アニメ業界ウォッチング第41回:“やさぐれた孫悟空”の中年らしい魅力を引き出す! 「西遊記 ヒーロー・イズ・バック」日本語吹替制作監修、宮崎吾朗の語る3DCGアニメの魅力とは?

2018年01月07日 12:000

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表現から逃げないことで生き生きとした“肉体性”を獲得する


── 宮崎監督は3DCGによるTVアニメ「山賊の娘ローニャ」(2014年)を監督されていましたよね。CGアニメのメリットはどこにあるのでしょう?

宮崎 キャラクターに、とことん芝居をさせられることが3DCGのメリットです。何か別のことをしながらセリフをしゃべるとか、振り向きながらしゃべる演技をセルアニメで描くのは、けっこう難しいんです。微妙な表情の変化も、手描きでは大変なんですけど、3DCGならヒョイッとできてしまう場合がある。それがメリットではないでしょうか。CG特有のエフェクトだとか、派手なカメラワークには、僕はあまり魅力を感じません。古典的なカットワークだとしても、お芝居をきっちりと見せられるのが3DCGのよさだと思います。

── 3DCGだからこそ、繊細な日常芝居を見せられるわけですね?

宮崎 セルアニメで日常芝居をリアルに描こうとすると、「まず、このカットはどのアニメーターにお願いしようか?」と考えなくてはなりません。「山賊の娘ローニャ」で、フィックスの構図で長ゼリフをしゃべらせてみたら、十分に見られるんです。セルアニメ以上に3DCGのほうがお芝居に向いていると感じました。


── では、3DCGは宮崎監督にとっては強いツールなわけですね?

宮崎 「ローニャ」の時は、3DCGのアニメーターたちは日常芝居をやる機会が少ないので、面白がって取り組んでくれました。ただ、3DCGの世界に入ってくる人材は二極化していて、ゲーム系のフォトリアルな絵柄か、ピクサー系のデフォルメされた絵を模倣しているかのどちらかです。そして、世界中を見渡してみたら、アジアでもヨーロッパでも似たような3DCGだらけになっている。そういう実情を知った後に「西遊記 ヒーロー・イズ・バック」を見たので、とても新鮮に感じたわけです。
というのは、東アジアからアメリカの有名なスタジオまで行って3DCGの勉強をして、母国に帰ってスタジオをつくると、たいていの場合、演技がアメリカナイズされているんです。その点、田暁鵬監督は海外に外注したりもせず、こつこつ中国の国内のみでつくってきたので、アメリカナイズされていない“自分の表現”になっている。そこにも感心させられました。「西遊記 ヒーロー・イズ・バック」で、主人公のリュウアーが女の子を抱えたまま、ワンカットで1分以上、走り続けるんです。「こんな大変なカット、ひとりで作ったら半年はかかりますよね?」と聞いたら、「最初のアニメーターは1か月でやめて、その後、6人ぐらいで入れかわり立ちかわり、半年かけて作りました」とのことでした 。

── ひとつのカットを6人でつくっているんですか!

宮崎 普通なら、歩留まりを考えてカット割を変えたり、どうすれば簡単にすませられるか逃げ道を考えるはずなんです。だけど、「西遊記 ヒーロー・イズ・バック」は困難な表現から逃げずに踏みとどまっている。怖いもの知らずなんです。その結果、肉体性を感じさせる生き生きとしたアクションになっている。ようするに、「そこまで苦労して動かしたいと思うかどうか」が大事なんだと思います 。


(取材・文/廣田恵介)


(C) 2015 October Animation Studio,HG Entertainment

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上映開始日: 2018年1月13日
(C) 2015 October Animation Studio,HG Entertainment

山賊の娘ローニャ

山賊の娘ローニャ

放送日: 2014年10月11日~2015年3月28日   制作会社: ポリゴン・ピクチュアズ
キャスト: 白石晴香、宇山玲加、関貴昭、野沢由香里、佐々木梅治、赤星昇一郎、西凜太朗、小川剛生、杉村憲司、島田岳洋、手塚祐介、姫野惠二、谷昌樹、土井美加、加藤沙織、遠藤ふき子
(C) NHK・NEP・Dwango, licensed by Saltkrakan AB, The Astrid Lindgren Company

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