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「これは俺の知っている●●とは違う!」と気がつく年齢がある
柿沼 それまでのキャラクターモデルは、模型メーカーがライセンサーから二次的に権利を許諾してもらって、プラモデルをつくっていました。たとえば、「ウルトラQ」(1966年放送)のプラモデルはマルサンが発売していましたが、番組自体のスポンサーは武田製薬のみです。ところがバンダイは、最初から番組のスポンサーになるんです。つまり、イマイもマルサンも次のキャラクターを待っているだけだったから、倒産してしまったわけです。だけどバンダイは「仮面ライダー」でも戦隊シリーズでも、番組そのものに投資して、どんどん次のキャラクターを開発して、オモチャ業界ではトップランナーになりました。その点、従来の模型メーカーとは業態がまったく違っていたんです。今でも間断なく日曜朝に特撮番組やアニメが供給されるのは、バンダイが確実に一翼を担っています。
しかし70年代、当時のバンダイ模型が痛い目を見たのが「宇宙戦艦ヤマト」(1974年放送)のプラモデル。1969年に倒産した旧イマイのスタッフを雇用して企画開発を任せた結果、ゼンマイで走るタイヤの付いたヤマトを発売してしまったんです。ゼンマイを付けたせいで第三艦橋が省略されたヤマトは売れないばかりか、今までキャラクタープラモデルなど見向きもしなかったヤングアダルト層から「どうしてゼンマイが付いているんだ?」「第三艦橋はどこへ消えたんだ?」と、抗議の手紙が多数届きはじめるんです。そこでようやく、「アニメや特撮は作品ごとに購買年齢層が違うのか!」と、バンダイ模型は気がつくわけです。「宇宙戦艦ヤマト」で初めて、顧客へリサーチを行ったそうです。その後、ゼンマイをなくして第三艦橋を再現したプラモデルが売れて、「ヤマト」のプラモデルはヒットシリーズに成長しました。
── 「宇宙戦艦ヤマト」が劇場公開されたのが1977年、翌78年が「スター・ウォーズ」の日本公開ですね。「スター・ウォーズ」は、プラモデル的にはどうなのでしょう? 柿沼 「スター・ウォーズ」の最初のプラモデルは、アメリカのmpcというメーカーから発売されましたが、当時すでに質的に成長した国産プラモデルと比べると話にならない雑な出来でした。コーヒーカップやTシャツなどのマーチャンダイジングは大成功しましたけど、当時の日米双方のホビー業界には「スター・ウォーズ」の世界観を理解する力、再現する力量はまだなかったと思います。米国ケナー社のフィギュア玩具は、世界ですごく売れましたけどね。
── 1980年に、いよいよ「機動戦士ガンダム」(放送は1979年)のプラモデルが発売されます。放送時に完成品の玩具が発売されていたのに、どうして「ヤマト」と「ガンダム」は放送後に発売されたプラモデルがヒットしたのでしょう? 柿沼 作品の世界観を理解できる年齢層が、かなり高かったからでしょうね。主役メカのヤマトやガンダムが強いから、という理由で感情移入しているのではなく、映像の生み出すドラマや世界観にファンたちは惚れこんでいたのです。だから、ミサイルが飛び出す合金玩具ではなく、自分の手で少しずつ組み立てる知的なプラモデルがマッチしていたのでしょう。「ヤマト」も「ガンダム」も、もう子どもではないけど大人にもなり切れないハイティーン層にニーズがあるはずだと踏んで、作品をつくったわけですよね。その層にマッチする商材が、プラモデルだったのでしょう。中学生ぐらいになると、「このミニカーは、家の隣のガレージにあるセリカとは少し色が違うぞ」と気がつくじゃないですか。特に男の子には、「ちょっと違うな」とわかりはじめる年齢が、確実にある。そこから先、市販の完成品に納得せずに卒業していくか、自分で納得いくまで改造、カスタマイズできるプラモデルを作りはじめるか。そのどちらかでしょうね。
例えば60年代の「サンダーバード」の商品展開では、10歳まではバンダイ製の玩具、10歳から上に向けてはイマイのプラモデル……と、はっきりターゲットを分けた販売戦略で大成功しました。きっと、「ミサイルが飛び出してうれしいな」と感じる年齢と、「いや待てよ、形や色が違うぞ」と気がつく年齢の境い目が明確にあって、プラモデルは玩具と比べて対象年齢が高いのでしょう。そういう意味ではハイティーンに向けた作り手の想いが、市場のニーズと合致していた。その証拠が、ガンプラの大ヒットです。「ヤマト」での初動で失敗したことの経験値が生かされていたし、バンダイは幸運だったと思います。
プラモデル業界はミリタリーブームが終焉してもスーパーカーブームが来て車の模型が売れたり、何らかの形の外因が生じて救われてきました。しかし、現状ではそろそろ次の大きな外因とかウェーブが来ないと、この先が少し心配ではありますね。ただただ細分化していく状況が続いていて、「いや、それでいいんだ」とする向きもありますが、プラモでも玩具でも社会現象にいたるような大ブームを経験した世代にとっては、ああいう高揚感がまた欲しいと思ってしまうんです。
(取材・文/廣田恵介)