※本コンテンツはアキバ総研が制作した独自コンテンツです。また本コンテンツでは掲載するECサイト等から購入実績などに基づいて手数料をいただくことがあります。
中国のオタク文化の基礎となった京アニ作品
7月に発生した京都アニメーション放火事件は中国でも大きなニュースとなり、中国のオタク関連のコミュニティの各所では数千から万を超えるレスがつく事件関連のスレッドが立ち、「weibo」などでもたくさんの発言が飛び交いました。
この事件が中国でこれほどまでに大きな注目を集め、たくさんの心を痛める人が出た理由には、京都アニメーションの制作したアニメ作品、いわゆる「京アニ作品」が中国で単に面白い作品として人気になっただけでなく、中国のオタク文化に極めて大きな影響を与えているという背景が存在します。
2000年代に入ってから本格的に動き出した中国のオタク文化形成の過程では、ところどころでその後に大きな影響を及ぼす人気作品が出てきますが、その中にはたくさんの京アニ作品が含まれています。
大雑把なものではありますが、以下に中国で人気になった、現地のオタク文化に影響を与えた京アニ作品についてまとめてみようかと思います。
まず中国に大きな影響を与えた最初の京アニ作品は、「フルメタル・パニック? ふもっふ」だそうです。クオリティの高さに加えて「当時の中国の一般的な感覚でもわかるミリタリーネタが混じる学園モノのコメディ」というのが非常に強かったそうで、かなり長い期間人気作品扱いとなっており、現在でも「オタクの入門アニメ」的な扱いをされているとのことです。
もっとも、当時の中国ではまだアニメ制作会社が意識されることはほとんどなく、後年になって「あれは京アニ作品だったのか」と気付く人も多かったそうです。
そしておそらく中国のオタク文化にもっとも大きな影響を与えた京アニ作品が、「涼宮ハルヒの憂鬱」です。
「涼宮ハルヒの憂鬱」が放映された当時、本作は世界各国のオタクカルチャーに大きな影響を与えましたが、中国への影響も尋常なものではありませんでした。それ以前も日本のアニメやマンガ、ゲームの人気は高かったものの、中国で本格的にオタク層が形成され、オタクとしての活動が盛り上がるようになったのは「涼宮ハルヒ」以降の話となります。
この作品を通じて中国に日本のオタク界隈の盛り上がりや楽しみ方、原作のライトノベルやファンによって作られる動画などのアニメ以外の環境に関する情報が広まり、そして作品を見るだけでなくファンとして活動する、アピールするといった動きや、オタク系コミュニティの構築の流れが加速することになります。
その後の中国では、「らき☆すた」によって「涼宮ハルヒ」からさらに一歩進んだオタクネタの活用方法、同人活動、オタク文化圏や商業圏というのが意識させられるようになりましたし、「CLANNAD」、「CLANNAD 〜AFTER STORY〜」は、中国のオタクな人々を恋愛系作品の新たな形へ目覚めさせたそうです。またそれ以降も、「けいおん!」が、アニソンも含めた作品の盛り上がり方を体験させるなど、00年代半ばから10年代初め頃まで、京アニ作品が出るたびに、その影響によって中国のオタク界隈では新たな流れが生まれるといったような状況が続きました。
昔の事情を知る中国のオタクの方によると、
「京アニ作品は中国におけるオタク文化が発展する基礎を作った」
「その後の中国国内における日本のオタク系コンテンツの人気や盛り上がりは、京アニ作品の影響によって形成されたコミュニティや活動の感覚抜きには成立しなかった」
と言っても過言ではないそうです。
その後2010年代に入ってからは徐々に中国独自のオタク文化や活動の方向が構築されるようになり、京アニ作品に関しても一定以上の人気はあれど、影響力という点では徐々に目立たなくなっていった感もあるそうです。
当時の話によると、「けいおん!」の第2期頃からは京アニ作品も中国のオタクの主流層の好みや、最新の流行からは外れるようになり、日本での盛り上がり方とのズレがハッキリと出てくるようになったそうです。
もっとも、この時点ですでに中国では京アニの名声とブランドは確立されており、さらに期待を裏切らないクオリティの作品も続いていたので京アニ作品に対する注目は相変わらず大きかったようです。この時期の京アニ作品では「日常」、「氷菓」、「中二病でも恋がしたい!」などはオタク層だけでなく一般寄りのアニメ視聴者層でも手堅い人気となり、シーズンを問わず長期的な人気が続くような状況になっていたのだとか。
そして京アニ作品は、流行り廃りの激しい中国においては比較的珍しく、長期的に人気を維持する作品、特定の話題のときに常に作品の名前があがるようなある種の定番作品といった位置付けになっていったそうです。
ただ近年の中国では、京アニ作品はブランドによる話題性こそ高いものの、新作としての再生数や人気の盛り上がりという面ではあまり目立たなくなってきているといった話も聞こえてきます。
現在の中国では、京アニ作品が高クオリティの代名詞となってはいますが、近年の作品の傾向や中国のアニメ視聴環境の大きな変化などから主にマニア層、含蓄のある作品を求める層からの支持が中心で、ひと昔前のように、京アニの新作が中国のオタク界隈全体から歓迎されるような状況ではなくなっている模様です。
また、この状況に関して、過去に京アニ作品にハマった中国のオタクな人たちの中には、京アニのスタンスが変化していったことや、自分たちの好みの作品を作ってくれなくなったことを残念に思うなど、京アニに対してイロイロな意味で複雑な感情を抱く人が少なからず出ているといった話もあるとのことです。
しかしそれでも中国のオタクな面々にとって、京アニがとても強い思い入れのある存在だというのは変わらないそうです。中国で先日の京アニの事件に対して大きなショックを受け、強い憤りを感じる人がたくさん出たのは、京アニ作品が中国で愛され、京アニ作品の影響を受けた人がとても多かったということの現れでもあります。
中国では現在も、京アニ事件が注目され続けていますし、悲嘆の声や犠牲者の方々のご冥福を祈る声が絶えません。
私もこの場を借りて犠牲者の方々のご冥福を改めて祈らせていただきます。
(文/百元籠羊)