アニメ業界ウォッチング第40回:美術監督・秋山健太郎が語る「はいからさんが通る」の美術の秘密、手描き背景の面白さ

2017年12月09日 15:000

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1枚ずつ手で描いたほうが、背景は“絵的”になる


秋山 先ほど、背景を白くトバしてキャラクターを印象づけると言いましたが、それは主に屋外のシーンです。屋内のシーンは逆に、見た人に手で触れられる感覚が伝わるよう、少し質感を表現するようにしました。

── 屋内の調度品とキャラクターのからみが大事なわけですね?

秋山 それもありますが、屋内のシーンで背景を白くしすぎると、見ている側が落ち着かなくなってしまうというか、たとえるなら、回想シーンのように見えてしまう。スタイル優先、イメージ優先の作品ならそれでもいいのですが、「はいからさんが通る」は少し違うように思いまして、見た人が不自然さを感じすぎない程度に、室内と屋外の描き分けを行いました。

── 今回は、ピンクを各所に使っているとのことですが?

秋山 桜のイメージがあるからかもしれませんが、僕にとって「はいからさんが通る」はピンクのイメージがあったので、隠し味として入れてあります。ですので、影色や空間表現にピンクを使っています。ブルーを空間色に使うことはよくあるのですが、少女漫画らしさを意識してピンクを使っています。よく見ないとわからないかも知れませんが、青空の下のほうがちょっとピンクがかっていたりとか、雲の影にピンクが使ってあったり、建物の影にしても最初にピンクを塗っておいてから固有色を塗ったりしています。その、“わずかに使う”ところがポイントかなと思っています。強いピンクにしなくても、映画を見る人の意識に何となく刷り込まれていくのではと考えました。


── 室内のシーンでは、畳が多く出てきますが?

秋山 畳などは、最近のテレビ作品だと素材としてコピペしたりするのですが、本作ではワンカットずつ手で描きました。昔の作品では当たり前に手描きしていたので、僕が偉そうに言うことではないのですが……。当初は密度を上げるためと時間短縮のため、畳は素材を貼り付けようと考えていました。だけど、畳の素材を貼ると情報量は上がるのですが省略がしづらく、結果的に均一な印象になってしまったので、作品の雰囲気に合わないと思い止めました。

── 単調になってしまいがちなのですね?

秋山 畳は代表的な例ですが、デジタルでもグラデーションをかけて強弱をつけることはできるのですが、自分たちの場合、デジタルで描くと単調な印象になってしまいました。手描きなら、表情の変化を出しやすくなります。切り貼りよりは手間がかかりますが、1枚ずつ描いたほうが自然になるというか、“絵的”になるんです。画面の外に向かって、だんだん密度が薄くなっていくとか、キャラクターが畳の上に座っているなら、その周辺は密度を濃くして描いたり変化をつけたり、カットごとのコントロールが効きやすかったです。

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上映開始日: 2017年11月11日   制作会社: 日本アニメーション
(C) 大和和紀・講談社/劇場版「はいからさんが通る」製作委員会

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