アニメ業界ウォッチング第41回：“やさぐれた孫悟空”の中年らしい魅力を引き出す！　「西遊記ヒーロー・イズ・バック」日本語吹替制作監修、宮崎吾朗の語る3DCGアニメの魅力とは？

2018年01月07日 12:000

アニメ業界ウォッチング

企画記事

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二次創作で描きたくなるぐらい魅力的なキャラクターたち

── 今回、宮崎吾朗監督は日本語吹替監修というポジションですが、音響監督やアフレコ演出の方は、別にいらっしゃるんですね？

宮崎　そうです。最初の打ち合わせで「キャラクターの呼び名はこうしてほしい」と要望を出して、翻訳された台本をチェックして、キャストも候補の中から僕が選びました。その後、アフレコはもちろん、最後のミキシングまで立ち会いました。

── 斉天大聖（孫悟空）を演じるのは、咲野俊介さんですね。起用した理由を聞かせてください。

宮崎　やさぐれた感じを出せる人がいいと思ったんです。500年を経て復活した斉天大聖はカッコいいヒーローではあるけど、かつての力を取り戻せずにグレているわけです。昔はブイブイ言わせていたお兄ちゃんが、中年になって力を失っている。だけど、根はいいヤツ――そのイメージをいちばん出せるのは咲野さんだと思いました。単にカッコいい声を出せる方なら、ほかにも大勢いらっしゃいます。だけど、カッコいいと同時にやさぐれた雰囲気を出せるのは、咲野さんなんです。

── 他に「このキャストは印象的だった」という人はいますか？

宮崎　男の子（リュウアー）ですね。大人が演じてしまうと子供っぽさが出にくいし、子役は子役で難しい。声音がかわいいだけで舌ったらずだと、役になり切れないんです。ですから、リュウアーのキャスティングにいちばん時間がかかりました。他のキャストは、ベテランの声優さんたちで固めれば大丈夫だろう、と考えました。

── 意外と、リュウアーが大変だったんですね。

宮崎　それこそ、リュウアー役の羽村仁成くんが学校に行っている時間はアフレコしてもらえませんし（笑）、子供が集中できる時間って、大人ほど長くはないんです。羽村くんはアテレコが初めてだったので、録音演出の方が手とり足とり教えながら収録していったのですが、どんどん上手くなっていく。収録3日目ぐらいにはかなり上達していたので、最初に戻って録りなおしたりもしました。アフレコ全体は1週間ぐらい。悪のボスである“混沌”役の子安武人さんはベテランでお忙しいので、おひとりでスタジオに来ていただいて、収録しました。

── 「西遊記ヒーロー・イズ・バック」は海外の画像サイトを見ると、ファンアートや二次創作がとても多いんですよね。

宮崎　ええ、僕も見ました。すごくいっぱいあるんですよね（笑）。いま中国でアニメーションを見ている10～20代の若い人の感性に、やっとぴったり来る作品が出てきた……そういう感覚だと思うんです。たとえば「君の名は。」は日本の若い人たちに支持されましたよね。若い人に熱狂的に支持されると、中高年も気になって見にいく。そういう現象が「西遊記ヒーロー・イズ・バック」でも起きたんでしょう。中国アニメという視点で言うと、僕が知っているのは、とても昔の作品です。「牧笛」（1963年）ですとか……。

── CGなどない時代の水墨画アニメですね。

宮崎　中国アニメになじみがない僕でも、「西遊記ヒーロー・イズ・バック」にはグッときました。僕ら世代の中年男が見ると、あのクライマックスは本当に胸が熱くなる。半面、女性はどう思うんだろう……。

── 女性ファンは、大聖と混沌の関係を勘ぐってドキドキするらしんいですよ。

宮崎　ああ、二次創作して楽しんでいるわけですね。二次創作できるということは、キャラクター性の強い登場人物が揃っているということですよね。そういう点からも、若い人が若い人ならではの感覚で楽しめるアニメなんでしょう。日本的でもないしアメリカ的でもない表情のつけ方、思わぬシチュエーションで思わぬ表情のつけ方をする……その意外性が、とても魅力的なんです。