この20年で大きく変わった中国の三国志事情、 昔は嫌われていた曹操が今では大人気で感情移入の対象に【中国オタクのアニメ事情】

2023年01月01日 12:000

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三国志各勢力、武将の人気や評価の変化


中国における三国志を取り巻く状況の変化について大まかに説明させていただきましたが、次に近ごろの中国における三国志の各勢力や武将の人気と評価について、私の見聞きした範囲になってしまいますが、比較的目立つところを大雑把に紹介させていただきます。
魏:曹操の人気が非常に高く、軍師の人気も高い
近年の中国の三国志事情において人気と評価の変化がもっとも大きいのが曹操です。
ひと昔前の伝統芸能や民間演芸からの影響が大きかった時代の曹操は悪役、それもやられ役的なポジションのイメージも強かったそうで、上の世代の中国のオタクの方からは
「日本の三国志ゲームが中国に入ってきた際に、武将のキャラ付けで一番驚いたのは『カッコイイ曹操』と『戦える曹操』でした」
「それまでの曹操のイメージは戦えない、戦闘力0のデブの悪役といったイメージでした」
といった話も聞いたことがあります。

しかし現在の中国では曹操の人気は非常に高く
「不用意に曹操を批判したらモノスゴイ勢いで反論が飛んでくる」
という状況になっているといった話も聞こえてきます。
現在の中国のネットでは曹操に関して「曹老板」(ボス)の愛称とともに語られるのをよく見かけますし、現在の中国の三国志ファンの間での曹操の人気の高さや思い入れの強さを感じる機会も多いです。

文化方面にも詳しい中国のオタクの人の話によると、現代の中国で曹操が評価されている理由としては、曹操が成功者として親族関係ではなく、能力主義と一定のルールにより組織を構築していったことや、才能のある人材であれば誰でも受け入れたことなどがあるそうです。
2000年代に入って以降の中国では、若者の間に合理的な思考を持った組織とリーダーこそが正しく頼りがいのある存在であるという考え方が広がっており、曹操のこういった部分が当時の中国で就職や起業に向かって活動していた学生たちの体験とも重なって好意的に受け止められていった面もあるのだとか。

そしてその結果、曹操は中国の若者にとって自分を投影する、ある種の感情移入の対象といった存在にもなっていったそうです。さらに曹操に関しては、それ以前の中国であればネガティブにとらえられていた部分、たとえば裏切りなどに対する疑心暗鬼、古典的な倫理観とは相反する人妻趣味などといったところが、当時の中国社会の空気では「リアリティが感じられて魅力的な要素」になったという話もあるとのことでした。

またほかにも、中国における魏の人気事情については、曹操以外では郭嘉などの軍師系武将の人気が高く、それとは逆に、戦場で活躍する魏の武将の人気があまり高くない、あるいは話題に出てこないといったところがあります。
このあたりに関して中国のオタクな方々と話した際には、これもまた曹操や魏が中国では何かと自己投影や感情移入の対象になっているから、曹操や軍師の視点から三国志を見るのが好まれているからなのでは……といった見方も出てきました。

蜀:近年評価が急落しているものの、相変わらず人気の高い武将も
蜀と劉備をはじめとする蜀の武将は、長年主人公的な扱いをされ人気も高かったのですが、近年の中国においては曹操と魏の評価が上昇していくのとは反対に、人気と評価がかなり落ちている模様です。しかし個別に見ていくと単純に蜀関係の人気がすべて落ちているというわけではないのも見て取れます。

中国の上の世代のオタクな方に聞いた話によると、中国では三国志に触れる際には、やはり劉備たちが主人公的な扱いの作品からという人も多く、
「劉備たちのいわゆる伝統的な価値観や、古典的な倫理観による行動原理がわかりやすかったので、子どもの頃は劉備たちが大人気だった」
とのことでした。ですがその後、史実の情報が入るとともに演義や創作による補正も認識され比較する際の材料も増えていき、劉備たちの価値観やキャラクターとしての扱いに対して納得できなくなる人も増えていったそうです。

しかし中国の三国志ファンの間で何かと批判はされるものの、中国でも蜀が三国志に入る際のきっかけとなった武将や勢力だという人が多いので、劉備や蜀の勢力としての評価が落ちても相変わらず人気の高い武将はいるようです。
たとえば、2022年にアニメ化されて何かと話題になった「パリピ孔明」の反応からは、現在の中国でも諸葛亮の人気が非常に高いことが見て取れました。また中国では昔からイケメン武将として扱われていて日本よりさらに人気が高いのではないかという趙雲の人気も健在で、近年の中国の三国志ファンの話題や中国国産の三国志コンテンツでの扱いはかなりいいそうですし、中国の伝統文化枠にもなっている関羽の人気や評価も根強いとのことです。

もっとも蜀に関しては、劉備のように明らかに人気や評価の落ちている武将がいるのも確かで、なかでも人気の低下が著しいのが馬超だそうです。
中国のオタクの人に教えていただいた話によると、中国の伝統芸能や民間演劇では馬超が主役の人気エピソードも多く、個別のエピソードで三国志を把握する人が多かった時代は馬超の人気が高く、趙雲と並ぶカッコイイ三国志武将で主人公的な存在のひとりなどといった認識もあったそうです。

