岡本喜八ゆずりの軽快なテンポ感が、壮大なテーマへ結実していく! 「トップをねらえ!」の絶妙なカットワーク【懐かしアニメ回顧録第67回】

2020年06月20日 12:000

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今月から放送のはじまったテレビアニメ「GREAT PRETENDER」のキャラクターデザインは、貞本義行氏が担当している。その貞本氏が80年代後半、作画監督として腕をふるったOVA作品が「トップをねらえ!」第5話・第6話だ。

今回は、第5話「お願い!! 愛に時間を!」にスポットを当ててみよう。
地球に向かって、数億匹もの宇宙怪獣が接近中であることが判明し、地球帝国宇宙軍・参謀本部はある作戦を立てる。廃艦処分となっていた宇宙戦艦ヱクセリヲンの縮退炉を暴走させ、人工ブラックホールを発生させることで敵を呑みこもうというのだ。
主人公タカヤ・ノリコは先輩のアマノ・カズミとともに巨大メカ・バスターマシンに乗り込み、ヱクセリヲン艦の護衛任務につく。しかし、カズミの恋人オオタはあと半年の命であり、ノリコとカズミが亜光速での戦闘後に地球へ帰るころには、すでに地球では半年の時間が経過しているはずだ。
それら、大規模な作戦の進行とカズミとオオタの秘めた恋を同時に描き、クライマックスでは2機のバスターマシンが合体して巨大ロボ・ガンバスターが完成して大バトルを展開するなど、28分の間にさまざまな要素を投入されているが、歯切れのあるカットワークで、まったく飽きさせない。

名台詞「敵が七分に黒が三分」へ至るカットワークを再確認する


・赤い電話のアップ。
 SE(電話のベルが鳴る音)

・受話器を肩にはさんだ男のアップ。
 男「ええっ、何?」

・機器の奥で、メモをとっている男のバストショット。「宇宙軍情報部」のテロップ。
 男「聞こえない。ええ、こと座の?」

・メモのアップ。男が鉛筆で、「こと座」と書いている。

・電話のアップ、奥で男がメモをとりながら話している。
 男「326付近に?」

・再びメモのアップ。鉛筆の芯が、パキッと折れる。

・受話器に向かって話す男の口元、アップ。
 男「敵の大集団?」

・宇宙に浮かぶ監視衛星。
 (off)「そうだ! 敵の数が多すぎて、宇宙が黒く見えない。敵が七分で黒が三分。いいか、敵が七分に黒が三分だ!」

ラストの台詞の途中で、銀河系をPANしたロングカットに切り替わる。すなわち、敵宇宙怪獣の大集団が迫っていることを人類側が知る重要なシーンは、「電話を受けた男の口元」「メモしている鉛筆」など、アップを細かく重ねながら「電話の音」「芯の折れる音」など、シャープなSEを挿入することで効率的に情報を伝え、最後に銀河系をとらえるカットで大状況を俯瞰して見せているのだ。

ところで、「敵が七分で黒が三分」という最後の台詞が、岡本喜八監督の「激動の昭和史 沖縄決戦」(1971年)からの引用であることは、よく知られている。
元となったのは「本島西海岸一帯は米艦艇が多すぎて、海の色が見えない」という賀谷支隊長の台詞。司令部で電話を受ける三宅通信参謀が「何、海の色が? それじゃわからん」と聞きかえすと、賀谷支隊長は自ら受話器をとって「船が七分に、海が三分。わかったか? 船が七分に海が三分だ」と答える。
「トップをねらえ!」第5話は、実は冒頭からして「沖縄決戦」をトレースした痕跡がある。確かめてみよう。


「巨大な状況」と、「小さなリアクション」が生み出すテーマ


「沖縄決戦」の冒頭シーン。沖縄に米軍が迫る中、渡辺軍司令官は県民を激励するため、那覇市公会堂で講演している。「玉砕の覚悟を決めてもらいたい」と、軍司令官が壇上から訴える。次のカットで、空き瓶が公会堂の床をゴロゴロと転がり、講演を聴いている県民の足元の椅子にぶつかって止まる。直後、「激動の昭和史 沖縄決戦」のタイトルが、大きく画面に映し出される。
いっぽう、「トップをねらえ!」第5話の冒頭シーン。沖縄女子宇宙高等学校では、卒業式が行われている。ノリコとカズミが宇宙での戦闘を終えて地球に帰還すると、地球時間では10年が経過していた。同級生は全員、10年前に卒業していたのだ。同級生たちを思い出し、感傷にふけるノリコ。校長が壇上から「三年一組、タカヤ・ノリコ」と名前を呼ぶと、ノリコは驚いて立ち上がる。体育館の椅子がカタッと鳴るカットが入り、“第五話「お願い!! 愛に時間を!」”と、サブタイトルが大きく映される。

どちらも、「組織の長である男性が壇上から声をあげる」と「椅子が鳴る」、大きな状況と小さなリアクションが対比され、直後にタイトルが出る。大と小を織り交ぜたシャープなカッティングという意味で、「沖縄決戦」と「トップをねらえ!」は、明らかに通底している。

卒業式からの帰り道、ノリコは自分より10年早く卒業し、今では一児の母となっている同級生のキミコとすれ違う。ノリコとキミコが公園で話していると、空のかなたに巨大な宇宙船・ヱルトリウムが見える。キミコによると、ヱルトリウムは地球脱出用の船で、軍人が優先されるために、民間人で乗れるのは4千人に1人と少ない。
「私を軽蔑してもいいわ。……ノリコ。あなたのコネで、タカミの席、どうにかならない? あの子には、未来がほしいの」
タカミとは、まだ2歳のキミコの娘の名だ。
「キミコ……」
と、ノリコは絶句する。その直後、公園に停められたキミコの自転車の前カゴの中で、タマゴのパックが動き、「パキッ」とかすかに音を立てる。その小さなワンカットが、シーン全体をキリッと引き締める、あたかも句読点のような役割をはたしている。

このシーンでもやはり、「地球脱出」という大状況と、「公園で話す同級生とその子ども」という小さな存在が対比されている。
このシーンの後、ノリコはキミコの要望にこたえられないことを、タカミを通じて伝える。「キミコはすっかり母親なんだ。宇宙にいる間にこんなに時間がすぎて、私ひとり取り残されていく」と、ノリコはつぶやく。宇宙と地球で時間差があることは、「トップをねらえ!」を最後まで貫く巨大なテーマだ。
その観点に立つと、先ほどのタマゴのパックが鳴るカットで、見落としてはならないディテールが見つかる。キミコの自転車のカゴには、タマゴのほかに大根や缶詰などの食料品が積まれているが、ノリコが学校から持ち帰る途中の卒業証書と記念アルバムが、一緒に乗せられているのだ。つまり、自転車のカゴには10年の時間差、別々に流れる2つの時間が同居している。そう考えると、タマゴにはタカミの持つ「未来」という意味を重ねることもできるだろう。
そのような文学的なテーマが見つかるのは、われわれが完成した作品を後から見ているがためであり、制作時には単にテンポ感を出すための演出だったのかも知れない。逆を言えば、映像的な快感をシンプルに追求していくうち、磨かれた演出テクニックの隙間から、意味やテーマは勝手に発生していくのだろう。

(文/廣田恵介)

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(C) BANDAI VISUAL・FlyingDog・GAINAX

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