「王立宇宙軍 オネアミスの翼」の主人公は、なぜロケットの座席に座ったままなのか?【懐かしアニメ回顧録第46回】

2018年09月15日 12:000
(C) BANDAI VISUAL/GAINAX

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2018年9月14日(金)より、八王子市夢美術館で「王立宇宙軍 オネアミスの翼展 SFアニメができるまで」が開催中だ。それに先立ち、筆者は監督の山賀博之氏にインタビューを行った
この作品は、制作発表時は「王立宇宙軍 リイクニの翼」という仮題だった。主人公シロツグが、ヒロインであるリイクニの想いをかなえるニュアンスが含まれていて興味深い仮題だが、最終的には「オネアミスの翼 王立宇宙軍」のタイトルで、1987年3月に公開された(現在とは主題と副題が逆になっていた)。

オネアミスとは、舞台となる架空の王国の名前なのだが、劇中には「オネアミス」という言葉は出てこない。たった一度、敵国のテレビ番組を翻訳した字幕の中で「オネアミス王国」という文字が映るぐらいだ。
そもそも、オネアミス王国とはどこにあるのだろう? 別の惑星だろうか。この映画は、いつの時代のどこの話なのだろうか。一度も触れられることなく、異国情緒にあふれた景色がつづく。


主人公なのに「座席に座ったまま」のシロツグ


主人公・シロツグは、人工衛星を打ち上げる組織・宇宙軍に属しているが、計画は失敗につぐ失敗で死者まで出ている。そんな体たらくなのに、シロツグは街で知り合った少女・リイクニにいいところを見せようと張り切り、人類初の宇宙飛行士に志願してしまう。
王国全土が有人ロケット打ち上げ計画に熱狂するいっぽう、敵国はロケットを軍事的脅威と見なし、その奪取をもくろむ。

しかし、シロツグはロケット打ち上げのために敵国と戦うわけではない。シロツグは軍用機に乗って大空を舞うよろこびを感じたり、ロケットの打ち上げ中止に強く反対して仲間たちを鼓舞したりはするものの、飛行機やロケットの座席に座ったままで動かない。
副座の軍用機を操縦するのは、ベテランの空軍パイロット。ロケットを打ち上げるのは宇宙軍のメンバーたちと研究者グループの宇宙旅行協会だ。さらに、軍と癒着した自動車メーカー、ロケットを餌にして敵国に貸しをつくろうと画策する国防総省も「ロケットを打ち上げる」ために力を貸していると言えるだろう。
確かにシロツグはロケット先端部分の小さな座席に座っているだけだが、彼の周囲の人々や組織が互いに利用されたり、利用したりすることでロケット打ち上げ計画が進行していく――その複雑な構造に、この作品の魅力が詰まっているように思う。
では、その構造の複雑さは、具体的にどのように描かれているのだろう?


物事の要因は、いつも“画面の外”で起きる


前述したように、宇宙軍は実験の失敗で死者を出している。冒頭シーンは葬式だが、宇宙軍のメンバーは悲しむこともなく街へ繰り出して、酒場でゲームをして遊んでいる。
シロツグは親友のマティら、計4人でテーブルを囲んでいる。「おい」と仲間の声が聞こえて、シロツグたちは画面外から投げられた酒の小瓶を受け取る。テーブルに座っているのは4人だが、小さな酒瓶は5本投げられ、1本はテーブルの後ろの飾りにぶつかって割れる。

このように「画面の外」でアクションが起こり、「画面の中」でリアクションが描かれるシーンが、この作品にはいくつかある。例をあげよう。

宇宙旅行協会が秘密裏に新型ロケットの開発を進めており、シロツグとマティは建設工場に案内される。協会の中心人物、グノォム博士が彼らの前に現れる。博士は体にハーネスをつけて、クレーンを操作することで工場内を上下左右に移動する。
シロツグとマティが見上げる中、博士は上へ移動して画面外へ出ていく。博士が出ていった後、画面外から工具が落ちてくる。無論、博士が落とした工具なのだが、落とすアクションは画面の外で、画面の中では「落ちた」という結果だけが描かれる。

王国のロケット打ち上げ計画を脅威に感じた敵国は、宇宙飛行士そのものを消してしまおうと暗殺者をシロツグの元へ差し向ける。
そうとは知らないシロツグは、マティと街中を歩きながら、自分の存在価値について話している。会話が終わったところで、シロツグが何となく手にしていた金物屋の鍋がカーン!と金属音をたてて手元から跳ねる。シロツグとマティが後ろを向くと、暗殺者が銃から空薬きょうを抜くところだ。鍋は、シロツグを狙った銃弾の衝撃で跳ねたのだ。ここでも「銃を撃つ」アクションは画面の外で起こり、「鍋が跳ねる」結果だけを画面内で描いている。

シークエンス(シーンの集まりをシークエンスと呼ぶ)単位では、「リイクニがシロツグに助けを求めて電話する」「シロツグが駆けつけるとリイクニの家が壊された後だった」「家が壊されたのは電力会社が火力発電所をつくるため」「リイクニの家は他人に借金をしていた叔母のものだった」、このようにシロツグが最後の最後に巡ってきた結果にだけ立ち会う場合もある。
画面の中で起きることには必ず原因があり、その原因は画面の外で起きている。逆に言えば、画面の外にこそ世界が広がっていると、観客は想像しつづけることになる。カットの外、シーンの外、シークエンスの外、さらに言うなら映画の外にまで、幾重にも世界が広がっている――そのような想像力を喚起する構造が、「オネアミスの翼」には仕組まれているのではないだろうか。


(文/廣田恵介)
(C) BANDAI VISUAL/GAINAX

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王立宇宙軍 オネアミスの翼

王立宇宙軍 オネアミスの翼

上映開始日: 1987年3月14日   制作会社: GAINAX
キャスト: 森本レオ、弥生みつき、内田稔、飯塚昭三、村田彩、曽我部和恭、平野正人、鈴置洋孝、伊沢弘、戸谷公次、安原義人、徳光和夫
(C) BANDAI VISUAL/GAINAX

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