キャラクターからメカニックまで――デザイナー・安田朗のこれまでとこれから【アニメ業界ウォッチング第61回】

2019年12月28日 10:000

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この歳になって“光るもの”を出している場合じゃない


── 「G-セルフ」は、最初に形部一平さんのデザインがあったそうですが?

安田 いえ、最初は山根公利さんが描いていました(聞き手注・山根氏は前企画「ターンAスペース」よりの続投)。「僕、ロボットの人じゃないんだよ」と言ってらして、確かにデザインを見せてもらうと辛そうでした。その後、形部さんが来て、富野監督にガンダムの骨格のようなデザインを描いていました。ガンダムというよりはジム感の強いデザインで、赤・青・黄色で塗ったら確かにガンダムっぽくはなるだろうけど、それゆえに「これはガンダムじゃない」と思いました。「ガンダムかもしれないデザイン」は、思い切ってガンダムにしてしまったほうがいいのではないか?
カプコンでも、同じことが何度かありました。「ストリートファイター」じゃないけど「ストリートファイター」に似ているゲームがあって、それなら「ストリートファイター」にしたほうがいい。そこから「ストリートファイターIII」が生まれたのと、同じパターンだと思い出しました。
そのとき、富野監督に「なぜ今回は、ガンダムにしないのですか?」と聞いたことがありました。すると、創通エージェンシーの社員がいいネクタイをしているという話をしてくれたんです。詳しい内容は忘れましたが、「なぜ創通の社員がいいネクタイをしているかというと、ガンダムがあるからだよね。だから、ギリギリまでガンダムとは違うものを考えたい」というような話だったと思います。ガンダムをつくるんなら、ガンダムを超えて、ここからまったく新しいものが生まれるのがスジである、という気持ちもあったのでしょう。そんな富野監督に「やっぱりガンダムをやりましょう」と言うのは酷なんですが、G-セルフはガンダムになるしかないと思いました。

── それで、ガンダムをデコレーションするのではなく、フォルムだけでガンダムっぽさに立ち返ったシンプルなデザインになったんですね。

安田 これが起点になるような、ゴチャゴチャしていない人間っぽいデザインがいいと思いました。ガンダムしかない敵の国があってもいいと提案したんですけど、富野監督は「さすがだねえ」などと誉めておいて、結局は、完全に無視されました(笑)。監督は、本当に戦術家なんです。しかも、「相手の作ったものは修正してあげるのが礼儀」と考えている気がします。


── 安田さんは、メカの開発経緯だとか整合性を考えるマニアではないわけですね? この武器には弾が何発入っている、と考えるような。

安田 そういうことを考えるのも大事だし勉強したほうがいいとは思うのですが、自分はあまり考えたくないし苦手ですね。僕は未来の科学を信じているタイプなので、未来にはとんでもない技術があると考えるほうが好みなんです。だって、最初の「ガンダム」だって細かい設定は後づけでしたよね? いろんな設定を考えるのはいいのですが、作品ごとに、ある程度はリセットすべきだと思います。設定のせいで作品の枠が決まってしまうのは、つまらないですよ。カトキハジメさんのような百戦錬磨のデザイナーが、匠の技で設定を考えるのはいいと思うのですが。

── すると、安田さんご自身はメカデザイナーとしては、まだまだこれからだと?

安田 最近、やっとプロのメカデザイナーになりたい、ちゃんとオモチャをつくりたい気分になってきました。なぜキングゲイナーやG-セルフが微妙だったかというと、僕がオモチャデザイナーに徹し切れなかったからです。僕はG-セルフを、本当にある物として描いていたんです。細胞レベルで電池みたいなものが入っていて、フォトンという名称の反物質を使っていて……と勝手に考えていました。確かにバックパックを提案しましたが、あれはオモチャとしての体裁を整えるだけです。僕がオモチャデザイナーとして富野監督とまた仕事ができるチャンスがあれば、監督だけ突っ走って誰も着いてこない状況は改善できるんじゃないでしょうか。「G-レコ」は富野監督が再覚醒した、まっとうな映画になっていると思ったんです。監督は、まだまだ行けるんじゃないでしょうか。
最初の「ガンダム」はプロ集団がつくっていましたよね。チャンスがあれば、僕もああいうプロ集団の一角に入りたい。以前は「デザイナーとして光るものを出さねばマズい」と考えていましたが、この歳になって光るものを出している場合じゃない、ぜんぶが光っていないと(笑)。



(取材・文/廣田恵介)

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