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“見た人の印象に残るようないい作品”という、言語化しづらい目標
── すると、たまたまウルトラスーパーピクチャーズに間借りしていたおかげで、Ordetやトリガーの作品に関わることができたわけですね。サンジゲン制作の「ブブキ・ブランキ」(2016年)も、その繋がりですか? 金子 はい、「キルラキル」の演出をしていた小松田大全さんが「ブブキ・ブランキ」の監督をすることになり、そのタイミングで声をかけていただきました。ですから、当初はトリガーの席で「ブブキ~」の仕事をしていました。「ブブキ~」の次の「ID-0」(2017年)を作業している間は、サンジゲンさんに所属していました。次の作品に決まった「ひそねとまそたん」(2018年)はボンズ制作ですから、ひと区切りつける意味で、サンジゲンさんからは独立する形にさせていただきました。
── 現在は、自分の会社で仕事を請けているわけですよね。金子さんの会社で働いているスタッフは、絵を描くだけなんですか? 金子 最近は、打ち合わせにも同席してもらっています。美監補佐として、責任ある仕事をしてもらいたいからです。僕が一社員として背景を描いていたころを思い返すと、ただ社内で絵を描いているだけでは、仕事全体のことを把握できませんでした。自分が伸びたのは、外に出て人と話していた時期でしたから、新人にもなるべく同じ経験をさせてあげたい。だけど、何も知らない若者を外に放り出してもボコボコにされて帰ってくるだけですから、コミュニケーションの仕方も含めてフォローはします。また、「ひそねとまそたん」は手描きの背景が似合う作品と思っていたので、新人育成のためにも手描きでやらせてほしいと、ボンズさんにお願いしました。新人の美術スタッフを中心に、どうにか1クールを走りきることができました。
── 今、アニメーションの美術をやりたがる人材は足りているんですか? 金子 「作品の本数に背景の数が追いついていない」と、よく言われています。僕もそういう混乱した時期に独り立ちして、幸いにも途切れずに仕事をもらえているので、チャンスととらえることもできます。ただ、経験が足りないと、基礎力の低下はどうしても起きてしまいます。いずれは独り立ちするにしても、最低限の基礎は教えてあげたいと、いつも思っているのですが……そうは言っても絵ですから、主観に左右されてしまうんです。監督さんと打ち合わせしていて「彩度を高く」「もう少し粗く」と言われても、僕の考えている「彩度」や「粗く」とは齟齬があったりします。よくよく聞いてみると、まったく逆の意味だったりします。監督さんも絵描きである場合が多いですから、根気よく話し合いながら1枚1枚の絵をつくっていくしかないんです。
── 仕事を続けるうえでは、やはりプロデューサーとのつながりが大事ですか? 金子 最近はプロデューサーから声をかけられることが増えましたが、フリーになった当初は、いろんなセクションの人と話せるのが楽しかったです。そう思っていたら、皆さまが出世してプロデューサーや監督になって、それで声をかけていただいている感じがします。プロデューサーや監督はいい作品をつくらねばならないので、つねに高い理想を目指しています。僕なりの美意識としては、「監督の目の役割を果たす」ことが出来たら理想的と思ってます。だけど、それが難しい。メインスタッフを好きなようにケンカさせて、なんとなく場ができるのを待つ監督もいます。各セクションのスタッフが互いにイメージを探りあいながら、“その作品らしさ”をもみ合う期間があります。「見た人の印象に残るようないい作品をつくる」――そこがいちばん生モノというか、言葉にしづらい曖昧な部分と感じてます。