【懐かしアニメ回顧録第15回】プレスコ方式によって生じる音楽性 パターンにとらわれない「紅」の演技の振れ幅

アキバ総研 | 2016年02月14日 11:00
【懐かしアニメ回顧録第15回】プレスコ方式によって生じる音楽性 パターンにとらわれない「紅」の演技の振れ幅

さて、中年ライター・廣田恵介は「機動戦士ガンダム サンダーボルト」を、ネットで視聴して楽しんでいる。すでに第2話の配信が始まっているが、監督は松尾衡監督だ。松尾監督の作品は、どれも手堅い。「サンダーボルト」も、音楽と映像のマッチングが、よく計算されている。


プレスコによって、声優の演技はパターンを脱する


さて、今回は数多い松尾衡監督作品の中でも、「紅」(2008年)をとりあげたい。

片山憲太郎氏の小説を、全12話に構成しなおしたのは、松尾監督自身である。のみならず、松尾監督は全12話中7話分の脚本を書き、10話分の絵コンテを単独で切っている。

そこまでは、「監督」の仕事として当然のように思えるかもしれないが、「紅」で特筆すべきは、松尾監督が(声優に演技指導を行う)音響監督まで務めていることだ。

監督が音響監督を兼任することは、まれにある。ここで注目すべきは、「紅」がアフレコではなく、先に声優の演技を収録する「プレスコ方式」で作られたことだ。

アニメの作画は「3コマ」が基本。8枚の絵を3コマずつ撮れば、24コマ(1秒間)の動きができあがる。3コマ作画は、演技にも影響を与える。筆者は「3コマ喋り」という俗語を耳にしたことがある。3コマの動きのリズムさえ覚えておけば、声優は、絵とシンクロしたセリフを喋ることができるというのだ。

この「3コマ喋り」が、どのようなニュアンスで発せられたかまでは覚えていないが、アニメの動き・演技がパターンに陥りがちなのは、その制作システムがきわめてデジタル的に構築されているからだ。声優の生理を尊重したプレスコならば、パターンから脱する可能性が高まる。



日常的なミュージカルシーンの荒削りな魅力


「紅」の基本ストーリーを解説しておこう。もめごと処理を稼業とする謎の女・紅香に雇われた、高校生の紅真九郎が主人公だ。特殊能力をもつ真九郎は紅香の依頼で、大財閥の九鳳院家から、奥ノ院と呼ばれる離れに隔離された紫という幼い少女を助け出す。

(九鳳院は「くほういん」、奥ノ院は「おくのいん」と読む。これらの固有名詞が、声優の口から発せられると、なんとも耳に心地よい。)

真九郎は、古アパート五月雨荘の自室に、紫をかくまう。「さみだれそう」、この言葉の響きも語呂がよく、音楽的でさえある。

面白いのは、奥ノ院で育てられた紫と、五月雨荘に住む、ワケありな女たちとのチグハグなやりとりだ。人格の完成された女たちと、まだ7歳の紫とでは話すテンポからして違うため、彼女たちのかけ合いが、大きな聞きどころとなっている。

白眉は、ミュージカルの練習シーンがメインの、第6話だろう。五月雨荘の面々に、真九朗の同級生も加わって練習するのだが、どうしても音程がそろわない。真九郎は歌の途中で1人ひとりに「ハイ、むらさーき」「やみえさーん」と、合図を入れる。いわば、真九郎は歌いながら喋っている。プレスコという自由な場でなければ、不可能な演技だっただろう。

この第6話の練習シーンには伴奏が加わり、ついには、自由奔放なミュージカルへと発展していく。

 

昨今のアニメは、ステージでの歌唱シーンが増えた。手描きの場合、音楽を先に完成させて、スポッティングシートをもとに作画される。すでに、確立された手法があるのだ。

だが、「紅」第6話のミュージカルは、プレスコによって構成された、日常芝居の延長上に位置している。その荒削りなミュージカルシーンを見ていると、アニメにおける芝居、声を使った演出には、まだまだ開拓されていない沃野が広がっていると思わずにいられない。



(文/廣田恵介)

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(C) 片山憲太郎・山本ヤマト/集英社・「紅」製作委員会

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