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変わる昭和ウルトラマンのイメージと記憶
中国におけるウルトラマンのイメージの変遷に関しては以前の記事でも紹介させていただきましたが、その後のいわゆる昭和ウルトラマンシリーズに関する現地事情の変化も見えてきたので、改めて紹介させていただきます。
「ウルトラマン」は中国で人気になっている期間がもっとも長い日本のコンテンツだという説もあります。中国では1990年代に昭和ウルトラマンシリーズの放映が上海のテレビで始まりました。その後、中国全土のテレビ局で再放送が繰り返され(今考えると権利的にどうだったのか不安になりますが)当時の中国の子どもたちを中心に社会現象レベルの大人気となり、中国でも「普通に誰もが知っている」存在となっていったそうです。
この当時の影響は非常に大きく、近年の中国では新シリーズの人気も高いものの、一般的なイメージとして「ウルトラマン」と言えばやはり昔テレビで放映されていた昭和ウルトラマンのほうが先に来るのだとか。
しかし中国のオタク界隈においては比較的最近までウルトラマンや特撮ジャンルの扱いは「子ども向け作品」として嫌われる状態が続いていました。このあたりの感覚は昔から特撮ジャンルの存在感があった日本とは違う、ひと昔前の日中のオタクの違いとしてわかりやすい独特な事情でした。
私の個人的な印象になりますが、中国にオタクという概念やオタクとしての活動が広まっていった00年代半ば頃の中国において、「ウルトラマン」は間違いなくもっとも有名な日本の作品のひとつでしたが、同時に当時の中国のオタクから「子ども向け」ともっとも嫌われている作品でした。私が中国に留学していた当時の北京の大学の動漫社団(アニメマンガサークル)の人たちがウルトラマンを嫌うあるいは「オタクとは無関係」的な扱いをしていたのはかなり印象に残っています。
以前の記事にも書きましたが、90年代頃から中国に正規・非正規さまざまなルートで入っていった日本のアニメやマンガが最新のものだったのに対して、当時中国のテレビで繰り返し放映されていたウルトラマンは昭和の古いシリーズだったので、相対的にかなり不利だった、ある意味では幼稚に感じる人が多かったという事情もあるようです。
また「子どもに大人気」「子ども向け作品」というイメージも、中国のオタク黎明期に「アニメやマンガは子どもの見るものという扱いからの脱却」を掲げていた現地のオタクを目指す若者たちとの相性が悪く嫌われる原因になっていたように思えます。
しかしそんな昭和ウルトラマンに関するイメージが近年の中国オタク界隈ではひと昔前とはかなり違ったものになってきているようです。このあたりの事情に関しては以前の記事でも簡単に紹介させていただきましたが「中国のオタクの世代交代が進んだ」ことが、中国における昭和ウルトラマンのイメージにもかなり影響している模様です。
実のところ、ウルトラマンが中国のテレビで放映されなくなってからすでに20年近い時間が経っています。中国のテレビで昭和ウルトラマンシリーズの放映が始まったのは
・ウルトラマン 1993年1月~
・ウルトラセブン なし
・帰ってきたウルトラマン 1993年6月~
・ウルトラマンA 1994年1月~
・ウルトラマンタロウ 1994年9月~
・ウルトラマンレオ 1995年3月~
・ウルトラマン80 1995年11月~
だそうですが現地における規制強化や暴力的だという批判の影響などから2000年以降は放映がなくなってしまったそうです。その後またさまざまな紆余曲折を経て2004年から「ウルトラマンティガ」が放映され大人気となりますが、おそらく許可の問題などからその後のシリーズが中国のテレビで放映されることはなかったという話です。
現在の中国でもウルトラマンは新シリーズがネットで配信されていますし、過去作品の配信もあるようで、昭和ウルトラマンシリーズに関しては「探せば見ることができる」そうです。しかしこれは「探さなければ見つからないので、積極的に見る人はそれほど多くない」といった状況でもあるそうです。
中国のウルトラマンファンの方々から聞いた話によると、現在の中国のオタク界隈で主流となっているのは「子どもの頃に中国のテレビで昭和ウルトラマンを見ていた世代」ではなく「子どもの頃に中国のテレビでウルトラマンティガを見ていた世代」だそうです。
そしてそんな彼らにとって昭和ウルトラマンシリーズは「全部しっかり見るには少々面倒な作品」となっているのだとか。(ウルトラ六兄弟をはじめとする昭和ウルトラマン自体は新作にも頻繁に出てくるのでキャラに関する知識はあるそうです)
そして少々皮肉なことに、昭和ウルトラマンシリーズが中国のオタクの主流層にとってやや遠い在になったことから、中国のオタク界隈ではウルトラマンに対する「子ども向け」「幼稚でオタクが見るような作品ではない」と言うネガティブなイメージも薄れ、ウルトラマンが代表的なシンボルのひとつになっている日本の特撮ジャンルが受け入れられやすくなるといった影響も出ているそうです。またそこに近年の「ウルトラマンZ」の爆発的な人気なども加わり、日本の特撮作品とウルトラマンが中国のオタク界隈で有力なジャンルとして急成長しつつあるといった話も聞こえてきます。
ちなみに、中国の昭和ウルトラマンの各作品の人気に関しても現在かなり変動中だそうです。
最近、中国のウルトラマンファンの方々に教えていただいた話によると、現在の中国のオタク界隈でもっとも話題性に富み人気が高いと思われるのは「ウルトラマンレオ」だそうです。これは現在の中国最大のオタク向けプラットフォームにもなっているbilibiliで唯一配信されている昭和ウルトラマンの作品で、多数のユーザーによる動画コメント付きで楽しめるようになっているのが大きな理由になっているとのことでした。
また作品自体の評価としては「ウルトラマン80」も高い評価をされることが多いそうです。これに関しては、中国では昭和ウルトラマンシリーズを時系列関係なくまとめて見ることが多いので、制作された時期が後のほうで技術が進んでいる「80」が相対的にかなりよく見えるという事情も影響しているのではないか……とのことでした。
逆に中国で明らかに人気がないのは「ウルトラセブン」で、これは中国国内で「セブン」だけがテレビで放映されなかったのが影響しているそうです。現在の中国で大人気のウルトラマンの中にはウルトラセブンの息子である「ウルトラマンゼロ」がいますが、中国でのグッズ売り上げ的にも初代ウルトラマン、ウルトラマンティガに並ぶと言われる彼の人気に関しては父親の人気は関係ない本人(?)の力によるものなのだとか。
現在の中国では日本の特撮がオタクのジャンルとして存在感を増し続けていて若い世代の方が特撮に詳しいといった話も聞こえてきます。今後もイロイロな方面に関して中国独自の特撮ファン事情というのが出てくるのかもしれませんね。
(文/百元籠羊)