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中国のオタクの間でついにウルトラマンが復権
今年の中国オタク界隈にもさまざまな変化が発生していますが、なかでも興味深いのは、中国のオタクの間ではずっと「オタクの見るべき作品ではない」などと極めて低い評価だった「ウルトラマン」が見直され復権しつつあるという点でしょうか。
このウルトラマンの復権の直接的なきっかけになったのは、新作「ウルトラマンZ」の人気だと思われますが、その背景には中国独自のさまざまな事情も存在するようです。
オタクの間の評価はさておき、中国におけるウルトラマンの知名度や人気は高く、現在も日本の代表的なコンテンツとして認識されていますし、過去にはウルトラマンが一般社会レベルで大人気となっていた時期もありました。温家宝総理(当時)が中国国内のアニメ・漫画産業の視察を行った際に
「私の孫はアニメが好きですが、見るのはいつもウルトラマンです。彼は中国のアニメをもっと見るべきだと思います」
といった発言をしたことから、ウルトラマン批判と国産アニメをもっと盛り上げなければという声が上がった……などという事件(?)が発生したこともあるくらいです。
しかし中国のオタクな人たちの間では長い間、「ウルトラマン=幼稚な作品」といった扱いで実質的に黙殺されているような状態が続いていました。
これに関しては2000年代半ば頃から盛り上がっていった中国のオタク的な活動が
「自分たちの見ているアニメやマンガは子どもが見る作品ではない、大人が見る価値のある作品であり自分たちの世代のカルチャーだ」
という思想から始まったという事情も影響していたようです。
またそれに加えて、中国でオタク的な活動が広まる際に、アニメやマンガ、ゲームに関しては最新のもの、現役で評価の高い人気作品がどんどん入ってくることになりましたが、ウルトラマンに関しては中国のテレビで繰り返し放映されていた「昭和のウルトラマン」で認識が止まっていた人も多かったそうです。
そのため、ウルトラマンに関しては、古い世代の作品がアニメを始めとする後発の新しいコンテンツと比較された結果、過度に「幼稚」「子どもだまし」的なイメージを投影され、中国では幼稚な作品の代名詞的な扱いをされてしまった……という事情があります。
一応、中国でも昭和世代のウルトラマンのほかに「ウルトラマンティガ」などの平成初期世代のウルトラマン作品がかなりの人気を獲得してはいるのですが、中国本土で放映された時期の関係から00年代当時の中国でオタクの中心となっていた大学生前後の世代のアンテナには引っかかっていなかったそうです。さらに言えば、ティガであっても90年代の作品ですから、当時最新のアニメと比べると厳しいものがあったのだとか。
そのような背景から中国のオタク界隈では、日本と違って特撮ジャンルに対する評価は低く、ファンの規模も小さいといった状態が続いていました。
しかし、近年は中国のオタク層も主流となる世代が入れ替わり、ウルトラマンに対して「幼稚」なイメージを強烈に抱いている人は目立たなくなっているそうです。また、この数年で中国のオタク界隈では、「仮面ライダー」に注目する人間が急増し、そこから日本の特撮作品に対する注目が高まっているという事情もありました。
そういった中で、新作の「ウルトラマンZ」の人気が爆発し、一気にウルトラマンを評価する、語って盛り上がる空気が形成されていくことにつながったという話です。
「ウルトラマンZ」は、特殊効果を駆使した演出だけでなく、進化した現在の日本の特撮による演出が「ウルトラマン=幼稚」というイメージのままだった中国のオタクな人たちの認識を塗り替えることにつながったそうですし、作中の軽妙なやり取りや作品自体の出来のよさから中国のオタク層にも刺さることになったのだとか。
それ以外にも、新型コロナの影響で日本の新作アニメに延期が多発した時期に、踏みとどまって配信が続いた数少ない見ごたえのある作品だったという今年特有の事情も追い風になったそうで、中国のオタク界隈では現在のウルトラマンの面白さを知って認識を改め、ファンになる、話題のネタにするのに抵抗がなくなった人が続出しているとのことです。
この辺りの事情に関して中国のオタクな方からは
「中国ではウルトラマンの人気は常に一定のレベルで存在していて動画サイトの再生数から考えても一般視聴者の間での人気は堅調だったように感じられます。しかしオタクの間では嫌われがちで叩いてもよい、むしろ叩くべき作品だといった見方も強かったですね。特に『ニュージェネレーションヒーローズ』などは、作品が当時の中国でも目につくようになっていたこともあってか非常にネガティブな空気で語られていました」
「私の印象では、今の中国のオタクの間では、仮面ライダーを経由して特撮ファンが広まったように感じていますが、その過程でウルトラマンに対する偏見が薄れたことも今の『ウルトラマンZ』の高い評価の理由のひとつだと思います」
といった話も教えていただきました。
私自身も、この数年の間で中国のオタク界隈における日本の特撮の話題が増え、さらに今年は「ウルトラマンZ」をはじめとするウルトラマンの話題が活発に飛び交っていると感じています。
またそれとともに、この10年ほど続いていたウルトラマンに対するネガティブな扱いを知っている身としては、ひと昔前のウルトラマンの扱いと現在の人気や評価、話題性の差に関して少し不思議な気分にもなってしまいますね。
(文/百元籠羊)