編集者・柿沼秀樹氏が振り返る、ガンプラ大ヒットへ至るキャラクターモデル勃興の昭和史【ホビー業界インサイド第58回】

2020年04月25日 12:000

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一大ミリタリーブームの後、ようやくバンダイ模型が登場!


── 60年代から70年代にかけて、プラモデルの主流はキャラクターモデルではなく、戦車や航空機、戦艦などのスケールモデルだったそうですが、その理由は何でしょう?

柿沼 1952年に日本を統治していたGHQが退去し、1956年に経済白書が「もはや戦後ではない」と宣言します。すると、GHQが禁止していた戦争に関する情報が解禁され、戦記ブームが到来するんです。まず、「週刊少年キング」に連載された「0戦はやと」(1963年連載開始、1964年アニメ放送開始)など、第二次世界大戦を舞台にした子ども向けの架空戦記漫画。もうひとつの波が、ハリウッド製の娯楽戦争映画です。「大脱走」(1963年公開)、「バルジ大作戦」(1965年公開)などの戦争大作が、その時代のトレンドでした。「バルジ大作戦」がヒットすれば、登場するパンサー戦車のプラモデルが相乗効果で売れるわけです。タミヤのミリタリーミニチュアシリーズは1968年にスタートしますが、戦争映画ブームが背景にあったことは間違いありません。1971年に「大脱走」が初めてテレビ放送されますが、そこで初めて「BMWには軍用色のサイドカーがあるのか!」と、少年たちは驚きます。そのサイドカーが、タミヤからプラモデルとして発売されているんですから、もちろん買いますよね。それと、イギリスの退廃的なファッションとして、1960年代に軍服が流行るんです。

── ミリタリーコートを普段着として着こなす“モッズ”文化ですよね。

柿沼 そう、ビートルズもモッズスタイルでデビューしました。戦争ドラマ「コンバット!」(1962年放送開始)に出てくる米軍の水筒を買いたくて、渋谷の軍装品屋アルバンに行ったとき、ボマージャケットを着ている人が歩いていて、ビックリしました。なかには横須賀まで行って、朝鮮戦争でいらなくなった払い下げ品のジャケットを買っている若者までいました。日本は、海外のそうした流行を取り入れるのが早いんですよね。ですから、漫画は戦記モノ、映画は戦争大作、ファッションもミリタリールックが最先端で、モデルガンも大流行……という時代が、日本にあったんです。社会の潮流がそうですから、必然的に売れるプラモデルは戦艦に戦車、戦闘機といったミリタリーモデル、スケールモデルになりますよね。

── すると、当時の少年たちは漫画や映画からミリタリーの知識を吸収して、スケールモデルを買っていたんですね?

柿沼 そうです。そういう意味ではスケールモデルには、キャラクターモデル的な側面もありました。「週刊少年キング」(少年画報社)で1963年から連載した吉田竜夫の「少年忍者部隊月光」で、震電という旧日本軍の試作機の存在を読者は知るんです。ニチモの零戦は学校の前の文房具屋でも売っていましたし、ハセガワが零戦の設計主任だった堀越二郎監修の決定版の零戦を発売したり、日本中で零戦のプラモデルが売られていました。零戦のプラモデルは、発売したら売れるんです。
その時代の少年文化のメインストリームは、確実に野球とミリタリー系のモデルでした。 ところが、その戦記ブーム、戦争映画ブームにも終わるときがやって来ます。それまで少年誌の表紙は戦艦大和だったのに、キックボクサーの沢村忠にとって変わられるんです。すなわち、スポ根ブームの到来です。「0戦はやと」を描いていた辻なおきさんが、「タイガーマスク」(1968年より連載開始)を描きはじめ、「紫電改のタカ」を描いていたちばてつやさんが、「あしたのジョー」(1968年より連載開始)を描きはじめます。そのミリタリーブームの崩壊に、模型メーカーは対応できませんでした。気づかなかった、とも言えます。東京マルイが「巨人の星」(1966年より連載開始)をプラモデルにしたけど、星飛雄馬はそんなに似ていませんでしたね。「帰ってきたウルトラマン」(1971年)のプラモデルも東京マルイとブルマァクなどから発売されましたが、怪獣モノもかつてほど大きなブームにはなりませんでした。
バンダイ模型(当時)の設立は1971年、ミリタリーブームが失速した後のことですから、当時のプラモデル業界では最後発でした。コグレの自動車模型、イマイの「サンダーバード」など、倒産したメーカーの金型を譲り受けて、「プラモデルの総合商社を目指します」とうたってスタートしました。つまり、広くオールジャンルに打って出て、なるべく早く減価償却したい……という方針でした。バンダイ模型はキャラクターモデルを、売り時の限られた“マスコミ物”として割り切っていたのです。だけど、その姿勢がビジネス的には功を奏したのだと思います。子どもは買ってすぐ作って、壊したらそれで終わりなので、ひとつのキャラクターモデルをそれほど長く売る必要はなかったからです。

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