「涼宮ハルヒの憂鬱」第9話は台詞と構図を連動させて、登場人物の「関係」と「距離」を描く【懐かしアニメ回顧録第70回】

2020年09月05日 12:001
「涼宮ハルヒの憂鬱」第9話は台詞と構図を連動させて、登場人物の「関係」と「距離」を描く【懐かしアニメ回顧録第70回】

2020年9月18日から「劇場版 ヴァイオレット・エヴァーガーデン」が公開される。本作の監督の石立太一氏が、2006年に絵コンテ・演出で参加したテレビシリーズが「涼宮ハルヒの憂鬱」だ。今回は石立氏が絵コンテ・演出を担当したエピソードのうち、第9話(第1期放送時は第7話)「ミステリックサイン」を掘り下げてみたい。

キョンと長門有希の“距離”を、視覚的に表現する手段とは?


宇宙人や未来人、超能力者の存在を信じながらも平凡な日常に飽き飽きしている涼宮ハルヒは、SOS団という部活のようなグループを高校内に結成する。SOS団には、高校生のふりをした宇宙人や未来人、超能力者たちが集まってきて、特異な存在であるハルヒを監視している。しかしハルヒ本人だけがその事実を教えられず、彼女と親しい男子生徒のキョンだけが、ハルヒとSOS団の非日常的な関係を知っている。
「ミステリックサイン」では、ハルヒがでたらめに描いたSOS団のシンボルマークが太古に地球に飛来した知性体を目覚めさせてしまい、コンピューター研究部の部長が異空間に取り込まれるという事件が発生する。例によって、ハルヒ自身はそんな超時空的な大事件を起こした自覚はなく、失踪した部長の行方を少し探しただけで、すぐ飽きてしまう。SOS団の部室で、いつも読書している無口な長門という少女が事件を読み解いて、解決に導く。

さて、「涼宮ハルヒの憂鬱」は全編、キョンの主観によって語られる。キョンは身勝手で気まぐれなハルヒには思ったことを言うが、特殊な使命をおびて高校に派遣されてきたSOS団のメンバーたちとは、それぞれ微妙な距離感を保っている。
長門は第4話で、我が身を犠牲にしてキョンの命を助けてくれたことがあった(第4話も石立氏が絵コンテ・演出を担当)。長門は無口な読書少女を装ってはいるが、異星人の造った高性能アンドロイドだ。「ミステリックサイン」のラストシーンで、キョンは何も話さない無表情な長門が、いつも秘密裏に事件を解決し、時には寂しさを感じているのではないか……と、彼女の内面を想像する。
そのキョンの心情は、すべてモノローグで語られる。しかし、カメラは長門とキョンをていねいに構図におさめて、2人の間に横たわる気の遠くなるような距離を視覚的に演出している。少し、詳しく見てみよう。


流れる本のページは、長門の過ごしてきた茫洋とした時間を表している?


ラストシーン、夕暮れの部室で長門が無言で本を読んでいる。キョンは窓際に立って、長門を見ている。台詞は、キョンの長いモノローグのみである。
「ひょっとして、データを破壊してくれたのはこいつではないのか? そして、事件を持ち込んでくれた喜緑さん。聞けば部長氏いわく、彼女はいないそうだ。この絵に描いたようなシナリオの中心には、いつも長門がいた。この万能宇宙人端末が、喜緑さんをどうにかすることで俺たちに事件をもたらしたとしても、少しも驚かない。依頼人ごっこで、ハルヒの退屈を少しでも解消させてやろうとしたのかもしれない。いつもは誰にも言うことなく、何かおかしなものを未然に防いだりしているんじゃないだろうな。陰で、ひっそりと。それとも、俺たちを巻き込んだのは、長門。お前の希望だったのか? 殺風景な部屋で、何年も暮らす宇宙人製のアンドロイド。長門、やはりお前にもあるのだろうか? ひとりでいるのが寂しい、と思うことが」。

画面は、7つのカットから構成されている。

(1) 画面左側、右を向いて座り、本を読んでいる長門。画面右側、窓際に立つキョン。
(2) (1)と同じ構図で、長門とキョンをやや大きめに収める。
(3) さらにアップとなり、画面のほとんどは長門の目と髪。髪のあいだに、キョンが見える。
(4) 本を読んでいる長門を小さく正面からとらえる。カメラは横方向に早くPANする。
(5) 長門の膝の上、本のページが風にめくれる。長門の手が、めくれるページを止める。
(6) (1)~(3)と同じ方向から、長門の頭を画面に大きくとらえる。その右側にキョン。
(7) 足元から本を読む長門を捉える(縦にPAN)。長門の髪と本のページが、風に揺れている。

基本的な構図は、長門が画面手前で横向きに本を読んでいて、キョンは画面奥から長門を見ている……つまり、正面を向くことになる。長門は横向き、キョンは正面向き。視線の交差しない体の向きが、まずは2人の断絶を示唆している。
(1)~(3)、(6)は同一のカメラ位置から2人をとらえているが、画面の中での2人のサイズは少しずつ変化していく。キョンのサイズはそれほど変わらないが、カットが変わるごとに長門の面積が大きくなっていき、(3)では画面全体を長門が覆ってしまう。「シナリオの中心には、いつも長門がいた」というキョンの台詞に呼応して、構図も長門メインに移行していくわけだ。
さらに「俺たちを巻き込んだのは、長門。お前の希望だったのか?」、この台詞は、長門の右手が風にめくれるページをパッと押さえるカット(5)にかぶさる。長門の手は本を持ち上げ、「殺風景な部屋で、何年も暮らす宇宙人製のアンドロイド」と台詞はつづく。リピート作画でめくれる本のページは、キョンの台詞の「何年も暮らす」という時間の概念と結びつく。本のページを止める長門の右手は「未然に防いだりしている」という主体的なアクションと直結する。また、めくれるページを止める行為は長門の意志でもあるから、「お前の希望」とも重なるのではないだろうか?

このラストシーンでは、長門もキョンも無言でたたずんでいるだけで、会話すら交わさない。だが、キョンの内面の声は構図の変化にしっかりと反映され、流れる本のページを右手で止める長門の小さな動きが、キョンの考察と連動しているように見える。台詞と絵がからみ合い、言葉の意味を何倍にもふくらませている。アニメはラジオドラマではない。「動く絵」という武器があることを、あらためて実感させてくれるシーンだ。


(文/廣田恵介)

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コメント(1)
あおきんぐあおきんぐ2020/09/05 22:19

山本寛 @twilight_yutaka · 58分 こいつもとうとう「あっち側」に行っちゃったかぁ。 さよなら、提灯ライターさん。

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