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混じりけのない、まっとうなことを堂々と言えるのがアニメーションの利点
── 高橋監督は、シリーズ構成やシナリオだけのお仕事もしてらっしゃいますね。 高橋 自分の監督作が途絶えてしまって、何とかして食いつながなくてはならない状況は、演出家なら誰にでもあると思います。そういう場合、演出家は絵コンテをやるんです。だけど、僕は絵コンテよりもシナリオのほうが楽なんです。
── 絵コンテとシナリオでは、頭の使う部分が違うということでしょうか。 高橋 あと、性格の違いもあります。富野(由悠季)さんに「勇者王ガオガイガー」(1997年)のシナリオを頼んだら、「絵コンテならいくらでも書いてあげるけど、シナリオは嫌だ」と断られてしまいました。資質が違うんです。富野さんは“反応”できる人なんです。「これが決定稿」とシナリオを渡すと、カット割りを反応で書ける。だから、富野さんのコンテは早いわけです。「ゼロテスター」(1973年)では、富野さんの絵コンテにずいぶん助けられました。僕は反応では書けませんから、絵コンテはしんどいです。コマの中の絵が気になってしまって、先へ進めないんです。
── シリーズ構成なら、苦ではないわけですね? 高橋 苦ではないというより、絵コンテを書くよりはマシ……という程度です。「見せる」よりも「語る」ほうが好きです。
── 小説を書くのは、お好きですか? 高橋 小説を書くのも、難しいです。書く前は「やります」と張り切って、引き受けてから後悔するのですが、ほかのことよりは好きなんだと思います。
── コラム集「アニメ監督で…いいのかな?」に詳しく書かれていますが、演劇にも関わっていらしたんですね? 高橋 ちょっとのぞいた程度ですね、とてもじゃないけど食べていかれない世界でしたから。1960年代の終わりごろから1970年代の初めにかけてです。
── 唐十郎さん(「状況劇場」主宰)と親しくしていらしたと聞きます。 高橋 ええ、唐さんは反権力の人なので偉い人には立ち向かうんですけど、僕は年下なのでかわいがってもらえました。仕事上の付き合いだけでなく、クリエイターたちが集まっている新宿の飲み屋に、よく連れて行ってもらいました。 また、「東京キッドブラザース」という劇団が海外で評判になって、ヨーロッパを巡業したことがありました。その旅行団に、僕も少しの間だけ加わっていたんです。キッドブラザースのロック・ミュージカルはLPレコードになっていて、ずいぶん影響を受けましたね。「フラッシュバック」とか「スローモーション」といったフレーズが出てくるのですが、僕も歌詞の中で使っています(「太陽の牙ダグラム」エンディングテーマ「風の行方」)。
── 高橋監督の創作のモチベーションは、どこにあるのでしょう? 高橋 アニメの世界に入る前、3年ほどサラリーマンをやっていて、その会社に永久就職するつもりでいました。だけど、その会社を自分で辞めて、虫プロに入ってしまったんです。アニメーションの世界に入ると、すごい才能の人ばかりで驚きました。そのとき、アニメーションでなくてもいいけれど、“つくること”のどこかに居場所を見つけたいと思ったんです。だから、さまざまな分野に手を出しました。つくれるのであれば、何でもいい。その“つくること”の中でも、虫プロで学んだアニメーションのつくり方が、僕の体の中に入っているんです。職業的になじんでしまっているわけです。
必ずしもアニメーションでなくともいいんだけれど、僕なりにアニメーションのよい部分を見つけたつもりもあります。僕のつくりたい作品の中に、何か核のようなものがあって、その核を実写映画でセリフにしたとすると、「そんなわかりきった、青臭いことをわざわざ言わなくても……」と白けてしまう。実写で「世界を救うんだ!」と言ったら笑ってしまうけど、アニメーションで二次元のキャラクターが「地球を救うんだ!」と言うと、まっとうに聞こえる。だけど、今、まっとうなことを言える数少ない表現がアニメーションなのだと、僕は思っているんです。実写でまっとうなことを言おうとすると、オブラートにくるまなくてはいけないので、ややこしいですよね。
── アニメーションの登場人物が話すと、話の内容が抽象的になるんでしょうか。 高橋 日常生活を送りながら、「こう考えたらどうだろう?」「それともこうじゃないか?」と考えを進めて無駄をそぎ落としていくと、人の思考って抽象化されますよね。実写には撮りたくないものも映ってしまいますが、アニメーションは情報量をいくら入れたとしても、それは作り手が入れたくて入れた情報なので、混じりけがないわけです。それが、アニメーションの有利な点だと思うんです。
幸いにも、僕はいまだに「何をつくりたいの?」と聞かれることがありますし、やり残したアイデアを提案することもできますので、とても恵まれています。山浦栄二さんから……、もっと言うと、何も知らない若いころに手塚治虫先生から「あなたもつくり手なんだから」と言われて来ましたので、彼らの血というかDNAが僕の中にも通っているんだと思います。
(取材・文/廣田恵介)
書籍情報
■アニメ監督で…いいのかな?
著者:高橋良輔
監修・協力:サンライズ
発売日:2019年2月9日
定価:2200円(税別)
ページ数:336ページ
判型:四六判
アニメ監督・高橋良輔が、45年間で携わってきた作品たちについて語り尽くす!
手塚治虫のもとで鍛えられた虫プロ時代の秘話や、ダグラム、ボトムズといった人気メカアニメの立ち上げエピソード、そして75歳を過ぎた今考えるこれから作りたいものなど、アニメ監督、演出家、脚本家、大学教授と複数の顔を持つ高橋良輔だから語れる話がもりだくさん!
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