「さよなら絶望先生」は、“縦書き”と“横書き”でキャラクターを描き分ける。【懐かしアニメ回顧録第66回】

2020年05月16日 18:000
「さよなら絶望先生」は、“縦書き”と“横書き”でキャラクターを描き分ける。【懐かしアニメ回顧録第66回】

久米田康治氏の漫画「かくしごと」がアニメ化され、先月から放送中だ。久米田氏の原作でヒットを記録したアニメ作品といえば、何と言っても「さよなら絶望先生」だろう。2007~2009年にかけて3度もテレビアニメ化されたばかりか、OVAも計5巻発売されている。今回は、第1作の「さよなら絶望先生」(2007年)から、第1話を見てみよう。

文字だけで完結してしまう、危ういギャグを視覚化する


高校生の風浦可符香(ふうら かふか)が、登校中に首をつっている男を助ける。後に可符香は、首を吊っていた男が新しく赴任してきた担任教師の糸色 望だと知る。糸色は自分の名前を黒板に縦書きして「いとしき のぞむ」と読むと説明するが、可符香は横書きにすると「ぜつぼう」と読めてしまうことを証明する。そのため、糸色は「絶望先生」とあだ名されてしまう……これが第1話のプロットだ。文字を使ったダジャレ的な落ちだ。
縦書きにすると「ぜつぼう」とは読めないが、横書きにすると「ぜつぼう」と読めてしまうことを視覚的に表現するため、どうしても文字が主役になってしまう。というより、黒板に書かれた「糸色望」という文字だけで、ギャグとしては完結してしまう。

「絶望先生」のアニメ化を担った新房昭之氏の監督作品では、翌々年の「化物語」(2009年)で膨大な文字のコラージュが特徴となっていくが、「絶望先生」でも文字がデザインとして意識されている。
第1話では、可符香が糸色にかけるセリフ「い… いけません」、糸色のセリフ「死ぬ気まんまんでしたよ」が画面いっぱいに、タイポグラフィ(デザインされた文字)として映し出される。ほかにも、可符香が糸色につけるあだ名「桃色係長」も、タイポグラフィで大きく映される。ストーリーが始まる前に引用されるスタンダールの「恋愛論」の一説、これも古風なタイポグラフィで表現されている。
注意したいのは、これらの文字が、すべて縦書きであること。縦書きの文字を最初から頻繁に挿入することで、「糸色 望」を黒板に縦書きする“文字だけで完結するギャグ”の唐突感を緩和しようとしているようだ(漫画ではセリフがすべて縦書きで文字化されているため、その必要はない。映像化に際して、縦書き文字をあらためて視覚的に挿入する必要があったわけだ)。


画面に対する縦の動き、横の動き


映画のトーキー(音声付き)化は1920年代後半に始まり、1930年代にかけて少しずつ広まったが、サイレント映画は根強く残った。ほぼ30年間も続いたサイレントによる劇映画は、セリフを字幕で表現することが多かった。
トーキーが広まって字幕が駆逐された後、劇映画の演出が十分に成熟した1960年に現れたのがジャン=リュック・ゴダール監督だ。完成された劇映画の様式を壊しまくったゴダール監督は、画面をタイポグラフィで埋め尽くして、文字を映像表現として活用した。その実験的な試みは、「化物語」でパロディ的に生かされている。

「さよなら絶望先生」第1話において、ギャグの落ちとして“縦書き文字”が重視されているのは、前述したとおりだ。そして、文字の配列に注意しながら見ると、映像デザインとしての「絶望先生」の新しい側面が立ち現れてくる。
たとえば、このエピソードの冒頭で、糸色は首を吊る。「縄で首を吊る」のは、“縦方向への動き”だ。首を吊った縄は切れるが、それもまた、縦方向への動きだ。
対して、可符香は糸色の名前を考えるカットで、“横方向へ”スライドする。ネガティブな糸色とポジティブな可符香。縦書きと横書き。縦への動きと、横への動き。2人のキャラクターの性格は、画面のうえで図案的に描き分けられているのではないだろうか。


(文/廣田恵介)

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