通報合戦の果てに「無職転生」が配信中止、炎上が連鎖する中国1月新作アニメ事情【中国オタクのアニメ事情】

2021年03月07日 12:000

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気軽な「通報」を武器に戦争する中国のネット


中国ではbilibiliで配信され、一時は1月新作アニメで一番の人気になっているのでは?という勢いだった「無職転生 ~異世界行ったら本気だす~」ですが、第4話の内容に対する反発などから発生した大炎上の影響により配信中止となってしまった模様です。
この炎上の大まかな流れは以下のようなものだったそうです。

・無職転生第4話で主人公の父親の浮気、それをかばって父親を許す方向に持っていき、家庭の維持を図った主人公の行為、それが成立するストーリー展開に対して作品の思想や価値観に問題があるという批判が爆発。

・bilibiliで活躍する大手up主が、自分の動画で「無職転生」を批判し、作品の視聴者をあおって大炎上。up主のファンと作品ファンの間で通報合戦が発生。

・大炎上がニュースとなって広まり、bilibili系コミュニティの外からも人が入り炎上がさらに拡大。「無職転生」の内容に関しても、伝言ゲーム的に広まって批判と通報が加速。
フェミニズム的な立場からの批判やそれに対する反発による炎上も発生し、野次馬的な人間も含めて皆通報を武器にしたネット上の殴り合いが続く。

・bilibiliの過去のキャンペーンや公式発言が堀り起こされ、女性を侮辱、蔑視しているサイトとして批判の声が高まり、bilibili批判の方向での炎上にもなっていく。
bilibiliに広告を出しているというスポンサーからの撤収や、bilibiliと協議中といった発言も出る中で、bilibiliは春節直前の2月10日に声明を発表して事態の収束を図るものの、混乱は続く中で春節期間に突入。
その後も火種はくすぶり続けている……。

この炎上自体は、偶発的な事件が連鎖して非常に大きな炎上となってしまった……という見方もできますが、現在の中国特有の環境から、いずれは発生していた事件だったという見方もできるかと思われます。

近年の中国特有の事情としては、まずネットで気軽に「通報」が行えるというものがあります。中国のサイトを巡回していると、通報のための入力フォームがほぼ完備されているのがわかりますし、政府機関への直接の通報に関しても、関連サイト上で手軽に行えるようになっています。

中国では通報する人間が増え、大規模になると上が動いて圧力をかけたり潰したりしてもらえるので、実際にかなり安価で強力な武器となっているそうですし、ここしばらくの間でも有名人や組織、作品などが炎上気味になると、通報が行われて追い込まれるといった事例がたびたび起こっています。

そしてそういった環境から、現在の中国のネットでは、個人が非常に簡単に「許せないもの」に対して「通報」を行うようになってしまっているのだとか。
近年の中国では今回の件のように、特定の作品のファンと批判者の争い、あるいはコミュニティ同士での批判合戦になると、それがそのまま「通報」という強力な武器を使っての戦いになってしまうそうです。
さらにその戦いの際には、政府関係各所やメディア、フェミニズム関連など、上の大きな力を呼び込んで勝とうとする、相手をぶちのめそうとする動きも取られることから、結果として戦場となった作品やジャンルが瀕死になってしまうことも頻発している模様です。

それからもうひとつの現在の中国特有の事情として、近年の中国社会ではフェミニズム関係からの抗議が強まりつつあり、各種メディアの態度表明や作品の取り下げなどが頻繁に出ている流れの影響も考えられるそうです。
この辺りについて中国のオタクな方から教えていただいた話によると、近頃の中国では男性アイドルファンの間で通報による殴り合いが発生して、中央のメディアが意思表明をする事態になったり、某女優の代理母出産問題でやはり中央のメディアが意思表明をするといった事態に発展したりといった事件なども起こっているそうです。

それに加えて現在の中国国内のメディアでは、男性の浮気がかなり強めに「批判されるべきニュース」として扱われており、創作であっても浮気が許容されるような思想や価値観は許されないといった批判につながっているそうです。
そして「無職転生」第4話のような浮気、そして浮気をした男が許されるという展開は極めて卑劣なものだと受け止められ、批判も集中することにつながってしまうのだとか。

今回の連鎖的な大炎上については、ネットのゴタゴタに慣れている中国のオタクな人にとってもさすがに頭を抱える事態になっているそうですが、以前からこの大爆発に至る導火線を心配していた人もいます。
中国のオタクな方で文化的な方面にも詳しい方からは以下のような話もありました。

「中国では一番のものでなければダメだ、主流でなければ存在し続けられないという考えがあります。これは価値観、作品の人気といった方面でも共通する考え方です。中国のオタクがやたらと覇権作品であることにこだわる理由のひとつでもあります。安心して追いかけ続けられる作品、自分の選択が無駄にならない正しい作品であるという保証が欲しいのです。」

「一番だけが『正しい』となり、ほかはどこかで潰されるという考えにもなります。またそれは一番でなくなれば存在が許されなくなるという恐れにもつながりますから、下を攻撃するようになりますし、下のほうは上や横に対して攻撃的になります。ですから中国のファンによるいわゆる『市民権を得るための戦い』はかなり攻撃的ですし、今はそれにネットでの通報攻撃が加わって大変なことになっています。」

「現在の中国のオタクは、昔と違って、団結して嫌いなものを叩くことができるまでに拡大成長し、自分たちが手を出して勝てる側になりつつあります。言わば『自分の正義』のためにほかの環境を変えようとしかける側になっています。そしてそれが、さまざまな場所でのゴタゴタ、ほかのコミュニティ相手やオタク同士での炎上にもつながっています。」

このような背景が、オタク層も含まれる中国の娯楽コンテンツのファンたちが、何かと「しかける側」になる、あるいは、ある作品に関して「自分たち向けではない」と割り切ることができないといった事情の理由のひとつになってしまっているのかもしれませんね。


(文/百元籠羊)

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