“アイレベル”の高低で人間関係がわかる、「RD 潜脳調査室」の機能的構図【懐かしアニメ回顧録第49回】

2018年12月24日 12:000
(C) Production I.G・士郎正宗/NTV・VAP・IG・DNDP

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来年2019年1月、手塚治虫の漫画「どろろ」が、再度アニメ化される。監督は、「機動戦士ガンダムUC」などで知られる古橋一浩氏。その古橋監督が2008年に監督したサイバーSFアニメが「RD 潜脳調査室」だ。
主人公はダイビングを職業とする青年、波留真理。波留は友人の依頼で海に潜っているとき、謎の現象に巻き込まれて、意識を失ってしまう。50年後に目覚めた波留は、車椅子なしには生活できない老人になっていた。しかし、“メタル”(メタリアル・ネットワーク)と呼ばれる海中そっくりの仮想空間が構築されており、メタルの中へダイブすれば、波留は青年の姿で悠々と泳ぐことができるのだった。波留はメタルに潜入する調査員となり、彼を介助する少女、蒼井ミナモとコンビを組んで難事件に挑んでいく。

第1話と第2話は前後編となっており、波留はメタルにダイブし、ミナモとの連携プレイで人工島を襲った停電を解決する。だが、普段の波留は車椅子から立ち上がれない老人だ。15歳のミナモとは身長差がある。この2人を、画面内ではどうからませているのだろうか?

「アイレベル」を意識すると、人物の位置関係が気になってくる


第1話のアバンタイトルでは、50年前、若かった頃の波留が、海中で謎の現象に巻き込まれる様を描いている。タイトルが明けると、50年後の人工島だ。年老いた波留は、桟橋で釣り糸を垂れている。まずフルショット(全身像)、続いてバストショット(胸から上)。どちらも、車椅子に腰かけた波留の目の高さに、カメラが据えられている。このカメラの高さのことを「アイレベル」と呼ぶ。
アイレベルが低ければ、人物を足元から「あおり」で撮ることになる。アイレベルが高ければ、人物を頭上から「俯瞰」で撮ることになる。アイレベルの設定次第で、構図に劇的効果をもたらすことができるが、波留の登場カットはすべて波留の目の高さにアイレベルが設定されている。すると画面は硬直し、車椅子に座ったまま、周囲からの介入を拒む波留の頑固さを強く印象づけることとなる。

さて、そこへミナモが現れる。「あの……」と呼びかけるミナモの声に、波留は視線をそらしたまま「僕は君を必要としない。帰ってくれないか?」と素っ気なく答える。やはり、アイレベルは彼の目の高さだ。波留の返事に「そんなあ!」と、大きな声で答えるミナモ。波留は、ミナモの大声に驚いて振り返る。カメラは水平に波留の顔の前を移動して、波留の視線の先を追う。そこには、セーラー服を着たミナモが立っている。だが、波留の反応にショックを受けたミナモは、その場に座り込む。アイレベルは波留の目の高さのままなので、ミナモを見下ろした構図になる。「……すまなかった。で、君は?」という波留の呼びかけで、ミナモは立ち上がる。カメラが縦方向にPANして、立ち上がるミナモを追う。すると、先ほどとは逆に、今度はミナモを見上げる構図になる。ミナモは元気に自己紹介をはじめる。

■落ち込んだミナモ→アイレベルより下→見下ろす構図
■元気になったミナモ→アイレベルより上→見上げる構図

アイレベルを、車椅子に座った波留の目の高さに設定したおかげで、ミナモの感情や立場を、構図で効果的に伝えることができるわけだ。


ミナモは、どうして波留の前で「しゃがむ」のか?


実に興味深いことに、第2話では第1話の波留とミナモの出会いを、ミナモの回想シーンでとして、別アングルから描き直している。
ミナモの目線から波留を見ると、彼はアイレベルより下に座っており、いかにも矮小な老人に見える。そして、波留に「帰ってくれないか?」と拒絶されたミナモが座り込むと、今度は波留を見上げる構図になる。
ミナモの目の高さにアイレベルを設定しなおすと、波留との力関係が上になったり下になったりする。15歳の少女が立って話すと、どうしても車椅子の老人を見下ろす構図になってしまうことも、あらためてわかる。

さて、第1話から第2話にかけて、ミナモは停電になった人工島を復旧させようと、島中を走り回る。いっぽう、波留は“メタル”の仮想現実にダイブして、データにアクセスすることで、ミナモの行動をバックアップする。
つまり、波留とミナモは助け合って人工島を救ったわけだ。事件の後、2人の関係はどう変わったのだろう?
電気の戻った夜の人工島で、ミナモは車椅子に乗った波留と再会する。ミナモは波留のもとに駆け寄ると、しゃがんで彼の手を握る。アイレベルが低くなり、ミナモが波留を見上げる構図となる。さて、協力して事件を解決した2人は、対等の関係になれたのだろうか? それとも、波留のほうが少し上の立場になったのだろうか? 構図から読み解いて解釈するのも、面白い。


(文/廣田恵介)
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