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「絵コンテをすべて清書すれば、アニメ映画になる」? アニメは絵なのか、映像なのか?
── 金子さんが美術監督をしてきた作品は、「キルラキル」や「ブブキ・ブランキ」、「リトルウィッチアカデミア」や「サカサマのパテマ」など、独特の世界観のものが多いですね。 金子 ディズニーの作品を見ていると、ああいう作風の背景を描きたくもなります。ですが、基本的に日本のアニメは日常系や学園物が多めなので、考えまいとしていました。アニメの背景美術は一般的な日常風景を描くことの方が多く、「リトルウィッチ~」のような世界観の作品をやりたくても機会がないかぎり出来ないんです。僕自身、ずっと学校の教室を描くものだと思っていたので(笑)、いろいろな世界観の背景を描けて、とても幸運だと思います。
── 「ブレードランナー ブラックアウト2022」(2017年)の美術監督もなさってますね。変わった世界を描けるから、ユニークな作風の依頼があいついだわけではないんですか? 金子 そういう認識は、ないですね。たまたまオリジナル作品が続いたからであって、ああした作風の作品が得意というわけではありません。アニメの美術は、何でも描けなくてはいけませんので。ただ、Eveさんのミュージックビデオ「僕らまだアンダーグラウンド」(2019年)では、背景の模型を作りました。模型でアニメの背景美術を作った人は、さすがにいないでしょう(笑)。せっかく会社をつくったので、普段あまりやらないことにトライしてみました。
── ほかに、金子さん独自のアイデアを生かした作品はありますか? 金子 「日本アニメ(ーター)見本市」で吉浦康裕さんが監督した「PP33 -POWER PLANT No.33-」(2015年)は、怪獣をBOOKで動かしたいと僕から提案した企画です。吉浦監督は、本当にその方法で実現可能かどうか、コストも含めて検討しました。「どんなストーリーなの?」と膨大にやりとりして、今にして思うと、それが企画会議でした。
── 今までたくさんの作品を手がけてきて、いちばん大変だった作品は? 金子 「ブブキ・ブランキ」は2クールで、丸2年間かかりっきりでした。「キルラキル」も2クールでしたけど、こちらは4話程度しかストックがなくて、放送しながらつくっていったので大変でした。「サカサマのパテマ」は新人なのに劇場アニメを丸1本かかえることになって、かなりのプレッシャーを感じていました。それぞれ思い入れがありますが、先輩方のお仕事を見ていると、まだまだハードルが沢山あるんだなあ……と思います。「美術会社は、年にテレビシリーズ2本、劇場アニメを1本回していくのがベスト」と、背景マンだったときに聞いたことがありますが、本当にそうだと実感しているところです。
── 理想どおりのペースで仕事できていますか? 金子 半年ズレ、1年ズレぐらいは当たり前の業界です。自分が関わっている作品では、最大で4年ズレている作品さえあります。ですから、ちゃんと進みそうな企画と「これは動かないな」という企画とを、読み分ける必要があります。作品の進捗を読むのは、波乗りに近いと感じます。波の薄いときと高いときがあるので「もうじき、あっちで波が立ちそうだな」と潮目を読みながら、小船が沈まないようにオールを漕いでいるような感覚です。
── アニメの背景美術は「1枚の絵画とは違う」と聞いたことがあります。しかし、美術監督ごとに「画集」が出ているのだから、やはり“絵”ではないのかと思ってしまうのですが……。 金子 僕は学生時代に美術部に属していたわけではないし、生粋の絵描きではありません。映画が好きで、映像の仕事がしたくて、たまたま背景美術の世界に入っただけなんです。背景描きで多いのは、風景をスケッチするのが好きな人です。スケッチは、純粋な“絵”ですよね。だけど、アニメーションは“映像”、絵が流れるものだと僕は思っています。「戦艦ポチョムキン」のように、モンタージュ理論に基づいた映像作品ですね。僕は心のどこかで、「絵コンテを全ページ清書すれば、アニメになる」と思ってます。絵コンテどおりに全カットを撮影すれば、実写映画になる。だとすれば、絵コンテを1カットずつ、きれいに清書したものがアニメではないでしょうか。
たまたま、テレビで手塚治虫さんのドキュメンタリーを見たのですが、「がんばって描いた絵がダーッと流れていくエロティシズムこそがアニメだ」という意味のことをおっしゃっていました。印象
派の絵画ではなくて、ジャブジャブと目の前を絵が流れていくのがアニメの快感なんだろうな、と思いました。みんなで一生懸命に描いた絵が綺麗に流れていってこそ良いアニメになるんだとしたら、背景美術も描きこみや精度も大切ですが、流れこそが大事だと思っています。
(取材・文/廣田恵介)