「ベターマン」では、“身動きのとれないキャラクター”が世界の秘密を握っている?【懐かしアニメ回顧録第68回】

2020年07月25日 12:000
「ベターマン」では、“身動きのとれないキャラクター”が世界の秘密を握っている?【懐かしアニメ回顧録第68回】

テレビ放送の中断していた「食戟のソーマ 豪ノ皿」が、今月(2020年7月)から再開された。同シリーズの監督を務めている米たにヨシトモ氏が、1999年に監督したオリジナル作品が「ベターマン」だ。
擬似科学と神話世界が融合したようなオカルティックな世界観の中、怪物に変身できる謎のヒーロー“ベターマン”、探査用ロボット“覚醒人1号”などが怪現象に立ち向かう。今回のコラムでは第1話、「闇-YAMI-」での、キャラクターの役割を考察してみたい。

椅子に拘束されて動けない少女、紗孔羅がキーパーソン


まず、第1話のプロットを整理してみよう。
主人公・蛍汰の高校に、女生徒が転校してくる。それは、蛍汰と幼なじみの火乃紀(ヒノキ)であった。同じ頃、蛍汰の住む町の地下に建造された地下遊園地で、多数の死者が出ていた。アカマツ工業が現地調査にあたるが、彼らはアルジャーノンという伝染病のような怪現象の調査を依頼されていた。火乃紀はアカマツ工業の一員であり、社長から地下遊園地の捜索現場に呼ばれる。蛍汰は、たまたま地下遊園地に迷い込んでしまい、覚醒人1号というロボットに乗った火乃紀と出会う。なりゆきから覚醒人に乗った蛍汰は火乃紀と一緒に戦うが、窮地に陥ってしまう。彼らのピンチにかけつけたのは、巨大な怪物へと変身した超人“べターマン”であった……ここで、第2話へと続く。
蛍汰が未知の状況に次々と遭遇していく、わかりやすい巻き込まれ型のプロットだ。

ここで注目したいのは、アカマツ工業の特殊なトラクター内に座っている神秘的な少女・紗孔羅(サクラ)の存在だ。地下遊園地に迷い込んだ蛍汰は、覚醒人1号(および、そのパイロットである火乃紀)と出会うのだが、その前に、トラクター内で紗孔羅と会話している。
はかなげで、声の小さな紗孔羅は、メカニカルな椅子に拘束されており、身動きがとれない。その姿を見た蛍汰は「これ、どうやって取ればいいのかな」と拘束具を外そうとするが、紗孔羅は「取っちゃだめ」「私はこのままでいいの」と蛍汰に告げる。

身動きとれない紗孔羅は、覚醒人に巨大アトラクション用のロボットが襲いかかる直前、「来るよ!」「来たよ!」など警告を発する。また、蛍汰が黒い霧に包まれて危機に陥った際も(その場所からは見えないはずなのに)、ハッと顔をあげて反応している。
つまり、特殊な椅子に拘束された不自由な状態でありながら、目に見えない出来事を察知したり、短期の未来予知ができる――それが紗孔羅の能力であることが、第1話の描写からわかる。


蛍汰が、紗孔羅と同じように「椅子に座った」瞬間


身動きのとれない人物ほど、より多くのことを知っている――これは、劇映画の基礎原理と言ってもいい。
典型例は、アルフレッド・ヒッチコック監督の「裏窓」(1954年)。主人公は足を骨折したため一歩も動けないが、それゆえにアパートの裏窓から殺人事件を目撃することになる。「ダイ・ハード」(1988年)の主人公・マクレーン刑事は、民間人の会社社長が殺されるのを黙って見ているよりしかなく、以降もビルの窓や換気口から情報を集め続ける。自由に動けない人物ほど、もっとも多くの情報を持っている。物事を裏側から俯瞰して状況を把握しているのは、決まって動けない人物である。
だから、椅子に拘束されたままの紗孔羅が、ほかの人物に見えないことを次々と感知する設定には、映画史的な説得力がある。

では、主人公の蛍汰はどうだろう?
冒頭ではキックスケーターで登校したものの、トラックを避けそうとして信号にぶつかり、下校時にはキックスケーターで転んで、地下鉄入り口に突っ込んでしまう。
さらに、人間が溶けたような怪物(ぬれ女)に追われて地下遊園地の細いレールや階段を走りまわり、その途中でトラクターの中に拘束された紗孔羅と出会う。
紗孔羅と別れた後も、遊園地のアトラクション用の騎士型ロボットやカッパ型ロボットに追われて、スラップスティック映画のようにコミカルなアクションを繰り返す。
つまり、蛍汰はオーバーアクションで盛んに動き回るが、実は怪物に追われているだけであって、地下遊園地がアルジャーノンに侵食されている事実すら知らない。いちばん身体を動かしながらも、いちばん無知で無力なのだ。

しかし蛍汰は、第1話の終盤で、巨大な力を手に入れる。
火乃紀の乗った覚醒人1号の、もうひとつのコクピットが空席だったため、緊急措置として蛍汰が乗ることになるのだ。それまで走り回ってばかりいた蛍汰は、覚醒人のコクピットに座ったままになる。だが、そのおかげで蛍汰にはパイロット特性があることがわかり、今まで自分を追ってきたぬれ女を踏み潰し、騎士やカッパを覚醒人の腕で引きちぎる(この段階では火乃紀が操縦しているようだが、蛍汰は覚醒人の力に感激する)。
駆け回っているときの蛍汰は無力だが、座った瞬間に力を手に入れ、少しだけ世界の秘密に触れることができる。コクピットに座って身体的に身動きとれない間だけ、最強になれる――この視点からロボットアニメを振り返れば、今までとは少し違った景色が見えてくるだろう。


(文/廣田恵介)

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