キャラクターからメカニックまで――デザイナー・安田朗のこれまでとこれから【アニメ業界ウォッチング第61回】

2019年12月28日 10:000

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「みんなを巻き込む」「作品がヒットする」ということ


── 「∀ガンダム」の後、しばらくアメリカへ行っていたそうですね。

安田 そうです。アメリカ人にカプコンのゲームを作ってもらうという企画で、最初はアートの監修という立場で行ったはずなのに、いざ現地に着いてみると報告と違って何もできてない。それで、少しずつディレクション的な仕事になっていきました。

── アメリカから帰国して、すぐ「OVERMANキングゲイナー」(2002年)のメカデザインですか?

安田 いえ、アメリカと日本を行ったり来たりしている間に、6体だけラフでもいいからメカをデザインしてくれというお話をいただきました。そんな状況だったので、「キングゲイナー」は、ほんのさわりだけしか関わっていないんです。

── 吉田健一さんが、作画用にメカニックもクリンナップしていましたね。

安田 吉田さんはスタジオジブリを辞めて、「これからは俺の好きなことをやるんだ」と覚醒しつつある時代でしたね。実作業に入る前は、東京でよく吉田さんと話した記憶があります。吉田さんは素直に育ったナイスガイという雰囲気で、「こんなすごい人がいたのか」と驚きました。……カプコンにはいないタイプの人ですね(笑)。

── メカを描くということに対して、抵抗はありませんでしたか?

安田 もともとメカは好きですし、カプコンでもメカデザインをやっていました。ですが、すでに「ガンダム」シリーズに参加されていたデザイナーさんほどの腕ではありませんでした。ですから、キャラクターに落とし込むことで「メカを描かないメカデザイン」として、何とかごまかそうとしました。それで、オーバーマンは服を着ているんです。

── ということは、オーバーマンのコンセプト自体も安田さんが考えたのですか?

安田 そうです。人工筋肉という設定は富野監督から提示されたのですが、「この人は僕が格闘ゲームを担当していたから、それで筋肉を描かせようとしている」とわかったので、それを拒むために服を着せたんです(笑)。メカは描けないし、描けてもほかの人に見劣りしてしまうので。

── そんな独自のアイデアを出して、富野監督から「それは違うよ」と否定されることはないのですか?

安田 いえ、そういうことはありません。僕なりにアイデアは出せるのですが、「富野監督、あなたのほうが間違っていますよ」なんて根幹部分に対して意見は言えません。僕はそんなレベルには達していないので、根拠を示せないからです。

── 翌年、フリーランスになりますが、その前の1998年に会社もつくっていたんですよね。

安田 会社をつくったというより、上司が勝手につくってくれたんです。「お前は給料が高くなって税金ももったいないから、法人化しろ。名前も『有限会社あきまん』にしといたぞ」って。おそらく上司は、僕を自由な身分にするため会社をつくってくれたんだと思います。「お前を逃がしてやる」と言われましたから。

── フリーランスになった動機は、何だったんでしょう?

安田 カプコンに入る前は、イラストレーターか漫画家になりたかったんです。だけどカプコンが楽しすぎたので、あまりにも長いこと籍を置いてしまった。イラストレーターになるには、もう限界点を越えていたんです。アメリカで辛い目にあったのを機に、自分はゲーム業界に向いてないことを痛感し、やめる気分になりました。いま独立しないと、イラストレーターとして大成しないと悟ったんです。


── 4年ほど経って、「コードギアス 反逆のルルーシュ」(2006年)のメカデザインですね。

安田 サンライズの河口佳高プロデューサーが僕のことを買ってくれていて、キャラクター的なメカというか、早い話が「新しい大河原邦男さんのような仕事をしないか」といったニュアンスのことを言われました。

── 「新しい大河原さん」というと、キャラクター性があってヒーローとして成立するようなメカデザインという意味でしょうか?

安田 はい、そこまではできませんでしたが、そういう意味です。「コードギアス」は富野監督の甘やかしもないし、すぐれたスタッフに囲まれながら、「もう一度アニメの世界で認めてもらえるんだろうか?」という気持ちで取り組みました。
ダッシュローラーが足に付いていて背中にコクピットがあって、身長は4~6メートルだけど、10メートル級のロボットのシルエットにする。コクピットを背中にしたのは、ズングリした体形にせず細身にするためです。……というような話を、富野アニメでは考えられないような大人数のミーティングで話すわけです。

── その「みんな」とは、プロデューサーやスポンサーですか?

安田 ビークラフトさんもいらして、ダッシュローラーはビークラフトさんのアイデアです。他社のデザイナーさんも出席していて、「みんなを巻き込む」ってこういうことなんだ、と思いました。会議に出た以上、玩具会社の人は商品化しなくちゃいけないわけですよね。僕のデザインした中ではもっとも多く商品化された作品ですし、劇場版を見に行くと女の人ばかりでした。富野アニメはおじさんばかりなのに、ヒットするとはこういうことか……と実感しました。これからは女の人がいっぱい来る仕事がしたいけど、だけど富野監督の作品もちゃんとやらなくちゃ、という気持ちでした。

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