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日常が壊れる瞬間と、それでも前向きに生きる人たち
── 「薄暮」は福島県いわき市が舞台ですね。2011年の東日本大震災のとき、山本監督は被災地にボランティアに行きましたし、被災地を舞台にしたチャリティアニメ「blossom」もありましたよね。やはり、震災の影響は大きかったのでしょうか? 山本 震災直後に福島県を舞台にした企画を考えていて、それは「真夜中のスーパー・ムーン」という小説にしました(月刊アニメディアに連載)。それが最初ありましたから、やり残すわけにはいかない。福島県を最後まで描き切りたい。「薄暮」自体は20年前の企画ですから、もちろん東北は関係ありませんでした。京都で見た田舎町のバス停がイメージソースだし、関西を舞台にするつもりでした。だけど、福島県をちゃんと描きたかったので、「薄暮」を(「blossom」「Wake Up, Girls!」に続く)“東北三部作”にドッキングさせたわけです。
震災の影響というと……阪神淡路大震災のときも、僕は自主制作アニメをつくっていたんです。震災というのは、日常が壊れる瞬間ですよね。それを目の当たりにしたとき、心が騒ぐことは間違いありません。日常が失われることに対して、興味があるんでしょうね。
── 東北大震災のときは、何度も東北に行かれていましたよね。 山本 ボランティアも含めれば、12回ぐらい行きました。
── その中で現地の方たちと会って、「日常が失われたことへの興味」と乖離する部分はありませんでしたか? 山本 岩手県大槌町、宮城県気仙沼市の方たちなどとボランティア活動で出会い、後から取材にも行きました。この前も福島県いわき市で被災した方に、お会いしてきました。誰もが現実を引き裂かれ、家族もコミュニティも引き裂かれているわけです。でも、おおらかなんです。東北の方たち独特の心性なのかも知れませんが、「しょうがないか」と、受け入れてしまうんですね。あれだけ大変な津波の被害にあったのに、「また家を建てるなら、やはり海辺がいい」という方もいらっしゃいました。感情が、憎悪やマイナスには向かわない。都会では、あり得ない感覚ですよね。お年寄りは「今ある環境の中で、粛々と暮らすよ」という態度、家族のいる方は風評にさらされても、前を向いていますよね。毅然としています。その東北人の強さに、僕は興味をもっているのかもしれません。東北へ行って嫌な思いをしたことは、一度もありませんから。
福島県に暮らす思春期の女の子と、その母親にも取材したのですが、やはり若い人のほうが受けている傷は大きい。大人は理性を保って立ち向かうけど、子供は感情が追いつかない。それを「薄暮」にどのようにフィードバックしようか、とても悩んでいます。
── すると今は、東北の人たちに興味が強いわけですね? 山本 そうですね。事象を描くよりは、人間を描くことに興味がシフトしていますね。そこに生きている人間に魅力を感じています。