【懐かしアニメ回顧録第31回】“見る”ことと“聞く”ことで深化する「機動戦士ガンダム0080 ポケットの中の戦争」の世界

2017年06月24日 17:000
(C) SOTSU・SUNRISE

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宇宙世紀を舞台にしたガンダムシリーズ最新作「機動戦士ガンダム Twilight AXIS」の配信が始まっている。鍵をにぎるのは謎のガンダム型モビルスーツ“トリスタン”。「機動戦士ガンダム0080 ポケットの中の戦争」(1989年/以下、ポケ戦)に登場したニュータイプ用ガンダム“アレックス”の改修機という設定だ。
「ポケ戦」に登場したモビルスーツのバリエーションは珍しい。ガンダムシリーズ初のOVAである「ポケ戦」(全6話)とは、いかなる作品だったのか、検証してみよう。


アル少年の目には、何が見えていたのか


舞台は、サイド6内にあるリボー・コロニー。ジオン公国と地球連邦軍の激戦とは無縁だった中立地帯のリボー・コロニーに、連邦軍の新型モビルスーツ“アレックス”がひそかに搬入される。
アレックスの奪取または破壊を目的としたジオン軍のサイクロプス隊も、リボー・コロニーに潜入。サイクロプス隊の新米兵士・バーニィはリボー・コロニーに暮らす民間人の少年・アルと知り合う。軍隊やモビルスーツに無邪気な憧れをもっていたアルは、ふとしたことからアレックスの搬入コンテナを目撃し、サイクロプス隊の手助けを申し出る。
ところがサイクロプス隊はおとりであり、彼らがアレックスを破壊できない場合は、リボー・コロニーごと核ミサイルで殲滅する計画が進められていた。仲間をすべて失ったバーニィは、アルと協力して強敵アレックスを倒し、リボー・コロニーを守ろうと決意する。

この物語は、アル少年が、自分と関係なかった物や人や状況を「目撃する」ことで進行していく。
ビデオカメラを肌身はなさず持ちあるいているアルは、前述したとおり、アレックスの搬入コンテナを覗き見て、カメラに収める。アルの撮った画像を見たバーニィは、ジオン上層部に画像をリークする。アレックスの存在を確信した上層部は、サイクロプス隊をリボー・コロニーに派遣する。つまり、アルがコンテナを目撃したことで物語が転がりだすのだ。
もしかすると、「アルが何を見てきたのか」を列挙すれば、ほぼ物語の全容がつかめるのではないだろうか? やってみよう。

■アレックスのコンテナを見る。
■隣の家に越してきた女性、クリスを見る。
■連邦軍とジオン軍の戦闘を見る。
■バーニィの乗ったモビルスーツ(ザク)を見る。
■森林公園に落下したザクの上に、バーニィの姿を見る。
■戦闘で街が破壊されているのを見る。
■コロニーの外で行われている戦闘を見る。
■バーニィの乗ったサイクロプス隊のトラックを見る。
■サイクロプス隊がモビルスーツを組み立てるのを見る。
■秘密基地に勤務する連邦軍関係者を見る。
■秘密基地内でパーツ状態のアレックスを見る。
■サイクロプス隊の面々が死んでいくのを見る。
■アレックスにパイロットが乗り込み、起動するのを見る。
■アレックスがサイクロプス隊のモビルスーツを倒すのを見る。
■バーニィだけが生き残っているのを見る。
■建物の残骸から、子供の死体が出てくるのを見る。
■自分の部隊章に仕かけられていた盗聴マイクを見る。
■街と学校が核ミサイルで吹き飛ぶ“イメージ”を見る。
■学校が戦闘によって半壊しているのを見る。
■同級生たちが生きているのを見る。
■修理されたザクの腕に乗って、自分の住む街を見る。
■アレックスが、バーニィの乗ったザクを刺し貫くのを見る。
■アレックスのコクピットから、クリスが運び出されるのを見る。
■バーニィから託された映像メッセージを見る。

最後の映像メッセージはアルのPOV(主観ショット)であり、無駄死にしたバーニィの最後の姿を、アルがどんな顔で見ているのかは、一切描かれていない。そして、バーニィが画面内でほとんど動かず、セリフで自分の気持ちを語っている点に気づいてほしい。
この場面では、物語のうえで重要な場面を「見て」きたアルが、バーニィの胸のうちを「聞いて」いるのだ。校長先生がスピーチをするラストシーンでも同様で、アルは校長先生の言葉を「聞いて」いるうちに泣き出してしまう。「見る」ことで事態に関わってきたアルは、「聞く」ことによって物語の内側に触れる。


「聞く」立場のバーニィが、最後に「見た」もの


さて、アルが「見る」のに対して、バーニィは「聞く」ことを行動の動機にしている。
サイクロプス隊が全滅し、バーニィはアルと別れ、ひとりで宇宙港から逃げ出そうとする。しかし、港のバーで見ず知らずの女が泥酔したまま恋人に電話して、「何よ、ウソばっかり言って」「ウソを言い通す根性もないくせに!」と泣き叫ぶのを「聞いて」、逃げるのをやめる。
アルと協力して墜落したザクを修理するシーンでも、「アル、聞こえるか?」と無線で聞くのがバーニィで、アルはコクピットのモニターを見て報告する係だ。映像メッセージでも「アル。いいかい? よく“聞いて”くれ」と言っている。つまり、バーニィは「見る」だけだったアルに「聞く」ことを教えているとも受けとれる。「見る」から「聞く」に行動の主軸に移すことは、傍観的だった少年期の終わりを意味しているのかも知れない。
アルは、バーニィの死を「バラバラに吹き飛んじまってる。ミンチよりひでぇよ」という連邦軍兵士の会話から「聞かされる」。アルにとって「見る」だけの時代は終ったのだ。

最後にひとつだけ。話を聞いたり聞かせたりするポジションに位置していたバーニィだが、彼にも一瞬だけ「見る」シーンがある。
アルと別れた夜、異性として気になっていたクリスの家を、バーニィは寂しそうに見つめる。すると、ツリーの飾られた明るい部屋で、両親とクリスマスを祝っているクリスの笑顔が映る。しかし、バーニィはクリスの家を車内から眺めているだけなので、家の中の様子や表情まで見えるわけがない。つまり、バーニィが見たのは、彼のイメージでしかない。あるいは、カメラは彼に見えなかったシーンを「バーニィとは関係のない世界」として、わざと映したのかも知れない。
いずれにしても、ただ「見る」だけの無力さを「ポケ戦」は教えてくれる。他人の心のうちを理解するには「聞く」しかないのだ。


(文/廣田恵介)

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