ロボットアニメの必須アイテム“ヘルメット”を、「伝説巨神イデオン 発動篇」はどう使ったか?【懐かしアニメ回顧録第69回】

2020年08月22日 12:000

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今年、テレビ放送から40周年を迎えた「伝説巨神イデオン」(1980年)。テレビシリーズが打ち切りになった後、物語を完結させるべく1982年夏に公開された劇場作品が「伝説巨神イデオン 接触篇」、「発動篇」の2本だ。今回は、劇場用にほとんどのシーンが新たに作画された「発動篇」について触れる。

「表情が消える」ことで、死を実感させる演出


「発動篇」では、無限のエネルギーを持つソロシップとイデオンに乗った主人公たち、彼らを追う異星人バッフ・クランが総力戦の末、両者とも全滅して終わる。その展開上、強烈な死の描写が続出する。

■シェリル……彗星が接近する中、宇宙服を着てソロシップの甲板に立ち、衝撃で吹き飛ばされる。
■カララ……ソロシップの艦橋で、乗り込んできた姉のハルルに顔面を銃撃される。
■カーシャ……同じくソロシップの艦橋で、武器を準備している最中に爆風をうけ、破片が顔に刺さる。

この3人の死に共通しているのは、宇宙服やパイロットスーツのヘルメットの透明部分が割れること。シェリルはバイザーが外側に向けて砕け、顔がむき出しになる。カララとカーシャがバイザーごしに銃弾や破片が顔に刺さる。
描写を細かく見ていくと、カララは撃たれてから画面奥に後退する際、顔面がヘルメットの色一色となって、表情が見えなくなることに気づく。カーシャも同様、爆風で吹き飛ばされた後はびっしりと亀裂の描かれたバイザーのみで、顔は描かれなくなる。つまり、バイザーが顔の表情、面相を隠すことで「死」を強く意識させている。

では、ヘルメットが死の記号として使われているかというと、そうとも限らない。
非戦闘員であるカララが、バッフ・クランの軍用ヘルメットを手に入れたのは、敵艦の内部へ謎の力で転送されてしまったときだ。ソロシップ乗組員のジョリバも一緒に飛ばされてしまい、さらにカララをかばって怪我を負ってしまう。
敵艦から脱出する際、カララはバッフ・クランの宇宙服を着用して、傷ついたジョリバにヘルメットをかぶせる。おりしもソロシップが救援に駆けつけており、カララは「ソロシップが来てくれました、ジョリバさん」と、ジョリバをはげます。このシーンでは、ヘルメットは生きのびるための希望のアイテムだ(外は宇宙空間なので、ヘルメットは生命維持に必須だ)。


ヘルメットをかぶらないのは「美貌が隠れる」から?


カララのヘルメットは、彼女が姉のハルルに撃たれるときにかぶっていたものだ。しかし、ソロシップの艦橋で恋人のベスと再会したカララは、ヘルメットを脱いで、彼とキスを交わす。2人はカララの妊娠を喜んでいる。つまり、ヘルメットを脱いだとき、死はもっとも遠いところにあるかのように見える。
カララとベスのキスを見ていたカーシャは、主人公のコスモに向かって「ねえ、コスモ。しよう」と唇をつきだす。だが、2人のパイロット用のヘルメットがぶつかってしまい、キスはできない。その少し前、コスモにからかわれたカーシャは、ヘルメットをぶつけて文句を言う。コスモとカーシャのやりとりは親しげで、人間臭い。だが、ヘルメットの存在が2人の間に距離を生じさせている歯がゆさも、同時に伝わってくる。

いっぽう、バッフ・クラン側では、ヘルメットをめぐる直接的な会話がある。
先ほどのシーンの直後、ハルルは部下のトロロフ、キラルルがメカのコクピット内でもヘルメットをかぶっていないことを「軍機違反だぞ」と、とがめる。

トロロフ「どうも、性に合いません」
キラルル「トロロフは、ヘルメットで自分の美貌が隠れるのがいやなのです」
ハルル「それなら、キラルルとて同類だろうが。で、2人がそうならば私はどうなる? 死ぬまでヘルメットをしてはならぬわけだ」
トロロフ「仰せのとおりです」
ハルル「お世辞はいい」

3人の美女は、メカのコクピットで笑いあう。
ところが、ソロシップの艦内にカララを探しに潜入したキラルルとトロロフは、口元の隠れる重厚なヘルメットをかぶっている。同じヘルメットをかぶった兵士にトロロフは「カララはどこにいるのか?」と聞く。すると兵士は、トロロフが上官だと気づかずに「知るかよ、この奥じゃないのか?」と、乱暴な口をきく。
そして、名もない兵士に先導されて艦橋にたどりついた3人のうち、トロロフはバズーカに吹き飛ばされて死ぬ。ヘルメットをかぶった者には、平等に死が訪れるのだろうか?
ヘルメットをかぶっていたハルルは生きのびるが、戦艦で指揮をとるシーンでは「指揮官が率先して逃げ支度は、士気にかかわる」と、宇宙服の着用をこばむ。「このブリッジは大丈夫と、兵どもに思わせねばな。……それに、私の美貌が隠れてしまう」。
軽口を叩いたものの、ハルルはヘルメットをかぶらないまま戦死する。

「イデオン 発動篇」では後半、守られるはずの子どもたちまで宇宙服に身をつつむ。赤ちゃんまで宇宙服の中に入れられる。ヘルメットは、死を遠ざけるわけではない。ヘルメットの必要な世界は戦時下であり、油断のならない非常時である……という過酷な現実だけを、「イデオン 発動篇」は無慈悲に繰り返すのだ。


(文/廣田恵介)

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