しかし近年の中国では三国志の情報が増加し、全体を通してのエピソードで三国志を把握する人も格段に増えてきていることなどから、本格的な活躍が遅いうえに本筋の流れに関わる機会が少ない馬超の存在感はかなり薄れているのだとか。
またそういった事情もあるので、曹操の評価上昇にともなって評価が落ちている劉備の影で目立ってはいないものの、蜀の武将で相対的な人気の低下が一番大きいのは馬超ではないか? という見方もあるそうです。

呉:人気武将はいるものの、勢力としての人気や評価は微妙?
呉に関しては、ひと昔前と比べて勢力としての存在感や個別の武将の人気は間違いなく高まっているものの、呉という勢力の人気に関しては何かと判断に迷うところがあります。
特に近年では勢力の代表となっている孫権の評価が曹操や劉備と比べてかなり低くなっているらしく、中国のオタクな方から聞いた話では
「近年の中国では孫権が『孫十万』のあだ名とともに何かといじられる存在になってしまっているので、呉に関するイメージはあまりよくない」
といった見方もあるということでした。ちなみにこの「孫十万」は、孫権が十万を称する大軍を率いていながら合肥で負けてばかりなどというネタから来ているとのことです。

しかし孫権や勢力の評価とは別に、近年の中国国産の三国志コンテンツでも呉の武将の活躍が目立つ作品やエピソードの掘り下げの評判がいい作品は出ているそうですし、呉の武将の人気や知名度が昔に比べて格段に高くなっているのは間違いないようです。
もっとも三国志に詳しい中国のオタクの方からは
「陸遜などの人気武将の評価が高まれば高まるほど、孫権関連のネガティブなエピソードも目立つことになるので、孫権や呉に関して素直に好きだと言えなくなってしまう」
「中国の三国志ファンは武将個人レベルではなく、リーダーの視点で戦略的に語るのが好きな人も多いので、人気の高い曹操と魏と比較すると、孫権と呉は見劣りして評価は低くなる」
などといった話も聞いたことがあります。
そんなわけで、現在の中国では呉に関する人気や評価を単純な好き嫌いで語るのは少々難しい状態になっているのかもしれません。

呂布、その他勢力:
三国志の武将として何かと目立つ呂布ですが、中国でも呂布の扱いに関してはかなり変化しているらしく、昔のように悪役一辺倒というわけではなくなっているそうです。しかし相変わらず悪役のイメージは強いようで、「日本では呂布の人気も高い」ということに困惑する人が現在も少なくないといった話も聞こえてきます。

このあたりに関しては、日本と中国では元々呂布に関する評価や解釈に結構な違いがあったことも影響している模様です。
以前、中国のオタクな方と中国における呂布のイメージの悪さについて話した際には
「呂布のイメージの悪さの原因のひとつは日本でもよく言われている義理の父親殺しだが、それ以上に三十六計のひとつ、美人計にやられたというのが大きい。中国では美人計に引っかかるというのは人気のうえで極めて大きなマイナスになる」

「呂布は女に引っかかる、養父殺し、裏切りのセットに加えて、名家の養子になったことが『血筋がつながっているわけでもないのに名家きどりのニセモノ』と見なされている。中国の感覚で見ると三国演義の呂布は中国の庶民から嫌われる要素が大盛りになっているので、嫌われる敵、やられ役を強く意識して設定されているのがわかる。日本の作品で愛嬌のある弱点としても解釈される部分が中国では普通に嫌われていて魅力的な悪役の要素にはならない」
などといった話も出てきました。

また呂布に関しては日本側の変化も大きく、たとえば近年の日本の三国志系コンテンツでは呂布と貂蝉の関係が、昔の「美人計と離間計」ではなく、相思相愛の悲恋、破滅に続く恋のような扱いになることも珍しくないので、原典の悪辣な印象が軽減されているなどといった事情もあります。ある意味では日中間でのとらえ方の違いと、それによる困惑が昔よりもさらに大きくなっている武将と言えるかもしれません。

中国のオタクな方々の話によると、近年の中国では呂布以外にも董卓など、昔は完全に悪役扱いだった武将を中心とした翻案作品や別視点からの評価も出現しているとのことで、これもまた昔の中国の三国志事情を知っている人間からすれば驚きの事態だそうです。
「今後どういった武将にどのような掘り下げや翻案が行われるかまったく予想できなくなっている」
などといった話も聞こえてきます。

三国志の好みや評価に関しては中国独自のものがありますし、三国志という作品に対する楽しみ方やとらえ方、文化としての扱い方に関する日中間の違いの大きさなどから、日本の三国志好き同士のような感覚で中国人と三国志について語るのは難しいところもあります。
しかし、近年の中国における三国志の現代的な娯楽化の流れや、簡単にアクセスできる三国志情報の増加などによって、日本で想像されるような「中国の三国志好き」のイメージに近い人が増えているのは間違いありませんし、三国志事情に精通する「さすがは三国志の本場と思える中国人」的な人もかなり増えている模様です。

また過去の日本の三国志関係の人気動向では、曹操の評価の上昇にともなって劉備や蜀の評価が落ちていった後に、劉備がアウトロー的な側面も含めて再評価されていく流れもありましたし、中国における三国志の人気や評価の事情が今後どうなっていくかについても興味深いものがあります。
そんなわけで、私としても、中国の三国志事情を引き続きイロイロな方向から追いかけていきたいと考えております。

(文/百元籠羊)

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