大半をしめる。そんな落ち着いた構図でエキサイティングな論戦を盛り上げられるのかというと、さりげないインサートカットで流れをつくっているのだ。
まず、【フェイズ1】で最初に2人が衝突した直後、旅館近くの海辺にカニが上がってくるカットがインサートされる。
つづいて【フェイズ2】で香貫花が熊耳のお酌を断った後、ほかのメンバーが険悪な2人の関係をフォローしようと相談しているシーンで、先ほど陸に上がってきたカニが浅瀬でじっとしているカットがインサートされる。同じ【フェイズ2】で熊耳が太田からお酌されて日本酒を飲み、「おいしいから困るのよね」とほほ笑んだ直後、大きな波が岩にぶつかり、カニは波にさらわれてしまう。
そして、【フェイズ3】で熊耳が天正遣欧使節の少年たちの名前を「言えます」ときっぱり言い切ったとき、カニは泡とともに海底の奈落へ落ちていく。

つまり、安定した構図で2人の姿をとらえるいっぽう、せっかく陸に上がったのに大きな波で海底に引き戻されるカニの運命をインサートすることで、事態が不穏な方向へ向かっていることを示唆しているのだ。特に、熊耳の「おいしいから困るのよね」という落ち着いた声音に、大きな波頭が「ザーン!」と勢いよくぶつかるカット繋ぎは、映像面からも音響面からも効果満点だ。
声優の冴えわたった芝居を、抑制のきいた演出が裏から支えていることも忘れてはならないだろう。「機動警察パトレイバー NEW OVA」では、第12話「二人の軽井沢」でも声優の演技をじっくりと楽しむことができる。


(文/廣田恵介)

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