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富野由悠季監督は策士なので、我々が勝つことはない
── 短編アニメ「リング・オブ・ガンダム」(2009年)では、フルCGのガンダムをデザインしていますね。 安田 大友克洋さんが監督したCG映像(「GUNDAM Mission to the Rise」1998年)のようなものを、もう1回やろうという話だったと思うのですが、テレビシリーズをつくれるぐらい設定が膨大になったそうです。メカデザインとしては、「アイアンマン」みたいにあちこちがいろいろ動くようにしたかったんです。実際にはほとんど動かないし、ガンダム自体があまり出てきませんでしたけど、「リング・オブ・ガンダム」はとても勉強になりました。
冒頭、主人公が崖をよじのぼりながら、女の人と話していますよね。すごい風が吹いていて女の人は髪の毛がじゃまになっているし、本当は会話どころじゃない、という過酷なシチュエーションで会話している。CGキャラクターに人間らしさを感じさせるため、環境からストレスを与えるという演出で、やはり富野由悠季監督はすごいと感動しました。ちょっと滑稽に見えるかも知れないけど、リラックスできる場所で会話しているよりは崖にへばりつくような極限状態で必死に話していたほうが「頑張って、ここまで来たんだな」と心に残るわけです。逆を言うと、スタッフの能力を信用していないし、制御できないものは最初から制御しないという考え方にも思えました。
── その後、再び富野監督から離れて、次は「モーレツ宇宙海賊」(2012年)のキャラクターデザインです。 安田 はい、佐藤竜雄監督から声をかけられました。原作小説の挿絵があって嫌いな絵ではなかったので、本当に僕の絵で描いてしまっていいのだろうかという葛藤がありました。幸いなことに、挿絵を描いていた松本規之さんに「がんばってください」とメールをいただきまして、吹っ切ることができました。ただ、アニメ業界のスケジュール感とギャラ感が自分に合わず、苦しみはじめた時期ですね。
── 2012年ですから、「ガンダム Gのレコンギスタ」(2014年)のデザイン作業も始まっていましたよね? 安田 はい、始まっていました。2012年に貯金がゼロになって、当時は史上空前の経済的ピンチでした。「モーレツ宇宙海賊」は2冊もデザイン本を出してもらえて、自分にもわずかながら印税が入ったので、それだけは助かりました。
── 「月刊ガンダムエース」2020年1月号での形部一平さんとの対談によると、劇場版の『Gのレコンギスタ I』「行け!コア・ファイター」(2019年、以下「G-レコ」)は「見るのに勇気がいる」とおっしゃっていましたが? 安田 いえ、アマゾンプライムと映画館で2回ほど見ました。G-セルフの瞳の表現が気になってしまって。アニメーターの方がとてもカッコよく描いてくれて、うれしかったです。だけど、「G-レコ」は僕がアイデアを後出ししたせいで、富野監督の脚本計画を阻害してしまった思いがあります。
── 各種のバックパックですよね。衝撃的なのは、G-セルフのバックパックがすべて合体するとドラゴンになるというアイデアなのですが……(「月刊ガンダムエース」2020年1月号掲載)。 安田 まだデザインしてないパックもありますけど、何とかドラゴンになるはずです。
── 富野監督から、何かオーダーはあったのですか? 安田 「売れるものにしてくれ」程度ですね。富野監督は策士なんです。「老人が口を挟むことじゃない、君らで考えて」と言いながら、僕らだけで話していると、必ず煮詰まりますよね。そこでバッと大鉈を振るうわけです。正しい戦術なので、我々が富野監督に勝つことは絶対にないですね(笑)。